初めての火の玉、焦げ跡は勲章?
魔法師エリク・ヴァルハルトのもとでの最初の授業。
緊張で手のひらはじんわり汗ばんでいる。火の玉を出すなんて、正直ちょっとビビる。
「さて、リリー嬢。まずは魔法の基礎から話そうかのう」
エリク先生はゆっくりと話し始める。
「この世界の魔法は大きく分けて五つの属性がある。火、水、風、光、そして闇じゃ。各属性はそれぞれ異なる性質を持ち、使い手の個性や適性によって力の強さも変わる」
「へえ、五つもあるんですね」
「そうじゃ。火の魔法はその名の通り熱と炎を操る力。攻撃にも防御にも使えるが、制御が難しい。水は癒しや清めの力、風は速さや攻撃の補助、光は浄化や回復、闇は隠密や妨害に優れる」
「全部覚えるのは大変そう……」
「だからこそ、自分に合った属性を見極め、まずは基礎をしっかり学ぶことが肝心じゃ」
先生は手をかざし、ゆっくりと指先を動かした。
「今回は火の魔法の初歩、『火の玉』を作る練習じゃ。手のひらに魔力を集め、それを熱エネルギーに変換して小さな炎の球を形作るのだ。力任せにすれば燃え広がる危険もあるから、繊細なコントロールが求められる」
「わかりました。魔力を熱に変えるんですね……難しそうだけど、がんばります」
私は深呼吸をして、手のひらをじっと見つめる。
魔力の流れを意識しながら、柔らかく包み込むように集中した。
すると……
ピチッ!
突然、指先から火花が散った。
「ぎゃっ!」
慌てて手を引っ込めると、小さな焦げ跡ができている。火花が暴走してしまったらしい。
「やっちゃいました……」
「初めは皆この焦げ跡を“魔法の勲章”と呼ぶものじゃよ」
先生の冗談に救われて、私は気を取り直す。
再度挑戦すると、今度はじんわり暖かくなり、ぽわんと光る小さな球体が手のひらに現れた。
「おお、いいぞ。次はその球体を丸く整えるのじゃ」
「丸くね、丸く……えいっ!」
しかし私の火の玉はイビツな楕円形。時折変な形に伸びて、まるで“焦げたマシュマロ”か“揺れるマリモ”のよう。
「これって私の頭の中みたい……」
思わずつぶやくと、先生がニヤリと笑う。
「形にも個性が出るのじゃ。お主の火の玉はユニークじゃな!」
笑いをこらえつつ、なんとか形を整えていく。
そして、ついにふんわり揺れる美しい球体が完成した。
「やった……できた!」
喜びのあまり声が震え、思わず膝をついて深々と礼をした。
「よくやった。焦げ跡は消せるから心配無用じゃ」
そう言われてほっと胸をなでおろす。
「これからだ。魔法は失敗と成功を繰り返しながら身につけていくものじゃ。焦らずゆっくりと歩んでいくのじゃよ」
私の心に小さな火種が灯った。失敗しても、焦げても、進めばいつか必ず美しい炎を灯せる。
そんな気がした。