第二十三章
今回の旅の目的は、行方のわからぬハルの盟友である元主、デベスへの進化報告である。ハルが念で今の風竜となった姿を見せたいという意思を汲み、私とイリス、ドベルも旅に同行している。
空の旅の先頭を務めるのは風竜となったハル。その後方には飛竜のイリスと、その背に乗るドベルと私という布陣が整う。人間から得られる情報はなく、ハルが空からデベスの気配を探すのだ。人からすれば途方もない、効率の悪い探索に思えるかもしれない。
しかし、風竜となったハルの能力、そして私に託されるまでの彼等の関係性を鑑みれば、この方法が最も短距離で効率的である。ハルは人の気配を察知し上空を旋回して「ここには尋ね人はいない」と判断すると、次に近い人里へ向かう。
夜目が効かないため、竜二体が休息できる平野に降りて夜営し、朝が来ると再び近隣の人里を目指す。この繰り返しで探索を行ってきたが、森の我が家から広範囲に探した約二か月の間には、デベスの姿は確認されなかった。
デベスはこれまでに得た財を用いて豪邸を建てたが、本人の口から手放すと聞いていた通り、気配は完全に消えていた。
常に魔物との戦闘が日常であった辺境で育ち、少年時代にハルと出会った彼は、飛行種を操ることで当時の運用が運搬中心であったことに納得せず、傭兵の最高位であるプラチナにハルと共に上り詰めたいと足掻いた。
その望みは叶い、今もなお彼は飛行種を巧みに操る英雄として語り継がれ、ハルも使役獣の王としてその存在と影響を残している。その暮らしは傭兵引退と共に、これまでの様な争いから身を引き、体験したことの無い穏やかな日常を新たな冒険として私に告げたのだった。
ハルは大きな街であろうと決して見落とすことなく、デベスの気配を探り続ける。農村では期待を込めて旋回し確認するのだが、
「流石に徒歩ではないと思いますが……相当な距離ですね」
「ギョイ~」
円形で拡大する探索だが、飛行種を持つ友人の力を頼り、遠方の土地に移ったとしても、邸宅のあった街からは相当離れている。喉かで自然豊かな浅い森に囲まれた平和な村も期待を持ったが、そこにも居ない。ここまで来ると、デベスの眼鏡に叶う土地が逆に気になるのだ。
ハルもまた、これまでの理想通りの人里に居ない理由は盟友としても理解できず、気持ちが飛んでくる。探索はハルに委ね、私は口出しせず見守るのみである。
そんな旅の途中、問題を起こす者もいる。もちろんイリスだ。
「まだなん?」「能無し」とハルに邪念を飛ばす。しかしハルは一枚上手であり、好物の魔物に興味を向ける。
「そんな事言わずに……あっイリスさん、美味しい魔物ですよ」
「うひょーねえ、ネアム良い?」
隣に座るドベルは念が通じないため表情を見ると、呆れていることだけは分かる。
魔物との対話は実に楽しい。ドベルも上位になる可能性はあるが、留守が役目となっているためか、進化の兆しは見えないのが残念でならない。
「ドベルは何故進化しないのでしょうね」
「んー」
進化に必要な要素として、①格上との対戦経験、②格上が持つ魔力を含んだ食事がある。ドベルはイリスとのじゃれ合いで①をクリア、②も同様の食事でクリアしているが、マッドドッグには別の進化条件があるのかもしれない。首を傾げるドベルの仕草は愛らしいが、外見は凶暴な大型犬の如く、初見の者は後ずさりするほどである。
組合との情報交換は続けているものの、進化した使役獣はイリスとハルのみであり、私がまとめた記録を基に試行錯誤している状況で、新たな結果や試せる情報もない。
今もまた、イリスの鬱憤が晴れるまで、ハルはその場でホバリングし待機。器用に咀嚼しながら追従するイリスを残念そうな目で見守り、私は「行きましょう」と促す。
面白い旅であり、良い仲間を得たことを誇らしく思う今日この頃である。
「ん」




