異世界勇者とドラゴン討伐、お供はハンマーなレンチ!?
リゼの言葉に、俺の頭が一瞬フリーズした。ドラゴン? 討伐? さっきまでの地下基地の異様な雰囲気や、モニターに映るワームホールの地図で、なんとなく「ヤバいことになる」って予感はしてたけど、まさかこんな急展開とは思わなかった。
「ちょっと待て、お前! ドラゴンって、あのドラゴンか? 火を吐いて、翼があって、でかいトカゲみたいなやつ!?……マジで言ってんのか?」
俺が慌てて問い返すと、リゼはニヤリと笑ったまま、腰に下げていたガジェットを手に取り、何かを調整し始める。
「マジもマジ、大マジよ。でも、今回はワームホールに飛び込む必要はないわ。ディファレンツの仲間、フィリオが郊外でドラゴンと対峙中なの。」
「郊外? ドラゴンが東京の郊外に!?」
俺は目を丸くする。
「そう、そのドラゴン。まあ、向こうの世界のドラゴンは、火を吐くだけじゃなくて、ちょっとした厄介な能力を持ってる場合もあるけどね。で、どうする? 準備運動したかったんじゃないの、天野遊牙?」
「準備運動ってレベルじゃねえだろ! 俺、ただの高校生だぞ! ヤンキーならボコれるけど、ドラゴンとかどうすんだよ!」
「ふーん、ビビった?」
リゼは挑戦的な笑みを浮かべ、俺の肩を軽く叩く。
「夏休み、暇してたんでしょ? こんなチャンス、滅多にないわよ。ほら、行くわよ!」
その挑発が、俺の闘志に火を着ける。
「誰がビビったって? ドラゴンだろうが何だろうが、ぶっ倒してやる!」
「その意気よ、遊牙!」
リゼは満足げに頷き、地下基地の奥に進む。
「準備しなさい。装備が必要よ。」
「装備? 拳で十分だろ。」
俺は拳を握り、軽く構えてみせる。
「モンクじゃないんだから、拳でドラゴンは無理よ。ほら、こっち!」
リゼに促され、俺は武器庫らしき部屋に連れていかれる。そこには、歯車やパイプが組み合わさったスチームパンク風の武器やガジェットがずらりと並んでいた。銃、剣、果ては機械仕掛けの義手みたいなものまで。
「これ、全部ディファレンツの装備?」
俺は呆然と呟く。
「そうよ。どんな状況にも対応できるようにね。でも、あんたにはこれで十分かな……」
リゼは、腰のベルトからレンチを投げ渡すと、空中で巨大化する。俺が慌てて両腕を使ってキャッチすると、意外と軽いがそれでも少し重い。それによく見ると、ただのレンチじゃない。見た目は、ただのレンチの様に見えるが、巨大化するとレンチの持ち手部分だった所の横にレバー付きの持ち手が追加されていた。表面には歯車が埋め込まれ、先端には青く光るエネルギーコアが嵌ってる。
「なんだこれ? レンチ? ハンマー?」
「両方よ。私の世界の技術で作られた多機能ツール。名前は『クロウリーレンチ』。叩く、締める、壊す、なんでもできるわ。まあ、ドラゴン相手にどこまで通用するかは、あんたの腕次第だけどね。」
「マジかよ……これでドラゴンと戦えってか!?」
俺はクロウリーレンチを手に持って振り回してみる。見た目はバカでかいが、握ると妙に手に馴染む。
「これでドラゴンぶっ叩けってか? いいぜ、気に入った!」
「気に入ったなら、さっさと行くわよ! フィリオが待ってる!」
リゼは自分のガジェットを腰に装着し、俺はヘルメットを手に取り、クロウリーレンチを肩に担ぎながら自分のバイクのところへと走って向かう。
「バイクでぶっ飛ばすぞ!」
「相乗りで行くの!?」
「ナビは頼むぜ?」
「わかったわよ。あと、それ横のスイッチ押せば元のサイズに戻るわよ。」
地下基地を出ると、夏の陽射しが再び俺たちを照らしつける。俺のバイクにリゼを後ろに乗せ、エンジンを唸らせながら郊外へと向かう。リゼのスチームパンクな衣装が風になびき、革のコルセットや歯車のパーツがキラキラと光る。後ろから聞こえる彼女の声は、風の音に負けないくらいハッキリしてる。
「フィリオからの通信だと、ドラゴンは中型! 体長10メートルくらいで、火は吐かないけど、尾の振動で衝撃波を飛ばしてくる! 鱗は硬いけど、関節部分が弱点よ!」
「10メートル!? 中型!?」
俺はヘルメットの中で叫ぶ。
「大型ってどんだけだよ!」
「20メートルとか? ま、今回は中型でラッキーよ!」
リゼはケロッとした声で答える。
「フィリオは一人で戦ってるから、急いで!」
アクセルを全開にし、バイクは東京の郊外、工場地帯へと突き進む。遠くに煙が上がってるのが見え、地面がゴゴゴと揺れるような振動が伝わってくる。あそこだ!
工場地帯の広場に着くと、巨大な灰色のドラゴンが咆哮を上げていた。10メートルはある巨体に、鋭い爪と牙、背中のトゲのような突起。尾を振り回すたびにゴウッと風圧が巻き起こり、近くの鉄骨が吹き飛ぶ。
そして、ドラゴンの前には、青いマントをなびかせ、まるでRPGの勇者のような姿の金髪の青年がいた。あれがフィリオなのだろう。右手には剣を、左手には盾を携せて、単身で立ち向かっていた。
「フィリオ! 援軍よ!」
リゼがバイクから飛び降り、ガジェットを構える。
「リゼット君! 遅いぞ!」
フィリオが叫ぶ。汗と埃で顔が汚れてるが、目は鋭く光ってる。
「このドラゴン、動きが速い! 注意しろ!」
「遊牙、右から回り込んで! フィリオは正面でドラゴンの注意を引いて! 私が左から牽制する!」
リゼが指示を飛ばす。
「あいよ!」
俺はバイクを停め、巨大化させたクロウリーレンチを握り直して走り出す。ドラゴンの尾が振り回され、衝撃波が飛んでくる。俺は咄嗟に地面に伏せ、コンクリートが砕ける音を聞きながらタイミングを見計らう。
「遊牙、行くわよ!」
リゼが叫び、ガジェットから青い光の弾を放つ。ビームみたいなそれがドラゴンの側面に命中し、爆発音と共に鱗が弾け飛ぶ。ドラゴンがリゼの方に振り返り、咆哮を上げながら突進する。
「今だ!」
フィリオが空高くジャンプすると、剣でドラゴンの鼻先を斬りつける。ドラゴンが怯んだ瞬間、俺は全力で駆け出し、クロウリーレンチを振り上げる。
「くらえっ!」
ドラゴンの前足の関節めがけてハンマーを叩き込む。ガキィン! と金属音のような衝撃音が響き、ハンマーのエネルギーコアが青く輝く。振動が関節を直撃し、鱗が砕け散る。
「グオオオ!」
ドラゴンが痛みに咆哮し、尾で反撃してくる。俺は横に飛び、衝撃波をギリギリ回避。
「いいよ、遊牙! もう一発!」
リゼが叫び、連続で光弾を放つ。フィリオも槍でドラゴンの動きを牽制し、俺にチャンスを作る。
「ハハハハ!ヤンキー狩りより全然ヤバいぜ!」
俺は笑いながらクロウリーレンチを構え直す。ドラゴの関節に狙いを定め、今度は全力で振り下ろす。ゴンッ! と鈍い音が響き、ドラゴの前足がガクンと折れる。
「効いてる!」
フィリオが叫び、ドラゴンの首元に斬撃を放つ。リゼの光弾が目を直撃し、動きが止まる。俺はトドメとばかりに、クロウリーレンチを振り上げ、ドラゴの顎に全力の一撃を叩き込んだ。
「オラァッ!」
バキィン! と音を立てて顎が砕け、ドラゴンの巨体がドスンと倒れる。地面が揺れ、砂埃が舞い上がる。ドラゴンは動かなくなった。
「ハァ……ハァ……やった、か?」
俺は息を切らしながらクロウリーレンチを地面に突き立てる。
「やるじゃない、遊牙!」
リゼが駆け寄り、満面の笑みを浮かべる。
「初陣でドラゴン討伐なんて、そうそういないわよ!」
「ふう、助かったよ。」
フィリオが剣を地面に突き立て、息を整えると、俺に向かって手を差し伸べる。
「フィリオ・モードリス。ディファレンツのメンバーだ。君が天野遊牙? リゼット君の話通り、なかなかやるな。」
「まあな……って知ってたのか。」
俺はニヤリと笑い、フィリオの手を握り返す。
「で、これで終わりか?」
「まだよ。」
リゼがデバイスを取り出し、画面をチェックする。
「このドラゴン、ワームホールから出てきたやつだから、近くにエネルギー源があるはず。それを破壊しないと、また出てくる。」
「エネルギー源?」
俺は眉をひそめる。
「『エーテルコア』っていうワームホールを開いてる魔力の結晶みたいなものよ。本来ならワームホールの先にあるんだけど、さっきのドラゴンみたいにワームホールを潜ってこっちに来る奴らは、決まってエーテルコアを外に持ち出してるのよ。」
リゼはデバイスを操作しながら答える。
「ほら、あそこ!」
工場地帯の奥、壊れた倉庫の近くに青く光る結晶が浮かんでいた。チカチカと点滅する、まるで浮遊するランタンみたいなやつだ。
「よし、じゃあそれぶっ壊せばいいんだな?」
俺はクロウリーレンチを担ぎ直す。
「単純でいいわね、遊牙。」
リゼは笑い、ガジェットを構える。
「でも、結晶には守護モンスターがいる場合が多いから、気をつけて。」
「またドラゴンかよ?」
俺は半分冗談で言うが、リゼの真剣な目つきに身構える。
「行こう!」
フィリオが剣と盾を構え直し、エーテルコアに向かう。俺とリゼも後に続く。エーテルコアに近づくと、地面がゴゴゴと揺れ、さっきの半分くらいの大きさの小型のドラゴンが2体現れた。鱗は薄いが、動きは素早い。
「ちっ、休む暇ねえな!」
俺はクロウリーレンチを振り回し、一体に突進。リゼの光弾とフィリオの剣が援護し、俺たちは息を合わせて小型ドラゴンを仕留める。
最後のドラゴンが倒れると、俺はエーテルコアに近づき、クロウリーレンチを振り上げる。
「これで終わりだ!」
ガシャン! とエーテルコアが砕け散り、青い光が爆発的に広がる。次の瞬間、工場地帯に漂っていた異様な空気が消え、ワームホールの気配がなくなった。
「ふう、終わった……!」
俺はクロウリーレンチを地面に置き、汗を拭う。
「ナイスよ、遊牙!」
リゼが笑顔でハイタッチを求めてくる。俺もニヤリと笑って応じ、フィリオが感心したように言う。
「あの動き素晴らしかったよ。一体どんな修行をしてきたんだ?」
「場数だよ、場数。」
「場数……場数か!」
「ふーん、まあいいわ。」
リゼはニヤリと笑い、デバイスをしまう。
「遊牙、さっき言ったよね?『面白そうだからついてく』って。だったら、ディファレンツの仕事、正式に手伝ってみない?」
「正式に? お前、俺を何だと思ってんだ? ただの高校生だぞ?」
「ただの高校生が、ドラゴンをぶっ倒せるわけないでしょ。」
リゼはウィンクし、バイクの方に歩き出す。
「入団には試験をしてもらう必要があるけど、報酬だって出るわよ?」
リゼはバイクに跨り、挑戦的な笑みを浮かべる。
「まあ、考えとく。」
俺は笑いながらヘルメットを被る。
「さ、帰るわよ! フィリオ、報告書は任せたから!」
「え、俺!? リゼット君、ずるいぞ!」
フィリオが叫ぶが、リゼは笑ってバイクの後ろに乗り込む。
「遊牙、ぶっ飛ばして!」
リゼが俺の背中に手を回す。俺はエンジンを唸らせ、バイクを走らせる。
「チッ、仕方ねえな!」
夏の風を切りながら、俺は胸の奥で高鳴る興奮を抑えきれなかった。ヤンキー狩りなんかより、よっぽどヤバい夏休みが始まった。