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第二話


 車に揺られること1時間と30分。スーレィも疲れで少し眠ってしまう。起きたのは、家に到着したことを知らせる音が鳴ったからだ。


「んっ、ん〜……よしっ」


 目覚めると、スーレィは少し身体を伸ばす。凝り固まった身体が、ぱっと動く気力を取り戻す。車を降りるとまず家に入り、荷物を置いて再び車へと引き返した。


「……。」


 そしてぐっすりと眠る少女を一瞥(いちべつ)する。あれからある程度は土を落とし、傷にも処置はした。今も静かに寝息を立てているが、頰、脚、そして破れた服の隙間から痛々しく傷が覗き、目を逸らしたくなる。


「んしょっ.......」


 気持ちを切り替え、少女を起こさぬよう、そっと抱きかかえ、家の中に運ぶ。はだけた布に巻かれた足を、床に着かないよう、慎重にリビングのソファに浮かせて置く。


「すー……っ……」


「ひとまずよしっ。そしたら……」


 少女は未だに寝息を立てている。

 スーレィはその様子に少し安堵(あんど)すると、まず玄関と車に遠隔操作で鍵をかけ、先に置いていた荷物を持って、二階の寝室へ向かう。


「今日、疲れて帰ってくるのを見越して用意してたのが、まさかこんな形で役に立つなんてね……」


 とぼやきながら、着くとまず荷物を置き、山で飲ませた水を机に置くと、ささっとベッドを整え、布団も敷く。勿論ベッドに寝るのは少女だ。

 早速ベッドに連れていきたいが、まずは少女を綺麗にしなければならない。


「あるかなあるかな…… ラッキー! あったあった」


 記憶を頼りに、クローゼットの奥から、少女に合いそうな着替えを引っ張り出す。それを洗面所に持っていき、バスタオルなども用意して少女を洗う準備をする。


 かくして準備は整った。まったく自ら、人の為に何かをする時、疲れは感じないものだ。

 しかし不安が一つ。それは少女がいつ起きるかである。リビングに戻ると、まだ少女は眠っている。いや、眠っているというより、意識を手放しているようだった。また優しく抱きかかえ、洗面所に向かう。

 

「よいしょ......」


 神経を集中させ、少女の肌、特に傷に()れないよう、はだけた布を外していく。隠れた傷が(あらわ)になり、思わず眼を閉じたくなる。


━━でも、いちばんつらいのは......


 幾度(いくど)もそう心に鞭打(むちう)ち、外し終わると、浴室に入って少女を座らせる。シャワーを自分の手にかけ、ぬるま湯が出るまで待つと、「じゃあ、がんばって......」と、ゆっくりかけ始める。


 まずは足元から。傷に多くはかけないようにしつつ、土や泥を落としていく。 流れていく水は濁り、少女がどれだけ汚れていたかをよく示す。順に上へ上へと洗い流す場所を上げていき、遂に髪に至る。大きな獣耳(けもみみ)に水が入らないようにしながら、手で、優しく、撫でるように、汚れで固まった髪を、マッサージするように、ほぐしていく。


「いいこいいこ......もうちょっと......」


 流れる水はだんだん澄んでいく。浴室にはただ、水が(したた)り落ちる音、そして少女の寝息だけが、生きている(あかし)のようにかすかに響いていた。このままなら本当は洗剤を使いたいが、傷に染み込むと痛みが少女を襲うため、今は使わないでおく。


 すっかりきれいになった身体に再び目を向けると、傷も鮮明になる。相も変わらず痛々しいが、多少マシになったようにも見える。

 

「よくできました♪ さ、上がろっか......」


 無事洗い流すことができ、こちらもホッとすると、またそっと抱きかかえる。浴室から出ると、バスタオルで包むように、また擦らないように水を吸い取っていく。ついでにお風呂を沸かし始める。


 そうして少女に着替えまで着させることができた。ここまで長かった。神経を使った。されど最後まで油断してはならない。

 スーレィは、そう気が抜けそうになるのを必死にこらえると、寝室に運び、ベッドにそっと置く。


「おつかれさま......! 今日は、もう休んでね......また、明日! おやすみ......♪」


 ベッドの素材は身体を包み込む。少女を天使の羽で護るように布団もかけてやる。聞こえる訳もないが、おやすみを告げ、寝室を後にする。

 

「......はぁ......」


 リビングのソファに倒れ込むように座ると、無事に終えられた達成感と、忘れていた疲労が(よみがえ)り、大きな一息となって口から出る。ひとまず安静にさせられたが、まだまだ不安は多い。


 ━━あの子はどこから?そしてなぜあそこに?栄養状態は?━━問えば問うほど、心に暗い影が募る。


 そうしていると、ふとスマホが震えた。そうだ。あれ以来スマホなど見る(いとま)もなく、何も発信していなかった。スーレィは不安からの逃げ口を見つけたようにスマホをいじり、すぐさま返信や投稿をする。ひとまず文章で無事を伝え、心配した友人に社交的に感謝を述べる。


 急速に戻る日常。気づけばスーレィはいつも通り秘書と予定確認までしていた。そしてスーレィはそこで決断した。一週間ほど休むことにします。」と送信する。


 大きな予定変更。しかし秘書は伊達ではない。既にAIと調整プランは組まれており、ほぼ(とどこお)りは生じない。最後にその一週間で予約していた各所にスーレィ自身で詫びを入れると、事務的な話は終わりを告げる。


 疲れはある。だが最後に最も話を練りたい人に、スーレィは電話をかけ始めた。

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