下校4
ふと、近くに不良がいることに気が付いた。年は、私たちと同じ高校生くらいだろうか。金髪をしていて、片方の耳にはピアスをつけている。佐々木君と恋愛フラグ立たないかなと考えていると、いきなり佐々木君に手を握られた。
「ヤバイっ。早く逃げないと」
別にカモにしようと狙いを定められたわけでもないのに、ヤンキーを見ただけで逃げるなんて、いくら何でも早すぎる気がする。やっぱり好きな人だから、逃げたくなるとかいうやつなのだろうか。
そんなことを考えている間にも、佐々木君は私の手を引っ張りながら、猛スピードで走っている。わけがわからない私も、必死で佐々木君を追いかける。
けれども、しばらく走っているうちに、行き止まりに来てしまった。
「しまった……」
佐々木君は、青ざめている。
すぐに私たちに追いついてきた不良が「おい、てめぇ。ちょっと面をかせ」と怒鳴りつけてきた。
キタコレ!これは、やっぱり不良攻め×優等生受けのパターンね。こんな風に不良と遭遇するなんて、きっと佐々木君には、男とフラグを立てる才能があるのね。
あら、やだ。この不良、ちょっと目つき悪いし、見た目が派手だけど、ちゃんとイケメンじゃない。佐々木君とお似合いだ。すんっばらしいわ。美と美のコラボレーション!あともうちょっと燃料があれば、鼻血を出しすぎて、出血多量で死亡してしまいそうだ。
不良といえば、やっぱりツンデレ受けが鉄板なのだと思う。そう、ツンデレ。『バッカじゃないの。お前なんて全然、好きじゃないし』といっていた奴が、『お前なんか、大好きだよ。バーカ』と進化することで究極の萌えを生み出すシステムだ。
「おい。てめぇら、お金をよこせ。じゃないと、この女を殴る」
何言っているの?あなたが欲しいのは、お金じゃなくて、佐々木君からの愛や情熱的なキスのくせに。
「い、今は、手持ちが全然なくて……」
佐々木君は、不良の剣幕にびびってしまったのか、震える手で財布を取りだした。
「もたもたするな!あるだけよこせ!」
「……はい」
「ちっ。千円しか入ってないのかよ。このバカ」
不良は、イライラしたのか、八つ当たりをするように佐々木君に向かって蹴り上げようとした。
「ふざけるなあああああああああああああ!」
ちゃんと佐々木君を口説きやがれ!あなたには、BLのメインヒーローとなる資格なんてないわ。
そんな思いを込めて殴ったせいか、通常よりも力がですぎて不良は吹っ飛んだ。
「え……。え、え……」
佐々木君は、呆然としながら吹っ飛ばされた不良を見ている。
「山田さんって何かスポーツとかやっていたの?」
「スポーツは、特にやっていない。ただ山奥で、おじいちゃんに鍛えられた経験があるだけだわ」
そのおじいちゃんが、クマを素手で倒せるほど強かったんだよな。夏休みの時に、よくわからない山田拳法を叩きこまれた。
「……そういうことか」
倒れたヤンキーは死んだようにピクリともしない。しかし、結果オーライだ。ここは、佐々木君に看病をさせよう。そうすれば、二人の間に愛が芽生えるはず。きっと二人は、白雪姫と王子様のように見つめ合うのよ。
「ねぇ、あのヤンキーかわいそうだわ。佐々木君、助けてあげて」
そんなに嫌そうな顔をしなくてもいいじゃない。佐々木君のバカ。
「……いや、でも、その人、俺達からお金をとろうとしていたし、助ける義理はないんじゃないかな」
佐々木君の言うことは、もっともだ。しかし、私は随分強く殴りすぎてしまった気がする。一応、救急車を呼ぶ必要があるか確認しなければいけない。とりあえず、脈を確認するか。そうやって、近づき脈をとったとき、あることに気が付いた。
「どうしよう。このヤンキーの心臓が止まっているわ。ちょっと強く殴りすぎちゃったみたい」
「え?何だって!」
佐々木君の顔がみるみるうちに青ざめていった。