表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/27

プロローグ

……いや、どこかで見たような、でも実際に来たことはない──

そんな不思議な感覚。

視界を覆う天蓋は繊細なレースに縁どられ、枕元には花の香り。

手に触れるシーツは絹のように滑らかで……ここが、少なくとも私の“自宅”でないことだけはすぐにわかった。

……あれ、私、死んだんだっけ?

目を開けたまま、そんな言葉が頭をよぎる。

たしかに私は、過労と睡眠不足でほぼ瀕死状態だった。

ブラック企業に魂を削られ、ろくに食事もせず、やっとの思いで帰宅した夜──

転んで頭を打った。

あれが、最後の記憶だ。

 

ぼんやりとした意識の中、頭の奥底から湧き上がる“知っているはずの世界”の景色。

この豪奢すぎる部屋。

高級そうなドレスを着た小さな身体。

そして──鏡に映った少女の姿。

藍色の髪。

薄紫の瞳。

氷のような美貌に、どこか冷ややかな雰囲気。

──これは、“リリサンドラ・ヴァレンティーナ”。

乙女ゲーム『ローズ・オブ・セレスティア』に登場する、悪役令嬢そのもの。

 

「……う、そ……でしょ……」

思わずこぼれた声は、前世の自分のそれより、ずっと幼くて澄んでいた。

信じたくない。でも、肌に触れる温度も、吐息も、すべてが現実を示していた。

私は今、悪役令嬢に転生してしまったのだ。

 

その瞬間、頭の中でパズルのピースがはまるように、断片的なゲームの記憶が蘇ってくる。

この世界では、ヒロインの恋路を邪魔する悪役として、最後には国外追放か、処刑が待っている──

どのルートでも、悪役令嬢に「救い」などなかった。

たしか、一番マシなエンディングで国外追放……。

「……冗談じゃない……!」

目の前が暗くなった。

私はのんびり人生をやり直すつもりだったのに、

なんでわざわざ“破滅ルート確定の役回り”なんかに転生しなきゃいけないのよ。

でも……でも、もう始まってしまったのなら、やるしかない。

せめて穏やかに、静かに──破滅だけは回避して、この世界を生き延びてみせる。

 

そんな決意を噛みしめた瞬間、部屋の扉がバン! と開いた。

「リリー! 目を覚ましたと聞いて──!」

まるで嵐のように飛び込んできたのは、まばゆい笑顔を浮かべる女性──リリーの母。

すぐあとに、お父様らしき男性も続いてきて、二人そろって私の枕元に駆け寄った。

「よかった……! よく頑張ったわね……!」

涙を浮かべる母に、私は思わず戸惑う。

まっすぐで、嘘のないその愛情に、胸がぎゅっとなった。

 

──ああ、そうか。

この子は、こんなにも愛されていたんだ。

そして、その愛を当然のものとして受け取っていたからこそ、

傲慢でワガママな“悪役令嬢”として育ってしまった。

 

「わたくし……ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした」

前世では絶対に口にしなかったであろう言葉を、静かに告げる。

すると両親はぽかんと目を丸くし、そして、ふっと柔らかな笑みを浮かべた。

「……今日はもう、何も考えなくていいわ。ゆっくり休みなさい」

「あなたの寝顔が見られれば、それでいいよ」

そっと額に口づけを落とされ、私は目を閉じた。

 

やり直しの人生は、想像以上に“あたたかい”。

だけど、ここはゲームの中。

一歩間違えれば、すべてが終わる世界だ。

私は“リリサンドラ・ヴァレンティーナ”として、破滅フラグをへし折るために生きる。

──自分だけの、幸せをつかむために。

 

これは、ある悪役令嬢の転生と、逆転の物語。


こういうのが読みたいって思ってたらいつの間にか書いてました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ