第十章
冬が終わり、春になった。森には淡い緑が芽吹き、空気には柔らかな日差しが混ざる。小鳥のさえずりが枝を渡り、雪解け水のせせらぎが穏やかに響くこの日は、久しぶりにコリンが数十年ぶりに我が家を訪れていた。
変わり果てた我が家に呆れた表情を見せつつも、魔道具を作る趣味や、孤児の頃からの互いの成長を喜び支え合った仲であるため、他の者のような感嘆はない。
「私の家にもこれが欲しいよ」
「別に良いですよ。予備があるので」
彼の家はこれまで幾度か転居を繰り返している。国の権威を得るようになった初期は、一人で管理できる規模の家で暮らしていたが、時の流れと国王との関わりから、断れない規模の屋敷が与えられたらしい。
「これなら私室のみに使える上に、ルーペでは看破できませんからね」
「そうなんだよ……」
身分に相応しい世話を受けている様子だ。コリンにとっても、元我が家である森の一軒家は、イリスにより二度破壊され、飛竜となった彼女に耐える構造になっている。
内部も魔道具が自動・半自動で稼働し、研究体質の私が快適に暮らせるよう整えられていた。窓から差し込む陽光が床に影を落とし、柔らかな風がカーテンを揺らす。春の森の香りが屋内にも流れ込み、心地よい静寂が満ちている。
コリンの休息日は今回は半月。夏に利用している海の家を今年は諦めざるを得ず、代わりに確保した長期休息日を帰省としてネオンベルベへ出て、我が家へと初めて戻ってきたのだ。
懐かしいのは森の風景であり、他は今を過ごす私やイリス、ドベルが暮らせるよう整えた景色だ。当時の古い家も収納されており、「見ますか?」と悪戯めいた問いを投げると、出すと当時の記憶が昨日のように蘇るらしく、コリンは目を細めていた。
「当時は、寿命の差がわかっていても、私が治癒できるって」
「ありましたね。そんなことも」
森の家を出る決意をした日から、ぽつぽつと思い出すことを話す。酒も少し飲むようになり、私の秘伝の酒で酔ったのか、いつもより饒舌になっていた。
「今でも、人と違う寿命から来る別れは辛いよ」
私も同じだから理解できる。しかし、彼は治癒師として、私よりも深くその痛みを感じているのだろう。
「ネアムはさ、どうしてるの?」
「私は諦めました」
「何それ?」と吹き出すコリン。避けられない自然の摂理に対し、私ごときがと茶化す。
「相変わらずだね。ありがとう、元気になったよ」
どうやら本当は気落ちしており、今回の帰省を確保したようだ。彼は未だ独身で、私の知らない友人との辛い別れがあったのだろう。
休息日最終日までは、ドベルやイリスと遊び、人里へ出ることはなく、森でのんびり過ごした。イリスが彼だけをネオンベルベへ送り届けた。彼が一人で乗りたいと希望したのだ。イリスは私たちの恩師ヴァイスの形見であり、彼女にだけ何か伝えたい思い出話があったのだろう。
「ギャギャギャギャ」
「んんんん」
帰還したイリスが今日もドベルをおちょくっている。私の深い考察など無意味だと感じた瞬間だった。
「んー」
雪解けでぬかるんだ場所へ突き飛ばされ、泥まみれのドベルが泣きついてくる。
「はい、大丈夫、イリス」
「ギュイ~」
反省する振りだけはうまい。春の森に笑い声が広がり、木々の間をそよぐ風と小鳥のさえずりが、静かに幸福なひとときを彩った。
このシリーズの一部について、ちょっとお知らせです。
宣伝など一切していないにもかかわらず、普段より多くの方が読んでくださったことに驚きました。
不思議に思って調べてみると、なんとレビューを書いてくださっている方がおりました。
素人の初投稿作品にもかかわらず、こうして目を留めていただけたことが信じられず、貴重な体験を噛み締めております。
ありがとうございます。




