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第二十七章

森の我が家周辺の話になるが、家のある中心部は、飛行種の巨体が二体と私、さらに私よりも一回り大きな地上生活の一体が主に活動する拠点である。


そのため建物は堅牢に造られ、広くゆとりを持たせて区画が配置されている。


三体が同時に身体を動かせる遊技場や、森を一望できる見晴らしの塔が幾つも聳え立ち、さらに休憩所も塔の上に整えられ、彼らが快適に過ごせる環境が整っている。


建築物の材質は森で採取できる堅木や鉱石を利用し、自然の循環に負担をかけないよう設計されているため、人工物でありながら森の景観と調和している。


森の緑に抱かれるように存在する建築群は、遠目には自然の延長に見えるほどであった。


そこから望める山の斜面には、幾重にも段をなした段々畑が広がり、季節の移ろいに応じて陽光を浴びる作物の葉が光を反射し、鮮やかな緑の帯となって連なっている。


南部を代表する名産品と同じ種類の作物が、気候の異なる森の中でも成長できるように栽培技術が工夫され、温度や湿度を調節する建物で囲われたマンゴー畑が規則正しく並んでいる。


その規模は南部に負けないほど広大で、出荷に十分な量を誇り、一帯が果実の楽園と呼ぶにふさわしい光景を呈している。太陽光は天蓋を透過し、葉群の間を縫って畑を温め、夜間は地熱を利用して冷気を和らげる仕組みも備わっている。


これらは自然エネルギー利用の典型例であり、人工燃料に依存せずに気候を安定化させる工夫である。


農地と家は一本の道で繋がれており、視覚的に範囲を区分けする役割を果たす。

上り道を進めば甘い香りの漂うマンゴー畑が広がり、逆に下ると稲作を行うための田畑が現れる。


水田には清らかな小川から水が引かれ、常に一定の水位が保たれるよう工夫されている。


他にも三体が嗜好品として愛する果樹園や、果物専用の園が点在し、広さは控えめながら品種改良のための実験畑。


香辛料や調味料の原料となる作物を季節ごとに作付けする畑地帯も整備されている。


畑ごとに風向や日照時間を計算し、自然エネルギーを最大限に活用している点が特徴である。これは現代で言えばパーマカルチャー農法に近く、自然の仕組みを壊さず利用する知恵である。


この広大な領域は元々、飛竜や風竜の縄張りであったため、深い森で本来なら魔物の活動領域である。しかし現在、魔物による被害はほとんどない。


森には大型魔物の影響が及ばないため、動物や小型・中型の魔獣が必要な数だけ生息し、生態系を維持している。


使役獣ドベルが過剰繁殖を防ぐため巡回と駆除を行い、均衡を保っている。また、風竜ハルが一帯に加護を施しており、農作物は外敵や病害から守られている。


自然の姿を残した森と、人為的に整えられた農園が共存し、持続可能な環境が築かれているのだ。


「民家がないだけで大規模な農村だね」


「取れる恵みを消費するのが、あの三体だからね。人に供給する量を超えているよ」


なぜ、住み慣れた我が家の周辺のことを今更細かく説明したかと言えば、コリンが遊びに来ていたからだ。


私の意識で使う言語ではなく、彼が理解できる範囲で簡単な説明をし、案内をしたのである。


彼は動きやすい軽装に帽子をかぶり、強い夏の昼光を避けつつ、私と共に農園を散策していた。


湿り気を帯びた風が稲田を揺らし、甘酸っぱい果樹の香りを運んでくる。コリンの言葉通り、ここは民家こそ一軒しかないが、大規模農村さながらの景観である。


農園の作業を見回る私のために点在する休憩所も存在するが、それらは農作業の合間に涼を取る東屋であり、生活の拠点ではない。


「ここで休んでから家に帰ろう」


私はその一つの東屋にコリンを誘い、空調魔道具を起動させた。腰に提げたパーチ型魔法鞄から冷やした果実水を取り出し、景色を眺めながら一息つく。


コリンに勧めた飲み物は自家栽培の果実を原料としたもので、レモンと蜜柑を混合し、爽快な酸味とすっきりとした甘味が調和した清涼感ある味わいである。


人里の市から得た農作物もあるが、規模が大きくなるにつれ、家庭菜園で収穫できる作物が食卓を飾る料理に使われる割合が増えた。


東屋の木陰に差し込む光が揺らぎ、透明な器の中で氷片がきらめいた。


「美味しいね」


「土産に持たせますよ。私用に確保している分がありますので」


一杯目を飲み干したコリンは自然と二杯目を求め、その表情には満足の色が浮かんでいた。

本心から美味しいと感じているのが伝わり、言葉の裏に温かな感情が滲んでいた。


「はは、何か良いね。この暮らしも楽しそうだ」


「まあ、この森で暮らしていた歴も長いので、肌に馴染むのでしょうね」


「―そうか。今じゃ環境が真逆な首都暮らしに慣れて、すっかり忘れていたよ」


私は森に根を下ろし、コリンは大陸最大の都市である首都に暮らす。

生活の形は大きく異なるが、共に長命であるため、時間感覚や価値観の変化について語れば自然と共感が生まれる。


「お互い長く生きてるからね。200年を過ぎるとこれまでの価値が変わると、600年生きる先輩から聞いたよ」


「私も身近にいる先輩たちから同じことを言われたな。昔は一つ一つの出来事を重大に扱っていた気がしますが…」


コリンは遠くを見つめ、懐かしむように言葉をこぼした。


「私も同じです。探求する気持ちはありますが、過去は過去と割り切るようになりました。多分、長く生きる種族が精神に負担を抱えないよう、本能として備わった気質なのだと最近は考えています」


「面白い見解だね。私もその研究をしてみようかな」


私が観察記録から導いた考えに、コリンは強い興味を示した。

彼は治癒を得意とし第一線で活動しているため、こうした知見は実務においても大きな価値があるのだろう。


「ドベルを見ていたら、私もマッドドッグを使役したくなってくるね」


「まあ、見た目は凶悪ですが、調教すれば性格は温厚で従順になります。そして健気さがあってね。

愛玩使役獣としてもおすすめですよ。外見は威圧的でも、コリンのような立場なら警護として即戦力になるでしょう」


常に人に囲まれ、大きな屋敷で暮らすコリンにとって、本音を語れる存在が不在であるなら、ドベルのような使役獣はきっと心の支えとなる。


私自身はただ可愛がるだけになったが、他の魔物使いが使役するマッドドッグは傭兵を援護し討伐に挑む姿を見せる。


勇敢な戦闘のさなかでも健気さは変わらず、私のドベルのように大型犬に似た愛嬌を見せることもある。


コリンはすっかりドベルを気に入り、滞在中は毎朝農園を散歩していた。


「運動不足の解消だ」と笑いながら、自身よりも大きなドベルを連れて歩く姿は、既に日常に溶け込んでいるかのようであった。


「また遊びに来るよ。ドベルもまた散歩しような。

イリス、あんまり困らせるなよ?ハル、ネオンベルベへ送ってくれ」


それぞれに別れを告げ、ここで取れる作物とそれらを加工した物を自分用の土産として私と揃いのパーチに納めた後、片道半日という速度の飛行能力を持つ風竜ハルの送迎に託し、コリンは短い休息日の帰省を終えて実家の森を後にした。


長寿種族の「また」は、普通なら数年、数十年の時を経た口約束。


私たちの「また」は、そう遠い時を経ず叶うのだ。


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