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第十三章

デベスが使役しているハル。ハルが主導して見せる連携の序盤は以前に比べて格段に良くなったが、問題の核心はデベス自身にあった。


聞けば、彼がハルを拾ったのは偶然に過ぎず、元々ワイバーンを飼い慣らし、乗りこなしたいという強い願望があったわけではなかったらしい。


「師匠に言ったっすけど、俺が生まれた辺境って、深い森に近くてワイバーンも空を飛び回ってて、毎日どっかで魔法がバンバン撃たれてたんすね」


彼の言葉に、私は頷いた。人の文明圏から離れた辺境地帯では、自然のエネルギーが強く渦巻いており、魔力も大気に濃く漂う。その結果、野生の魔物同士の小競り合いや、傭兵や魔術師たちの小規模な戦闘が頻発する。そうした環境に生まれ育ったデベスにとって、それは日常の光景だったのだろう。



---


訓練を終えた後は、魔道具の分解機構により衣服や身体の汚れこそ消え去るが、疲労そのものは残る。そこで私は、魔力を帯びた鉱石を利用して温度を一定に保つ浴場へと彼を案内した。湯には回復効果を持つ薬草のエキスを溶かし込み、微弱な魔力の流れが全身を包み込むようにして疲労を癒す仕組みだ。


その後、作り置きや街で買い揃えた料理を温め直し、夕食を取らせた。煮込み肉の温かな香りが室内に漂い、木製の食卓に並んだ皿からは、湯気と共に食欲をそそる匂いが立ち上る。庭では、ハルがその日の狩りの獲物をドベルと並んで食べていた。噛み砕く音が夜の静寂に響く。イリスには別の褒美を与えてあり、彼女はそれを口に咥え、ねぐらで楽しむように夜が来る前に家へと帰って行った。



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「そんでバンバン撃たれる魔法で怪我したハルを見つけて匿ってたっす」

「攻撃とかはされなかったんですか?」

「最初は暴れたけど、怪我も酷くて怖くなかったんで、俺が狩った魔物を食わせたら何か懐いた?っす」


聞く限り、幼体ですらないワイバーンがここまで従順になった過程は、信じがたいほど短い。

(それであの連携が出来る……やはり相当な知能を持っているに違いないですね)



---


「でしたら、ハルはイリスに任せてみませんか?」

「イリスに……ですか?」

「厳しい事を言いますが、ハルより問題なのはデベス、あなたですね」


私の言葉に、彼は手にしていた肉を落とし、開いた口のまま固まった。驚愕と動揺の入り混じる表情を浮かべたが、やがて契約書の条項を思い出したのか、素直に受け止め、やる気を取り戻したようだった。契約には「言葉に従うこと」と明記されている。



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「では、イリス、ハルの訓練を頼みました」

「ギャギャ~」

「…」


イリスの鳴き声は「ついて来い」とでも言うようで、その後をハルが子分のように追従する。親子ほどの体格差のある二体の飛行種が空へと舞い上がる姿は、光に照らされ幻想的だった。



---


「魔物を狩ればイリス達が持ち帰るので、デベスはここで魔法の鍛練ですね」

「はい!」


彼の基礎技術は辺境仕込みだけあって筋が良い。しかし効率性に欠け、派手な魔法を多用する傾向があった。結果として素材を損ねることが多かったため、私は派手さを抑えた地味な調整を繰り返させた。杖を手放し、魔力の流れを直接制御する練習を課す。



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「この杖は何か思い入れは?」

「無いっす。かっこよかったから買ったっす」


美的感覚は人それぞれだが、私が鑑定するとその杖は威力増幅に特化しており、むしろデベスの欠点を助長する代物だった。許可を得て中身を解体・改造し、複合属性に対応させる仕組みに組み直した。彼は回復以外の全属性を扱えると判明し、その多才さを活かす形で調整したのだ。


今回の作業は全て無償とした。かつて私がヴァイスに無償で育ててもらった恩を、若き日の彼を思わせる面影を持つデベスへ返す気持ちでいるからだ。


結果がどうなるかはデベスとハル次第だが、どちらも確かな才能を秘めている。その成長を見守りながら、私自身も今の穏やかな暮らしを悪くないと感じ始めていた。



---


数ヶ月に及ぶ鍛練。繰り返しの調整と反復により、デベスの魔法は無駄なく洗練され、ハルはイリスから飛行の術を学び、滑らかで正確な動きへと変貌した。


そして私は、次なる段階を告げた。

――いよいよ、デベスがハルに乗り、遠征を兼ねた大規模な遠出を行う時だと。



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