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第十一章

私の傭兵組合の活動は、魔物素材を組合へ卸すことだけで成り立っている。長い年月をかけて築いた、何の制約もない信頼関係によって成り立つものだ。


そんな私をよく知る最寄りの支部に、この日は足を運んでいた。夏は海で過ごすことが私の法則であり、三ヶ月以上訪れていなかった。イリスのご馳走である上位の魔物肉の仕入れのついでに、貯まっていた卸せる魔物も持ち込むつもりだったのだ。


街の通りには初秋の柔らかな陽光が差し込み、商人や通行人のざわめきが穏やかに街全体を包んでいた。


「ちわっす!」


「お久しぶりですね、デベスさん」


「そんな、他人みたいに扱わないでよ!」


他人ではあるが、彼が言いたいのは以前、物資の運搬を共にした仲だろう。デベスは少し照れくさそうに笑い、肩をすくめる仕草を見せた。


「それで、どうしました?」


「まあ、いいや。俺…弟子になりたいっす」


「どんな?」


「いや、よくわかんねぇっす」


よくわからないまま弟子にしてほしいというデベスに、話を聞いてやればいいと援護する支部長。


「じゃあ、そうしましょうか」


最寄りの支部がある街の酒場で、支部長も同席し、三人で話すことになった。イリスは既に自分のねぐらに帰っている。笛を吹けば、最寄りの街であれば届くと気づいてからは、飛竜である彼女は街道の邪魔にならないよう、森で待つようになっていた。


デベスは少し落ち着かない様子で椅子に腰掛け、手を組み合わせて指を回している。


「具体的には、どんな自分になりたいとかでしょうか?」


「そう、それっす」


「ハルはどうでしょう?」


「あー見えてやる気はあるっす」


イリスとは真逆の気質だが、イリスにおちょくられるドベルの姿に、ハルが重なる未来図が脳裏に浮かぶ。


「ワイバーン便?だったすよね。それよりも冒険がしたくって!」


懐かしい言葉だ。恩師ヴァイスが酔うと「冒険がしてぇんだ!」と声を荒げていた。デベスは目を輝かせ、勢いで拳を握ったまま身を乗り出す。


(彼の冒険の旅がここへ通じたんでしたね)


今でも強く残る棺の中の目を閉じた顔ではなく、今のデベスのように、当時の生き生きとした姿で語っている若い頃のヴァイスの顔が思い出せた。私の胸には、ほのかな温かさと遠くの思い出の残照が広がる。


「お互い傭兵ですから、手の内を他に漏らさないと約束できるなら良いでしょう」


しばらく考えた後の言葉は、ヴァイスの言葉がデベスに重なったせいか思いつきだ。


「よっしゃ!俺、口だけは固いっす!」


とは言っても、信じられる関係性ではないので、持ち歩いている契約効果のある用紙に私の希望と彼の希望を書き込み、魔力を込めた。うっすらと光る紙に文字が浮かび、やがて消えていく。デベスは目を丸くし、息をのんだ後に、緊張と興奮が混ざった笑みをこぼした。


「守れなければ、関係は破綻。それだけでなく、お互いに罰則がありますのでお気をつけて」


「ネアム君らしいね。デベス君、頑張って」


「おおう!俺は口が固いんだ!」


魔法を使った契約が初めてだったのだろう。少し怖じ気づくが、復活して拳を突き出す。表情には決意とわずかなはにかみが混ざり、見ているこちらも思わず肩の力が抜けた。


デベスの希望は、ハルを鍛える訓練の指南と、デベス本人の狩りへの指南。今は私と同じシルバーだが、ワイバーン乗りとして目指すは最高のプラチナだという。


仲間と組んでやることも考えたが、今回の指南はデベスとハルの限界がどこまでなのか見極めてほしいというものだ。デベスは少し胸を張り、目をきらきらと輝かせて期待を滲ませる。


「支部長、デベスの方も私のように、依頼ではなく持ち込む素材の評価に変えてもらえますか?」


「そうだね、構わないよ。私が援護しちゃったしね」


支部長にも責任を取らせようと巻き込んだが、話の分かる彼だ。通常の依頼が邪魔だろうと、魔物素材のみでシルバーの評価維持、今回の期間中だけの特例が許可された。


「持つべき者は権力者ですね」


「そこは権力者の友と言ってほしいよ」


酒場に笑い声が響き、街路を渡る初秋の風が木の葉をそよがせた。通りには買い物客や街人のざわめきが柔らかく広がり、日差しは黄昏に向けて少し橙色を帯び始める。


酒場を出て用意があると、私は一度家に帰ると説明した。デベスとハルは街で待機し、用意ができたら迎えに来るという。


デベスは少し不安げに目を泳がせつつも、決意の光を瞳に宿している。その余韻は、初秋の柔らかい陽光とともに街に溶け込んでいた。


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