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下校5

「え?何だって!」

 佐々木君の顔がみるみるうちに青ざめていった。佐々木君が、人工呼吸をして何とかしてくれないかしら……とか考えている場合じゃなくて、早くAEDと心臓マッサージをしないといけない。

 この近くでAEDがありそうなところは思いつかないから、とりあえず応急措置にはいろう。

「大丈夫ですか?返事をしてください」

 まずは、呼びかける。返事はないから、気道確保をする。そして、心臓マッサージと人工呼吸を繰り返す。とりあえず心臓マッサージを済ました後、人工呼吸をしなければいけないことに気が付いた。

「佐々木君が、人工呼吸をしてくれない?こいつの鼻をつまんで、口に息を思いっきり吹き込むの」

「え……」

 さすがに、ちょっと動揺するか。いきなりキスとか、展開すっ飛ばしているかも。

 こんなのかファ―ストキスが嫌だろうし、やっぱり私がするしかないか。こんな見ず知らずのヤンキーに人工呼吸をしないといけないなんて、私も嫌だけど。

「やっぱりいいわ」

 そう言って、ヤンキーの鼻をつまんだ途端、「待って、俺がする」ときっぱりした声で言われた。

「え?」

 佐々木君は、驚いて固まっている私に目もくれず、不良少年に流れるように人工呼吸をした。そして、息を吹き込む。いや、人工呼吸ではない。私の目には、キスに見える。キスをした。キスをした。キスをした。

「ん?あれ、俺はどうしたんだろう?」

 王子のキスにより、不良は目を覚ました。

 パンパカパーンと私の頭でフィナーレが鳴り響く。

 私の人生は、きっとこの時のためにあったのね。もう、人生に満足した。ていうか、こんなに尊いものを見て、もう死にたいくらいの感動に包まれてしまう。そうだ。この幸せに包まれたまま死んでしまいたい。ちょっと今から死んでくる。

 いや、まだ死ぬわけにはいかない。私の心は、決まったわ。ねぇ、佐々木君。あなたを立派なBLのメインヒロインにしてみせる!新世界の愛のキューピットに私はなる!!

 そう考えていた時、佐々木君から街中で女子高校生の制服を着ている太ったおじさんでも見るような目をしていることに気が付いた。何その冷たい目……。マイナス五十度くらいかな。一体、どうしたんだろう。キスが嫌だったとかじゃないよね……。

「どうかしたの?」

「あ、ちょっと、考え事をしていて」

「そうなんだ」


 意識がはっきりしてきた不良は、私達の方を見るなり震えながら逃げ出した。きっと運命のキスにより、佐々木君に恋に落ちて、顔を見られるのが恥ずかしくなってしまって逃げたんだと思う。

 不良がいなくなってから、しばらく歩いているとすぐに私の家が見えてきた。

「じゃあ、私の家はもうすぐだから、この辺でお別れにしましょう」

「う、うん」

「じゃあね」

「……ばいばい」

 私は、何か言いたそうな佐々木君に背を向けて歩き出した。

「待って。まだ、行かないで」

 いきなり、腕を掴まれた。そして、そのまま壁に押し付けられる。佐々木君の右手は、私を逃がさないように壁に置かれている。

 え、え……。な、な、何で佐々木君が私に壁ドンをしているの?

 そっか、壁ドンじゃなくて、蚊でも殺そうとしたんじゃないかしら。

 不意に、佐々木君は色気を垂れ流すようにフッと笑った。そして、私の顎をクイッと持ち上げ、人形のように綺麗な顔を近づけてくる。

「俺、実は、前から山田さんのことが……」

 違う。違うわ、佐々木君。あなたが壁ドンをするべき相手は、私じゃなくて、私の隣に住んでいるチワワ系男子とかなのよ。お願い、目を覚まして。

 はっ。それとも、私を練習台につかっているの?いいのよ、私を踏み台にして。あなたは、BL界のスーパーヒーローにおなりなさい。

「……やっぱり何でもない。今日は、楽しかった。またね」

 何故か佐々木君の笑顔がひきつっている気がする。やっぱり私、相手では壁ドンをする気になれなかったのだろう。

「う、うん。また明日」

 私は、少しやつれた感じがする佐々木君に手を振って、家へ向かって歩き出した。

 今日は、妄想対象が側にいるせいか、いつも以上に妄想してしまったわ。もし、こんな妄想、誰かにばれていたら切腹でもするしかない。ポーカーフェイスは得意だし、そんなことあるわけないか。本当の私なんて誰にも見せない。誰もこんな気持ち悪い私を知らなくていい。

 どうか佐々木君に、素敵な彼氏ができますように。

 幸せそうな未来を想像しながら歩くだけで、心がフワフワとした気がした。


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