地獄の映画館1
【】が心の声です。
俺の名前は、佐々木 春。花園高校で学園の王子様と呼ばれていて、特別な存在だ。
俺は、生まれた時から人の思考が読める。そして、最近、同じクラスの山田 由梨の俺をBL対象にする思考に困っている。そこで、俺は、山田 由梨を惚れさせて、思考を変えさせることにした。
今回、俺が考えた作戦は、映画館に誘うという作戦だ。ここで、男×女の健全なラブストーリーを見て、山田に恋愛というのは男女でするものだということを意識させる作戦だ。そして、俺に惚れさせてみせる。
俺が、チケットが余っているからと映画に誘うと、山田は、オッケーをしてくれた。
ふっ。計画通り。
きっと山田は、その日、俺に惚れるに違いない!
日曜日。待ち合わせ場所に行って待っていると、山田がやってきた。
山田は、いつも通り黒髪の三つ編みに赤い縁の眼鏡というだっさい感じだが、いつもの制服と違って、紺色のワンピースを着ていた。
「ごめん。待った?」
「いや、今、来たところ。あれ?」
山田の隣にいる茶髪に茶色の目をした美少年が、彼女連れのように見えるのは気のせいだろうか。
いや、こいつ山田の隣に立っているよな。
「紹介するね。この子、私の弟なの」
その時、山田の心の声が聞こえてきた。
【佐々木君の未来の彼氏になるかもしれない男だから、連れてきちゃった。二人が、カップルになったら、私は間近でキスシーンを見られるのね。きゃあああ】
何でデートに弟連れてきているんだよ!
「はあ?俺ってチケット山田と俺の分しかないけど」
「だから、弟の分は、私が購入したの。紹介するね。山田 陸。中学2年生よ」
「……陸です」
彼が、そう挨拶すると陸の心の声が聞こえてきた。
【くっそ。何で姉さんに男ができているんだよ。ぜってぇ別れさせる】
なんかめっちゃめんどくさいの連れてきているじゃん。しかも、こいつ超シスコンそうだ。うわあああああああ。最悪だ。
「佐々木 春です」
「じゃあ、行こうか」
こうして、俺と山田とその弟の地獄の映画視聴が始まった。
上映されるスクリーンに行く途中、陸から話しかけられた。
「どうして姉さんを誘ったんですか」
【答えによっては、殺してやる。姉さんのためだ。仕方がない】
ひいいいいいいいいいいいいいいいいい。なんて物騒な弟を連れてきているんだよ。人間凶器じゃないか。
「え、えっと……チケットが余っていて……。たまたま近くにいた女子を誘っただけなんだ。深い意味はないよ」
「そうなんですね」
【嘘つけ。どうせ姉さんに対する下心があるくせに。姉さんに、あんなことやこんなことをしたいと思っているんだろう。このどすけべエロじじいが‼】
違う!エロいのは、君の姉さんの方だ。
俺を使って、あんなことやこんなことを考えてばかりなんだ。それをどうにかしたいだけなんだ。
それにじじいって……。俺まだ高校生だぞ。
【きゃあああ。陸と佐々木君が話しているわ。愛の芽生えを感じさせるすばらしい光景だわ。このまま二人が、映画館で発情期の猿みたいに盛り初めてしまったら、どうしましょう】
そんなことにならねぇよ!何考えているんだよ、このクソ女が。
お前を地中海に沈めてやりたい。
「実は、俺、姉さんとは、血が繋がっていないんですよ。親の再婚で家族になっただけで」
【よし。俺は、姉さんと結婚できるぞアピールをして、佐々木の恋心をへし折ってやる】
血が繋がってないだと⁉
まるで少女漫画みたいな設定だ!
「そうだったんですね……。でも、仲良しに見えます」
「いや、陸って私に冷たいのよ。いつもぶっきらぼうで」
こいつ、ツンデレかよ⁉陸の愛は、山田に全く伝わってないぞ。
【ち、違うんだ、姉さん。姉さんの前だと照れくさくて、上手く話せないだけなんだ。ああああああああああああああああああ。姉さんと上手く会話ができない俺を許してくれ。姉さんのまともに会話できないなんて、縛り首に値するはずかしい行為かもしれない】
陸は、そんなことを考えているが、彼はクールビューティーのまま顔を崩さなかった。
こいつ、無駄に演技力高いな……。
さすが山田の弟だ。
「陸も佐々木君の愛想の良さを見習えばいいのに」
【そうすれば、きっと素敵な彼氏もできるはず】
それを聞いた陸は、少しだけ険しい顔をした。
「余計なお世話だ」
【佐々木イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ。よくも姉さんから褒められたな。お前の手足の骨を全て折ってやりたい】
ひいいいいいいいいいいいいいいいいい。
怖い。怖すぎる。
俺、こんな奴らと一緒に映画を見ないといけないのか……。
最悪だ。