地獄の映画館2
俺たちが座る座席の付近まで来ると、陸が「俺、真ん中がいい」と真っ先に言ってきた。
はああああああああああああああ?
俺には、山田の心を堕とす作戦があるんだが。それに、やばいぞ。俺達が隣になると、モンスター山田にどんな妄想させられるかわからない。
【姉さんの隣は、俺が守る。こんな汚らわしいケダモノの隣に姉さんを座らせない】
このブラコンが!
【陸!!!やっぱりこういう男がタイプなのね。お姉ちゃん、命がけであなたの恋を応援するわ。あなたの恋を守るためなら、私は灰になってもいい】
そんなものに命かけるなよ‼
「あ、でも、その席は、前の人の身長が低いから、山田が座るべきじゃないかな」
俺は、そう提案した。
この3人の中では、身長が一番低いのは、山田だ。山田が真ん中に座る方が安全だ。山田の妄想も嫌だが、このブラコンモンスターの隣に座るのも嫌だった。
「映画なんてちょっとくらい見られなくても大丈夫よ」
俺の作戦は、うっかり手が当たった振りをして、山田の手に触れ、意識させる予定だった。それが、全て無駄になりそうだ。
こうして、ラブストーリーが始まった。
ストーリーは、平凡なヒロインが、学園の王子様と仲良くなり、恋に芽生えていく……というよくある奴である。
俺も予告や評判を確認していたから、特に変な映画ではなかったはずだ。
しかし、映画を見始めた俺は、致命的な間違いを犯したことに気がついた。
学園の王子様がヒロインに話しかける。
「俺のことを好きになれ、佐々木」
「陸君……」
頬を染めながら、彼を見つめるヒロイン。
オーマイガー!!!
俺は、今すぐ映画館を飛び出して、太陽に向かって走り続けたかった。
最悪だ。
最悪すぎる。
この映画、ヒロインの名前が佐々木で、メインヒーローの名前が陸だ。
どうしてこんな映画を選んでしまったんだ。失敗した。
山田からは、テンションMaxの思考が聞こえてくる。
【この映画、最高すぎるわ!!!テンションあがって、鼻血の大洪水が起こりそう。ヒロインの名前が佐々木で、メインヒーローの名前が陸だわ。これなら、二人を脳内で、佐々木君と弟の陸に置き換えられる。テンション上がり過ぎて、宇宙に飛んでいきそうだわ】
できれば、そのまま宇宙に行って永遠に戻らないでくれ。
「ねぇ、俺のこと好きになって」
メインヒーロー陸にキスをされるヒロイン佐々木。
それを見た山田の脳内は、パニック状態だった。
【まるで、佐々木君が陸にキスされているようだわ。『い、いや』と恥じらう佐々木君。けれども、『俺のものになれ』と壁ドンをしながら迫る陸。『お前俺のこと好きになって』と無理やりキスをされる佐々木君。ぶひいいいいいいいい。ごちそうさまです。ぶひぶひ】
もう山田は、言語が豚になっていた。
くそっ。貴様は人間か。
「あなたのこと好きかもしれない。だけど、わからない」
戸惑うヒロイン。
何で好きでもない男にキスさせたんだよ。
「絶対に佐々木を俺に惚れさせてみせる」
ヒロインを優しい目で見つめるメインヒーロー。
【ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。大事なことは、このヒロインを佐々木君、ヒーローを陸に置き換えること。それが大事。一番大事!!!】
大事じゃねぇよ!バカ野郎。
今すぐ滝修行でもして、煩悩を消してこい!