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第十五章

あれからデベスの納得がいくまで、私との契約は続いていた。彼らは中位から高位へと魔物の格を段階的に上げ、私が許可を与えたうえで、さらに奥地――高位のみが苛烈な生存競争を繰り広げる領域へと足を踏み入れていった。そこは森の深奥で、陽光もわずかしか届かず、湿った空気の中に緊張感が張り詰めていた。


「ハル…任せた」

「クヒ」


意思を伝える言葉は短くとも、そこには揺るぎない信頼が込められていた。ハルはこれまで積み重ねてきた経験を生かし、デベスの望む飛行を行う。下方には巨体を持つ地竜――竜種でありながら飛翔はできず、土属性の魔法を自在に操る厄介な相手がいた。硬い鱗を持つそれは、手こずると地面を隆起させたり、岩槍や砂流を生み出したりと、形を変えた攻撃を次々と繰り出してくる。


だが、ハルはデベスの魔法を信じ、急所を彼に見やすくするため敢えて速度を上げ、土魔法の嵐を巧みに回避した。疲労が溜まる前に、デベスはその隙を見逃さず急所へ魔法を撃ち込み、地竜に深い傷を刻んだ。


「よっしゃぁ!」

「クヒ!」


地上で轟いた雄叫びを耳にし、私はイリスと共に高度を下げる。デベスが片手を掲げる合図に従い、倒れ伏した地竜の亡骸を私のパーチへと収めた。森の風が湿り気を帯びて吹き抜け、血の匂いが混ざりながらも清涼な空気に溶けていく。


連戦を想定したデベスは、上位魔物の肉を切り分け、ハルへ補給させた。自らも栄養価の高い固形食を口にし、水袋から水分を補う。ハルは食後、背へ飛び乗るよう合図を送り、さらに遠征に出ると仮定して夜営地への帰還を想定し、残り何体、どの種類を狩るかまで考えを巡らせていた。デベスが与えた指示を、今や言われずとも刷り込まれたかのように実行していた。


「ハルは夜営地ですが、イリスは美味しい魔物ですよね?」

「ギャギャ~」


バレたか、とでも言っていそうなイリスの声色だった。ハルの行動は主を思い、無事に帰すことを第一にする典型的な使役獣の在り方だが、イリスの場合は目的そのものが上位の魔力を多量に宿した魔物の味覚であった。その道草のため遠征は毎回大幅に遅れたが、それを咎めなかったのは、私が長寿ゆえ「急ぐこともない」と思える性質を持つからだろう。


正反対の性格を持つ使役獣たち。しかしこれまでの観察からも、より強き魔物との経験と実績こそが進化の鍵であると、私はハルの体格の変化を見て確信を深めていった。


飛行種の上位であるイリスと同じ飛竜。炎を吐く火竜。小山ほどの大きさを誇る大魔亀。他にも幾多の大型魔物を相手にし、時に苦戦し撤退もした。だが、最後に挑んだ火竜との幾度もの戦いで、ついに怪我を負いながらもその巨体を魔法で撃ち落とした瞬間、私との契約は終わりを告げた。


「師匠…長い間、本当にありがとうございました」

「いいえ、私も楽しかったので」


火竜を落とした日の夜営。デベスは地に額を擦り付けるように頭を下げ、感謝の言葉を告げた。頭を上げさせれば、涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになっており、私は汚れ分解の魔法をかけてから彼を落ち着かせた。


「まだ、敵わない魔物は当然います。でも、冒険したなぁ~って、火竜が堕ちた時に思えたっす」


彼がかつて口にした「冒険がしたい」という言葉。それは、私の過去の恩師が語った言葉とも重なり、この契約に至った理由を私は改めて思い出した。いつの間にか、その初心を忘れていたのだ。


「まだまだ俺とハルの冒険は続きます。でも、もう俺らやれそうな気がするっす。自信が持てました」

「良かった。頑張りなさい」


うっす、と彼らしい短い返事。これまでに討伐した魔物の素材は、私への謝礼だと譲らぬ姿勢を見せたため、私は代わりに渡す魔道具を幾つか思案していた。



---


翌朝。長らく留守にしていた森の家へ帰還する。長い留守を任せたドベルが待っている。湿った朝霧の中、幾度かイリスの好物を狩り、ハルも肩慣らしにこれまでより弱い魔物を討ったが、その連携をイリスに誇示するかのように見せつけていた。


「ギャギャ?」

「クヒ~クヒ~」


何やら二匹だけに通じるやり取り――「なんだてめぇ?」「ごめんなさい~」とでも聞こえる不思議な応酬があった。


「ドベル、戻りました」

「んんん」


ドベルは縄張りを誇示するように庭へ魔物を積み上げており、その前で「見ろ」とばかりに顔を向ける。ハルもそこへ歩み寄り共に眺め、イリスは鼻で笑いながら褒美の獲物を咥えてお気に入りのねぐらへ戻っていった。ドベルには土産として、ハルと揃いの竜種の肉を与えた。


久しぶりの我が家。デベスも嬉しそうに私を急かし、中へ誘った。この光景ももう見納めかと思うと、胸に切なさが込み上げてくるのだった。




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