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第三話


 電話をかけて数コール。繋がると、まずは「Mode Secret」を選択してから話し始める。このモードにすると、妙に緊張する。


「もしもし、義姉(おねえ)ちゃん?」


「......。」


 通話には出ているはずなのだが、音の一つもしない。


「あれ、義姉ちゃ━━」


「スーーレーーーィッ!!!!!! 義姉ちゃんだよ、愛しの義妹(いもうと)〜!」


 息を大きく吸うかのような音が聞こえた後、食い気味に「Mode Secret」が意味あるのか分からないくらいの爆声が貫いてくる。これでも総理なのだが。


「......切っていい?」


「ご、ごめんってば。それで、このモードにして通話なんて、どうしたの?今日の配信を中断したことは聞いたけど......」


 割と真面目な話なので声色(こわいろ)を変える。義姉は意図を汲み取り、聞く姿勢になる。


「そうなの......覚悟して聞いてね。実は━━」


 念押しして、そこからスーレィは義姉に今日の出来事をありのまま話し始める。

 少女を保護していること。その少女が、獣耳(けもみみ)を持っていること。伝えたのはこの2つだけだが、義姉の反応は困惑を隠せていない。


 「......にわかには信じがたいけど、そうなんだろうね......あの回線で写真送れる?」


「ん、わかった。ちょっと待っててね」


 一度通話は保留にし、寝室に向かう。静かにドアを開けると、少女は滾々(こんこん)と眠っていた。

その様子を、顔がよく見えるように撮り、秘密回線で義姉に送る。今は会談で中國に居るが、傍受(ぼうじゅ)される不安はない。そして部屋を後にし保留を切ると、「なにこの子......」と第一声。


「うん。もちろん国家機密でしょ?」


「これは......そうだね。大臣クラスまでにしておくよ。とりあえず、これからどうするの?」


 一瞬頭を巡らせ、「うん。それでお願い。とりあえず傷を癒やして、あの子から信頼を得たら、N I B B(基礎生物学研究所) に生物学的な解析をしてもらおうと思うよ。一週間は休みを入れといたから。一応アポ入れておいてくれない?」


「そしたら私達も関わりやすくなるって魂胆(こんたん)ね、おっけーわかった。......その子をどうするつもり?」


 規模の大きい話があっさりと進んでいく。義姉は最後に、逃せない質問をする。


「ん〜......まだ分からない。とりあえず保護下におく。くらいとしか......笑」


 ここだけは曖昧にせざるをえず、苦笑(くしょう)する。義姉も「まあそうだよね......とりあえず分かった。何が起こるかわからないけど、スーレィなら大丈夫。また何かあったら連絡してね〜」と返す。


「うん! ありがとう義姉ちゃん! ばいばい!」


「うん。またね〜!」


 こうして最も大事なことが話し終わる。スーレィはひとまず少女の扱いに関して強力な権利と責任を得た。しかし他人というのは不安の根源だ。まだ言葉が通じるのかも分からない。


「まずは信頼獲得かぁ......」


 電話を終え、ようやくお風呂に入れる。されどスーレィの頭の中は少女をどうするかでいっぱいであった。湯船に使っても、ご飯を食べても不安。そんな想いの消えぬまま寝室へと向かう。部屋に入ると、まだ少女は眠っていた。傷つき、疲れ果てていた少女には、これくらいの睡眠が必要なのだろう。そうスーレィは結論づけた。


 先程は不安であったが、スーレィはその様子を見て、ふと、「かわいい......」と漏らしてしまう。数十年前の小説でしか見なかった存在が、今目の前にいる。たとえ傷ついていても、布団で安らいでいる。スーレィはそんな少女の様子を見て、不安がほぐれた気がした。意外と大丈夫なのかもしれない、そう思える。


 布団で寝るつもりだったが、少し毛布を上げて、自分も少女の隣に寝転ぶ。静寂の間に、少女の寝息だけが音を立てる。


「そういえば私、人と寝るの久々なんだったっけ......」


 ふとそう思い返し、少女を見つめる。奇異な見た目のはずなのに、何故だろう。


「安心して、眠ってくれているんだ......」


 そう思ってしまう。多幸感に包まれる。心がぽかぽかする。

 スーレィは、少女につられるように、床の布団で寝ることも忘れ、眠りに落ちていった。


 ◇ ◇ ◇


 深夜。街灯の光のみが部屋に入り、寝息が部屋に響くのみ。


「う......ん......」


 布団がかすかに動き、少女は目覚める。長い眠りですっかり重くなった(まぶた)を開く。


━━ここ、どこ?これ、なに?あったかい......━━


 自分が無事なのかすらしばらく分からずにいると、段々目が冴えていく。


━━この人、だれなの......?あ、おみず......━━


 段々と記憶が湧き上がってくる。自分は洞穴(ほらあな)に入り、奥に抜けたところで倒れていたこと。

人が来たと思い、何もできずにいたら、見つかってしまい、生きることを諦めたこと。けれど、その人は水を与えてくれたこと。そして今、目の前で眠っている人はその人であること。


━━たすけて、くれたひと?━━


 なんでたすけてくれたのだろう。どうして今目の前で眠っているのだろう。謎は深まるばかりである。


「......んゅ......」


 ......悪い人には見えない。少女は少し、目の前の人を怪しがったが、やがて再び布団のあたたかさに包まれると、また眠りに落ちていった。

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