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第二十八章

ドベルに魅了されたコリンの頼みを叶えるため、私はドベルと共に浅い森を探索していた。


こうなった経緯は単純で、首都へ帰ったコリンが森のような生活は無理だとしても、ドベルのような存在が身近にあればと考えたためである。


彼だけの意思でそれが叶う環境ではなく、様々な根回しを行い、彼が使役獣を連れ歩く許可を取り付けた。

環境は整えられ、必要な座学も可能だが、肝心の使役獣は魔物を捕獲する専門の傭兵に頼む必要があった。


今回は私に直接、『ドベルと気の合う子が良いね。そうしたら森にも連れて行けるでしょう』と親友コリンから頼まれたのである。


「マッドドッグは居ますが、ドベルとは気が合いませんね」

「んー」


イリスやハルと同じく獲物を主食にするドベルの方が体格は大きい。


しかし、野生のマッドドッグは見た目通り非常に獰猛で、ドベルが何を思っているかは不明だが、これまで見かけた同族達とは気が合わない様子で、お互い低く唸り、牙を剥き出し威嚇し合い、にらみ合いから乱闘へと発展する。


「イリスに頼る訳にも行きませんからね」

「ん」


ドベルを拾って、いや、咥えて来たのはワイバーンだった頃のイリスである。しかし今は飛竜となり、浅い森を闊歩することで、マッドドッグのような浅い森を住みかにする弱い魔物達は姿を現さない。


それだけなら良いが、浅い森の近くには人里があるため、逃げた魔物が人里へ向かえば大惨事となり、取り返しがつかなくなる。


そのため、森に影響しない場所で二体の竜のどちらかに送迎を頼み、ドベルと共に浅い森を歩き探索を続けている。


「群れの反応ですね。マッドドッグであれば良いのですけど」

「んー」


地道な探索が続き、ドベルの友となりそうなマッドドッグ探しは、緊張感が薄く、浅い森での夜営も野遊びの延長のように感じられる。


「この森にはいませんね。ハルを呼ぶので離れた人里に向かいましょう」

「ん」


こうして幾つかの目ぼしい浅い森での野遊びを繰り返し、菜園の世話と収穫を挟みながら、ドベルは留守の間に増えた生き物が居ないか森を巡回し、間引きをしていた。


日常と同時進行で行われる探索も、それだけ歳月をかけて行ったのである。


「ンンン」

「んーんー」


まるで生き別れた友だったかのように相性の良いマッドドッグが漸く見つかった。


過去の観察記録によれば、ドベルは群れに属さない「ぼっち」の可能性があるとされていたが、その推測は正しかった。


群れを成す同族ではなく、ドベルが牙を向かずに尾を緩く振りながら歩み寄ったのは、単独行動をしていた痩せたマッドドッグであった。


「この記録はありませんね。もしかすると当時のドベルも、この子のように痩せていた可能性があります」

「ンンン」

「んん」


私の観察に熱心な態度が若干怯えさせたようだが、ドベルは「大丈夫」と態度で示している。


「取りあえず、まずは健康な身体。そして安心して休める環境ですね」


この子に必要なことから始め、環境が整ったら調教に進む計画を立て、森の我が家へと戻った。


「言葉は解らないでしょうし、ドベル頼みましたよ?」

「ん!」


迎えにきたイリスに怯え、白目を剥いて口から泡を吹き失神してしまった気弱なマッドドッグを抱き、急いで森へ戻った。


当分は何もせず、ドベルに世話を任せることにした。


『コリン、取りあえず見つけましたが、痩せているのでまずは健康な身体に整え、暮らしに慣らすことから始めます。

それと相当気弱な気質ですが、どうしますか? 他を探すことも可能ですが』


『いいよ、その子で。問題ないから、ゆっくり整えてあげて』


『解りました。ただ、呼び名が無いと不便なので、決めていたら教えて貰えませんか?』


『良いよ、用意した名はテンバ。そう呼んであげてくれる?』


『テンバですね。名前負けしないようドベルのように大きく育てます』


『うん、お任せします。宜しくね』


警護としては不安もあり、この子で良いのか確認のためにコリンへ通信を繋げたが、余計な心配だったようだ。


このやり取りも古い記憶に重なる。脳裏に浮かぶ恩師の顔。コリンは私のように物事を正確に記憶する魔法は持たない。

普段の言動から、忘れている古い記憶も少なくない。


以前、森での生活を知らぬような言葉に内心驚いたが、表情には出さず、記録として当時をありのまま語る私が異質なのだと思うことにした。


それに記録していないことは、私であっても忘れていることがあるだろう。今のコリンが忘れたことは多くとも、本来の性格はそのままなので、何も問題はない。


「テンバー。ドベルー。行きますよ」

「ンン」 「ん」


体力作りのため、朝と夕の散歩を行う。ドベルの巡回にもテンバは同行しているため、私との散歩では人と並び歩く調教も兼ねている。


良い見本があるので、テンバの覚えも早い。もう少し肉付きが良くなると、本格的な調教へ段階的に進むが、焦らず観察を続けている。


竜に怯えたテンバも、ハルの優しさに触れ、失神することはなくなった。

しかし、イリスに対しては竜という存在よりも、彼女独自の特性に未だに怯えている。


テンバが危険にさらされることはないが、ドベルとイリスの日常は独特で、結界を活かした胆が冷える遊びも存在する。


人が小粒に見える高さのある塔の天辺から、イリスは器用に体制を変えて背に乗っていたドベルをその高さから落とす。


下には跳ねる素材を敷いた地上用の遊具があり、衝撃を軽減しつつ再び跳ね上がることを目的としている。


うまく中央に落下すると、ドベルは空高く跳ね上がる。

二体が楽しそうにしているので叱らず見守る私であるが、まさかあの遊具を使い、独自の遊びを考案するとは驚きだった。


それを見て失神したテンバを介抱した記憶は、魔物の生態を観察し組合に提出している内容には書かず、私だけの大切な記憶として刻まれた。


「慣れるしかありませね」


その記録を書斎となった書庫の部屋で書物として残すために書いた後、口から思わず漏れたのであった。


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