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黒猫

弱虫黒猫と焔のあくま

作者: 霧夜シオン


声劇台本:弱虫黒猫とほのおのあくま


作者:霧夜シオン


所要時間:約40分


必要演者数:4~5人


●はじめに

この台本は【弱虫黒猫と猫嫌いの魔女】の作中話になります。

ほぼ性別不問、または演者間で自由に割り振ってもかまわないですが、

基本的にこの台本は4人がベストです。

5人でやる場合は森の魔女役とナレが分かれますが、その場合、セリフバ

ランスが悪い可能性があるので、5人でやる場合はお好みで。

男性の方が魔女役を演じる場合、くれぐれもオネエ言葉にならないよう

各自で台詞や語尾の変換をお願いします。男魔女(ウォーロック。

決してウホッなものではないです。)というのがスコットランドやイギリ

ス北部に存在するので。

あと、漢字チェックはしっかりお願いします<m(__)m>


●備考

この台本はオニリム(Onirim)という悪夢の迷宮からの脱出を目的とした

ボードゲームを参考にしています。

(2023年に新版が出たのを忘れてて、所持してた旧版を参考に書きま

した。)



●登場人物


黒猫・♂♀不問:魔女の森に瀕死ひんしの重傷を負って迷い込んだところを、

        森に住む猫嫌いの魔女に拾われて使い魔の契約を結ぶ。

        魔力の素質を持っている。人間時の姿は10代後半。

          

森の魔女・♂♀不問:数百年を生きているが不死ではなく、不老なだけ。

          過去の出来事できごとのせいで猫が嫌いだが、ひょんな事か

          ら瀕死ひんしの黒猫を拾い、使い魔として育てることにな

          る。

          魔法は不得手ふえてで、魔法薬を作るのが得意。

          見た目20代後半~30代。

          ※作中では女性言葉なので、適宜てきぎ男性言葉に変換し

           て演じて下さい。


悪魔・♂:全身が炎に包まれた大きな悪魔。

     黒猫を捕まえようと襲ってくる。


???(イド)・♂♀不問:黒い霧のような姿をしている。

             どんな方法で言葉をつむいでいるのかは謎。

             黒猫に接触し、様々なアドバイスを与える。


ナレ・♂♀不問:ナレーション。雰囲気を大事に。



●配役例

【4人】

黒猫:

魔女・ナレ:

悪魔:

???(イド):


【5人】

黒猫:

魔女:

悪魔:

???(イド):

ナレ:


※黒猫とイドの配役性別は可能なら同じにしてください。



―――――――――――――――――――――――――――――――――


ナレ:中世当時、魔女たちは歴史の光と闇の狭間はざまで生きていた。

   表舞台で活躍する者もあれば、魔女裁判で罪無くして殺された者も

   多い。

   様々な魔女がいる中、大陸東部の森の奥に住んでいる者がいた。

   ひっそりと日々を送るのが信条だったのに、ある日大嫌いな猫が

   死にかけているのを助ける事になる。

   やがて家事や魔法を仕込もうとする魔女だったが、どうにも魔法だ

   けは物覚えが悪い。

   試行錯誤しこうさくごと悪戦苦闘を重ねている中、ある事件が起きる。

   そんな世界のどこかであったかもしれない、小さなおはなし。

      

   ――クリック?


全員:【元気よく】

   クラック!


黒猫:弱虫黒猫と焔のあくま。



―――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:森の魔女に助けられた黒猫は、使い魔の契約を結ぶと日々忙しく

   過ごしていた。

   その日も魔法薬に必要なキノコやら薬草やらを魔女に言われて集め

   、夜のけるまで精製せいせいの手伝いをしていた。


魔女:えーーっと…この素材をこっちに入れて…。


黒猫:ふわあああ……うー…ねむい…。


魔女:こらクソ猫!

   もう少しなんだから手を抜くんじゃないよ!


黒猫:【あくびしながら】

   ふわぁ~~い…。


魔女:まったく、作業を覚えて慣れたのはいいけど、緊張感が足りなくて

   困るさね…。


黒猫:ふぁ…、これを…混ぜて…っと…。

   …できたあ…!

   魔女様、言われた通りの、作りましたぁ。


魔女:ああ、それじゃそいつをこっちへよこしとくれ。

   お前はもう休みな。


黒猫:はあい。

   おやすみなさぁい。


   んぅ…? テーブルになんか落ちてる…。

   晩御飯ばんごはん、こぼしちゃってたかな?

   …。

   あむ。


   明日も早いし、早く寝ようっと…。


魔女:ええと、こっちの色が変化したらこいつを混ぜて…っと!

   ふう、上手くいったかね。


黒猫:寝る前に水飲んで……っあ、れ…?

   おなか痛い…吐き気も…。

   トイレ、行かなきゃ…!


魔女:さて、あとはこいつらをあっちのたなに寄せて…と。


黒猫:ッはあ、はあ…うっ、うぐっ!

   うええええっっ!!


   【二拍】


   げほ、げほっ…。

   うう…なんで…こんなに…?

   それに、すごく寒いし…くらくらすーー【倒れる】


魔女:~~ッッ!

   やれやれ、今日は魔法薬の調合ちょうごうばっかりで疲れたね。


【人が倒れるSEあれば】


   ?物音?

   何してんだい、クソ猫。


黒猫:う…うぅ……。


魔女:!!?ちょっと、床に倒れてどうしたんだい!?

   

黒猫:はあ、はあ…さ、さむいよぅ…おなかいたいよぅ…。

   うっ、げえぇっ!


魔女:しっかりおし!

   悪寒おかん嘔吐おうと…腹もくだしてる…熱も……!


黒猫:まじょ、さまぁ……。


魔女:ッまずい、意識が…それに変化へんげも…!

   クソ猫! 気を確かに持ちな!


黒猫:ぁ……っ…。


ナレ:どこか遠くで魔女の呼ぶ声を聞きながら、黒猫は苦痛のあまり意識

   を失った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――



???:おい……おい……。


黒猫:う…ん…。


???:おい、起きろ…。


黒猫:あれ…苦しくない…治ってる…?

   って、どこ、ここ…?


ナレ:誰かに何度も呼びかけられ、黒猫は目を覚ました。

   あたりを見回すが、自分の他に誰の姿もない。


???:やっと起きたか…。

    寝ぼすけにもほどがある。


黒猫:だ、だれ…!?


ナレ:見渡す限りうず高く積まれた本と、無数の本棚ほんだなが乱立している。

   寝起きと、ありえない風景に混乱している黒猫の耳に声がまた響い

   た。


???:はぁ…いちいち騒がしい奴だな、お前は。

    自分の周りをよく見ろ。


黒猫:まわり…?

   ッ、なにこの黒いきりみたいなの…!


???:それが私だ。


黒猫:え…き、きりなのにしゃべれるの…?


???:私の事はいい。

    そんなことより、奴が来るぞ!


黒猫:え、え? 奴って、だれ…?

   それにここは…。


???:説明しているひまは無い!

    さっさとこの世界から抜け出すんだ!


黒猫:この世界って、ッ!!? ひっ!?


ナレ:突然、目の前の大きな扉が轟音ごうおんと共にはじけ飛ぶ。

   扉があった空間から体をかがめて顔をのぞかせたのは、

   以前黒猫が魔女から借りて読んだ本にっていた、

   ほのおに全身がつつまれている悪魔だった。


悪魔:ウオオオオオッッッ!!

   ここにいたかァァ!


黒猫:ううわああああ!?

   あ、あれ、悪魔…!?


???:ちいッ!

    さっさと向こうの赤い扉をくぐって逃げろ!

    モタモタするな!


黒猫:っ、はあっ、はあっ、っ、くっ!

   か、かぎが…あかないよぅ!!


悪魔:おのれェ、逃ィがすかァ!!

      

???:やって来るのが早すぎだ!

    逃げながら探してるひまは無いか!


    “物質練成ぶっしつれんせい”! かぎ


    これを使え!ッ!


黒猫:あっ、う、うん!

   ッ! ッ!


悪魔:ガアアアアアアアッ!!

   死ねええええ!!


黒猫:ひいいいッ!!


ナレ:つかみかけた悪魔の手を間一髪かんいっぱつかわすと、黒猫はドアを開けて廊下ろうか

   駆け抜け、次の部屋へ逃げ込んだ。


???:やれやれ、ったくトロい奴め…。


黒猫:はあ、はあ…だ、だって、あんなのが出てくるなんて…びっくりし

   てすぐに動けなかったんだよぅ…。


???:…まあいい。

    よく聞け、お前はあの悪魔に捕まらないようにしてここから出な

    いといけない。

    それにはあと3つのかぎが必要だ。


黒猫:かぎが3つ…っその前に聞きたいんだけど…ここ、どこなの?

   それにキミは何者なの…?


???:ここはお前の夢の中の世界だ。

    私は…まあ、お前の味方であることには違いない。


黒猫:夢…?

   ボクの、夢の世界…?


???:そうだ。

    そしてあの悪魔はお前を狙ってる。

    ここでの死は現実での死となる。だから何としてでも生きびな

    ければならない。

    今は悪魔の外見がいけんで現れたが、次はどんな姿で来るか分からない。

    気を付けろ。


黒猫:う、うん…。

   じゃあ、キミは力を貸してくれるんだね?


???:ああ。

    【つぶやくように】

    お前に死なれても困るからな…。


黒猫:? なにか言った?


???:なんでもない。

    さあ、ぐずぐずしているひまはないぞ。

    夢の世界ってのは狭くもなるし、広くもなる。

    鍵を探し出せるかは、ある意味お前次第だぞ。


黒猫:え…さっきみたいに作れないの?

   時間があまりないなら、その方がいい気がするんだけど…。


???:あのな、私を便利屋か何かだと思ってるだろお前。

    “物質練成ぶっしつれんせい”は一回限りだ。

    他にも同じく一回ずつではあるが、もう二つほど行使できる能力

    がある。

    いざという時はそれを使って助けてやる。


黒猫:そうなんだ…。

   ところで、キミのことはなんて呼べばいいの?


???:私の事は好きに呼べ…だとまた時間を使うか。

    …イド、とでもしておくか。


黒猫:イド?

   あの水をむ?


???:違う!その井戸じゃない!

    ったく…まぁなんでもいい。

    そういうわけだから、キリキリ動け。


黒猫:う…や、やってみるよ…。

   今度はあの青い扉のかぎを見つければいいんだね?


???:ああ、かぎはこの部屋のどこかにあるはずだから、

    まずはそれを探し出せ。

    あまり時間はないぞ、手早くやれ。


黒猫:うん…。

   それで、あれって何?

   どこかで見た気がするんだけど…。


???:でかいのぞき遠眼鏡とおめがね望遠鏡ぼうえんきょうだ。

    多分、天文台てんもんだいだな。


黒猫:天文台てんもんだい…あ、思い出した。

   それも前に魔女様に教えてもらったんだ。

   図書館と同じだよ。


???:夢の世界ってのは、お前の記憶などをもとにして再現される。

    図書館も天文台てんもんだいも、魔女や本から見聞みききしたものを無意識に夢の

    世界として構築こうちくしたんだろう……ぅッ!?


【ドアを激しく乱打するSEあれば】


黒猫:ッ!? は、入ってきたとびらが!


悪魔:グウウオオオオッッッ!!

   開けろォ、ここを開けろォォ!!!


???:ちいっ、無駄話むだばなしが過ぎた!

    早くかぎを探せ! 捕まったら終わりだぞ!


黒猫:う、うん!

   でも、いったいどこに…!


???:よく探せ! 部屋の特徴とくちょうにヒントがあるはずだ!

    私は少しでも長く扉をたせる!!


ナレ:そう言うやイドは黒猫のそばを離れると、今しがた入ってきたとびら

   ノブにまとわりついた。

   それでおさえられているのか、とびら振動しんどうが少しだけ弱まる。


悪魔:おのれェェェェ!

   邪魔するなァァァァ!!!


黒猫:ヒント…ヒント…って、何を探せば…!

   あの本棚ほんだなとか…!?


悪魔:ええええい、砕けろォォォ!!

   ゴオオオアアアッッッ!!


???:ッくそ、この、馬鹿力ばかぢからめ…ッ!!


黒猫:この本でもない……!

   机の引き出しにもない…!!


悪魔:グゥァハハハハ!!!

   そうら、そうらァァ!!!

   もう少しだぞォォォォォ!!!


???:ッ早くしろ、このクソ猫!!

    もう…もたん!!


黒猫:!! そうだ、ここ、天文台てんもんだい…!

   てことは、あの望遠鏡ぼうえんきょうは……、


   あった!! 望遠鏡ぼうえんきょうにはめ込まれてる!!


悪魔:グウオオオォォォアアアアア!!!


???:く、くそっ、破られた!

    早くとびらを開けろ!!


悪魔:させるか! 死ねェェェェェイイイ!!!


黒猫:てっ、手が伸びて!!? うわあああああ!!!


???:ちいいッ!


    “予言の矛盾むじゅん”!!


    「当たった手は振り下ろされていない!!」


悪魔:!!!??

   馬鹿な!? おのれぇええええ!!!


黒猫:あれ、当たって、ない…?


???:何してる!

    さっさと行けッ!!


悪魔:ッ!

   おぅい、黒猫ォ…待てよォ…さっきまでのはおどかしただけだァ…。

   こっちへ来いよォ…話をしよう…。


黒猫:え…?


???:猫なで声にだまされるな!

    早く次の部屋に入れ!!


黒猫:う、うんッ!


悪魔:グウウウ、このままではすまさんぞォォォ!!


ナレ:間一髪かんいっぱつ、黒猫はまたも悪魔の手から逃れると、青いとびらの向こうへ逃げ

   込んだ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:いっぽう、現実の世界では。


黒猫:っはぁ、はぁ、はぁ…うぅ…っ。


魔女:色々調べてみたが…症状からして、おそらくカエンタケだ。

   どうして体内に入ったりなんかしたんだか…。


黒猫:はぁ…はぁ…う…ま、まじょ、さまぁ……。


魔女:…とにかく早く解毒魔法薬げどくまほうやくを作らないと…!   

   人間でも数日、それより小さい猫ならもって数時間…!


黒猫:たす、けてえ…。


魔女:~~~ッ、少しのあいだ頑張がんばるんだよ、クソ猫…!

   !そうだ、もし万が一、素手すでさわっていた時の事も考えないとだね

   。


黒猫:う…うう…はぁ、はぁ…。


ナレ:劇毒げきどくの与える苦痛に顔をゆがませる黒猫。

   魔女は急いで魔法薬の準備にかかった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:その頃、夢の世界では。


黒猫:ここ、ずいぶんジメジメしたところだね…ってわひゃあ!?


???:あのな…ぼーっと歩いてるから水たまりに突っ込むんだ。

    ん? あの建物は何だ?


黒猫:ずいぶん大きいなぁ。

   周りは湿地しっちで歩けそうにないし、行くしかないよね…。


???:ああ、気をつけろよ。


ナレ:とびらをくぐった先にあったのは、灰色の雲が低くれこめた空に、

   目の前にそびえる神殿調しんでんちょうの建物とそれへ通じる一本道、

   それ以外は見渡す限り沼地ぬまち湿地しっちが広がっていた。


黒猫:すみませーん…お邪魔しまぁすー…。


???:【溜息】

    バカかお前は。

    自分の夢の世界だぞ。なに律儀りちぎ挨拶あいさつしてんだ。


黒猫:あ、そうか……。

   でも、ボクの夢だって言うんなら、他に誰か登場人物とかいたりし

   ないのかな?


???:そんな事どうでもいいだろうが!

    お前追われてるって自覚あるのか!?

    いちいち自分の夢にツッコミ入れてないで、さっさとかぎを探せ!

    このクソ猫!


黒猫:ぅわ、わかったよう…

   そんなに怒鳴どならなくたっていいじゃないか…。

   あ、でもクソ猫って呼んでいいの、魔女様だけだから。


???:いや、反応するところ違わないか…?


黒猫:だって村とかで会う人間達と違って、ボクの正体を知ってるのは

   魔女様だけだもん。


???:そうか…そりゃ悪かったな。


黒猫:いいよ。

   それでさ、イド、あれって…水槽すいそうだよね?


???:そうだな。今の世の中にはこんなガラス細工ざいく水槽すいそうがあるのか。


黒猫:…あ、ううん、違うと思う。

   魔女様の知り合いに水棲すいせいの魔女っていう魔女さんがいるんだ。

   そこの家に魔法薬を届けに行った時、もっと小さかったんだけど、

   あんな感じの水槽すいそうがいくつかあったんだ。

   錬金れんきんの魔女さんが作ったって言ってたから、たぶん世の中には出回でまわ

   ってない…と思う。


???:なるほどな、魔女のお手製てせいを見た事があったのか。

    それで夢の世界に反映されたんだろう。

    しかし数が多いな…あたり一面にあるぞ。


黒猫:あの時は水槽すいそうにお魚がいっぱい泳いでたけど、どの水槽すいそうにも

   何もいないね…。

   水も黄色っぽくにごってるし。


???:確かにな。

    それに何か、変なにおいもするぞ。

    …これは、まさか――


悪魔:【↑のセリフに喰い気味に】

   グゥオオオアアアアアア!!!!


黒猫:う、ウソ、もう来た!?


悪魔:グハハハハハハ! とびらに鍵を掛けてないとはなァ!!


???:は…?

    おい、もしかしてお前…。


黒猫:!ッあ……わ、忘れてた、かも……。


???:【↑の語尾に被せて】

    ッッこのバカ猫!!!

    何やってんだ!!!


黒猫:ご、ごめんなさいぃ!


悪魔:グククク…このにおい…グハハハハ、お前を殺すにはもってこいだ!

   グオオオゥゥ!!!


【ガラスが連続して割れるSEあれば】


黒猫:!!? す、水槽すいそうり始めた!!?


???:…!

    にごっているにしてはおかしいと思ったが…やはりそうか!

    早くとびらかぎを見つけろ!

    これは水なんかじゃない!


    油だ!!


黒猫:ええ!?

   あ、油って…まさか!


悪魔:グァハハハハ、そのまさかだァ!!!

   これで今度こそ殺してやるぞ!!

   油よ、この身の地獄の炎で燃えあがれェ!


【激しく燃え上がる焔のSEあれば】


黒猫:うわあああ!!!


???:く、くそっ!

    なんとか奴を足止めしてこのバカ猫を逃がさないと…!

    あと一つとびらが残ってるが、やむをん!


    “力強ちからづよ懲罰ちょうばつ”!!!


    雷にでも打たれてろ!!


【雷撃に打たれるSEあれば】


悪魔:グァァガガガガガッッッ!!

   オ、ノ、レ…。


黒猫:や、やったの!?


???:いいや、一時的にすぎん!

    私ではこいつは倒せんのだ!

    かぎとびらは見つけたのか!?


黒猫:とびらは奥にあったよ!

   で、でもかぎが…どうしよう…!


???:泣きごとを言ってる場合か!

    私も手伝ってやる!


黒猫:ち、違う!

   見つけたんだ!見つけたんだけど…。


???:なに、あったのか!?

    だったらなぜ取らな…ッ、こ、これは…。


ナレ:黒猫ときりが見つめる先には、手で持てるほどの小さな水槽すいそうがあっ

   た。

   中の油はすでに燃え上がり、温度は相当そうとうなものになっている事は

   容易よういに想像できる。

   その中に、かぎがあった。


???:くっ…と、とりあえず、水槽すいそうを倒してかぎを出すんだ!


黒猫:う、うん…!

   ッッ!


???:あとは…こいつをどうやって持って、とびらを開けるか、だが…。


黒猫:火傷やけどは…けられない、よね…。


悪魔:グアアアアッッッッ!!!


黒猫:!!!


???:!!いかん! もう動けるのか!?

    ッお前、何を!?


【焼け爛れるSEあれば】


黒猫:~~~ッッうあああああああッッッッ!!!


ナレ:背後にせまほのおの悪魔。

   力を使いたしたイド。

   もう迷っている時間は無かった。

   黒猫は歯をくいしばって真っ赤に焼けたかぎを、つかんだ。

   皮膚ひふが焼け焦げるにおいが鼻をつく。

   そしてほのおあぶられた緑色のとびらかぎを開ける。


黒猫:う…ぐ…ぐ……ッ!


???:お、お前…。


黒猫:ッさ、さあ…早く、いこう…。


ナレ:焼けただれた両手をかばうようにして、黒猫はとびらの向こうへ足を

   入れた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:同じころ、現実世界では黒猫に新たな症状が現れていた。


黒猫:はっ…はっ…っぐ、ぐぅぅ…!

   手が…手がぁ……いたいぃ…。


魔女:やっぱり素手すででカエンタケを取ってたか…。

   アレの表面をさわると手がただれるって教えただろうに…。

   それよりもまず、魔法薬を飲ませないとね。

   口を開けさせて…


黒猫:ぅ…んく…っ、んく…ッ。


魔女:これで少しは中毒の症状が治まるはず…あとはこいつ次第さね…。

   それと、この手に魔法薬の軟膏なんこうって…これでよし。

   こんなに心配と手間てまけさせるなんて…

   ほんとクソ猫だよ、お前は。   

   …早く、眼をましな。


黒猫:うう…ごめんなさい…ごめんなさい…。


ナレ:意識を失っていても声が届いているのか、黒猫の口からは謝罪しゃざいの言

   葉がひたすらこぼれた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:一方、夢の世界では緑のとびらをくぐった黒猫とイドが、

   真っ暗な通路をひたすら歩いていた。


???:…おい、両手は大丈夫か?


黒猫:う、うん…。

   痛いは痛いけど、なんとか…。


???:お前…意外と無茶するな。

    少し、見直したかもしれん。


黒猫:そ、そうかな…?

   ぁ…。


???:とびらだ。

    どれ…私が開けてやる。

    っと、次の部屋は…ずいぶん自然豊かな風景だな。


ナレ:突き当たったもう一枚の緑のとびらをイドが開くと、

   そこには緑の木々でできた通路が続いていた。


黒猫:あれ、なんだか見覚えがある…。


???:だがこれは人の手の入ったものだ。

    見ろ、この植物なんかは綺麗きれいたけそろえられている。


黒猫:思い出した、ここ家の裏だよ。


???:なに、お前と森の魔女の住んでいる家のか?


黒猫:うん、魔女様は「庭園」って呼んでるけど…。

   あの木になる実とかあの草、全部魔法薬の原料になるんだ。


???:なるほど、次のはずいぶん身近みぢかな場所が反映されたもんだな。


黒猫:でも、やっぱり夢の世界だよ。あちこち違う。

   こんなに広くないもん。

   これじゃまるで迷路だよ。


???:緑の迷宮ってとこか…。

    とりあえず先を急ぐぞ。


黒猫:うん。

   …ねえイド、聞いてもいいかな?


???:なんだ?


黒猫:ここが夢の世界ってことは、言ってしまえばボクの内部だよね?

   イドはいつからここにいるの?どうやって生まれたの?


???:一度に質問するな。

    悪いが、それは私にもわからん。

    気がついたらお前の中にいたし、いつの間にか動いたりしゃべったり

    できるようになった。


黒猫:そうなんだ。

   じゃあ、もしボクが脱出に成功して目がめた時、外側からキミと

   会話する事とかってできるのかな?


???:…何が言いたい?


黒猫:うん、ボクとさ…友達になって欲しいなぁって。


???:!!?ハァ!?

    おまっ…あのな!

    いま現在進行形で奴に追われてるっていうの忘れてないか!?


黒猫:そ、そんなことないよ!?


???:いーや、忘れてたな。

    いくらあと最後の扉を探せばいいからって気が緩みすぎだ!

    このバカ猫!!


黒猫:ご、ごめんんん!


???:!あっ、こら!

    一人で先に行くな!


ナレ:共に行動するうち、おたがいどこか気がつうじたのか。

   軽口かるくちに近い応酬おうしゅうを続けながら出口を探し、緑に囲まれた一本道いっぽんみち

   ける黒猫とイド。

   しばらく走ると、視界が不意にひらけた。


???:はあ、はあ…ったく、足の速い奴め…。

    お、やっと止まった……おい!


黒猫:あ、あ…もしかして、あれって…。


???:おい、どうした?


黒猫:【↑の語尾に喰い気味に】

   魔女様ぁ!!ッ!

   【駆け出す】


???:な、なにッ、魔女だと!?


ナレ:黒猫は見た。

   開けた場所にぽつんと立つ東屋あずまや

   そこの椅子いすに背を向けて座る見覚えのある人影。

   なつかしい、自分の主人である魔女の姿を。


黒猫:魔女様ぁ!

   (きっと、むかえに来てくれたんだ!

   ボクがあんまり目をまさないから、何かの力を使って…)


???:おいッ、待て!

    いくら魔女でも、夢の世界に干渉かんしょうできる奴なんていないはずだ!

    そいつは、お前の知ってる魔女じゃない!!


黒猫:え……?

   ッ、ひッ!?


ナレ:イドの必死の呼びけが届いた黒猫は、あわててその場に急停止きゅうていしする。

   しかしそこはすでに、魔女?とは手を伸ばせば届く距離。

   背を向けていた姿がゆっくりと正面へ向き直る。

   その顔は、あの悪魔だった。


悪魔:グゥアハハハハハァァァ!!!

   やっと、捕まえたぞォォ!!!


黒猫:うわあああああ!!


???:ば、バカな…なんて奴だ!

    あいつにちかしい存在にけてたとは…!


悪魔:やっと…やっとお前を殺せるゥゥゥ!!


黒猫:は、放せぇぇぇ…!


???:くそっ、力は使いたしてる…。

    ここ、までか…?


悪魔:サァァ、焼き殺してやるぞォォォ!!!


黒猫:う、う”あ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁッッッッ!!!


ナレ:ほのおの悪魔につかまり、まさに焼き殺されようという絶対絶命ぜったいぜつめいの状況。

   それは、現実世界にも反映されていた。


黒猫:う、うあ、あぐうううぅぅッッッ!!


魔女:く、クソ猫!?

   一体どうなって…魔法薬はいていたはずなのに…!!


黒猫:あ、が…は…ひゅーっ、ひゅーっ…!


魔女:ッまずい、症状が重篤化じゅうとくかしたってのかい…!?

   このままじゃ…! ッッ!!


悪魔:グハハハハ、もう少しだァ、もう少しでェ…!!


黒猫:あ…ぐ…う…


???:くそっ、ブサイク悪魔が!!

    そいつを………放せェェェェッッッ!!!


ナレ:現実世界で呼吸困難を起こし、夢の世界では焼き殺されようとし、

   徐々に生気せいきが失われるかのように弱っていく黒猫。

   手をくした後だけにもはや取れる手段は無く。

   だがそういう時に限って、意思ある者は考えられない行動をとる。

   魔女とイドは何を思ったか、それぞれの世界で思わず黒猫を抱きし

   めると、耳元で叫んだ。


???:しっかりしろ!!

    ここまで来てこんな奴にやられて死ぬ気か!!?

    こんの………バカ猫ッッッッ!!!!!


魔女:しっかりおし!!

   あんた、命を助けてやったあたしに何も返さずに死ぬ気かい!!?

   こんの………クソ猫ッッッッ!!!!!


黒猫:ッッッッ!!!!?


ナレ:その直後だった。

   黒猫とイドがまるで引き合うように、黒い光を放ちながらひとつに

   なっていく。

   そしてその体はみるみるうちにふくれあがり、ほのおの悪魔が可愛かわいく見え

   る大きさの異形いぎょうへと変わっていった。


悪魔:グ、グガッ!?

   な、なんだこれは!!?


魔女:!?

   な、なんだい、この魔力の波動は…!?

   クソ猫…お前、いったいなにが…?


黒猫&???:【必ずしも同時にできなくても大丈夫です】

       …グウウウ……【唸っている】


悪魔:お、お前、その姿はいったい――


黒猫&???:【必ずしも同時にできなくても大丈夫です】

       【↑の語尾に被せて】

       ガアアアアアアアッッッッ!!!!


悪魔:グギャッッッッ!!?!


【何か湿ったものを咀嚼そしゃくするSEあれば】


ナレ:あっ、と言う間もなく、ほのおの悪魔は異形いぎょうした黒猫とイドに喰い

   殺された。

   同時に異形いぎょうの姿はまるでけるように消えていく。

   そのあとには、地面に倒れている黒猫、そして。


???:う…っ、いったい、何が…。

    夢中でバカ猫にしがみついて叫んだら…って、こ、この姿は!?


魔女:!!?

   クソ猫に生気せいきが戻ってきた…?

   呼吸も安定している…。

   それにさっきの魔力の波動…何が起きたって言うんだい…?

   …とりあえず、もう少し様子を見るかね…。


黒猫:…すぅ…すぅ……。


???:は、ははは…こいつと同じ顔、体…!

    そうか…やったぞ、偶然とはいえ、私は目的をたしたのか…!

    おい、起きろ、起きろって…っこれは…バカ猫の姿が消えて…?

    そうか…奴が死んだから夢の世界から解放されたのか…。

    まあいい。

    こんなに晴れやかな気分は初めてだ…ははははは…!!


ナレ:自分以外、誰も動く者のいなくなった世界でひとり、イドはわらう。

   一方、現実世界では。


黒猫:…う…うぅん…。

   あれ…ここは…?

   さっきまでボク、殺されかけてたのに…。

   ! あ、魔女様…?


魔女:すう…すう…クソ猫…しっかり、おし…。

   死ぬんじゃ、ないよ…。


黒猫:…ほ、ほんもの、だよね…?


魔女:う、ううん…。

   はっ!

   しまった、つい寝てしまって…って、クソ猫?


黒猫:あ……お、オハヨウゴザイマス…。

   ま、魔女様…怒ってます…?


魔女:……おまえ、昨日カエンタケとってきただろ。


黒猫:あ…はい、今回作る魔法薬の材料になるって…。


魔女:その時めんどくさがって手袋てぶくろしないで素手すでで取って、

   あげくに欠片かけらあやまって口に入れてしまったろ。


黒猫:う…は、はい…。

   でも、食べたりなんかは……。

   !あ…もしかして、テーブルに落ちてたのを晩御飯ばんごはんのこぼしたやつ

   かと思って食べちゃったけど、もしかして、あれが…?


魔女:何やってんだい!

   だから手袋てぶくろして取れって口酸くちすっぱく言ったんだ!

   あのカエンタケはね、さわっただけでも皮膚ひふがただれるし、

   ほんの小さなひとかけらを口にしただけであの世に行ける、猛毒キ

   ノコなんだよ!

   っこの、クソ猫!


黒猫:ひゃあッ!…え?


ナレ:お仕置しおきのゲンコツが飛んでくる、と反射的に黒猫は目をつぶる。

   しかし来たのは頭への衝撃ではなく、魔女のにおいいと柔らかい感触かんしょく

   つつまれる感覚だった。

   黒猫を抱きしめる魔女の腕が少し、震えている。


黒猫:まじょ…さま…?


魔女:まったく、このクソ猫は…!

   心配掛けさせるんじゃないよ…!!


黒猫:…ごめんなさい、魔女様…。


魔女:ふ、ふん!

   魔法薬のおかげでこうして死なずに済んだんだ。

   感謝するんだね!


黒猫:うん…魔女様、ありがとう。


魔女:【照れている】

   ~~ーーッッッ!

   【つぶやくように】

   だから、そんな目であたしを見るんじゃないよ…!


   今はさっさと体をなおしな!

   …おやすみ。


【ドアを閉めるSEあれば】


黒猫:…失敗しちゃったなぁ…。

   でも、なんだかんだで魔女様はボクの事…ふへへ…。


魔女:…あの時の高い魔力の波動は一体何だったんだろうか。

   その後容体が安定したから、何かしら関係あるはずだけど…。

   ~~ッッ分からないことだらけだよ。

   ま、専門外の事をうだうだ考えても仕方ないかね。

   無事に目を覚ましたんだ。

   またビシバシしごいてこきつかってやるさね…。


黒猫:ふわあぁぁ…安心したらまた眠くなってきた…。

   …すぅ…すぅ………

   ………。


ナレ:おだやかな日差ひざしが黒猫の影をかべに長く伸ばしている。

   不意ふいに、もぞり、と意志を持ったかのようにそれがうごめく。

   そしてどこからか染み出すようにひくい声がひびいた。


???:…くくく…一時いちじはどうなるかと思ったが…無事に終わったか。

    偶発的ぐうはつてきなものとはいえ、とびらもほとんどが解放された。

    何者でもない私は、姿も、形もた。

    あともうひと押し、何かのきっかけがあれば外へ出ていける…。

    くくくく、くくくくく………。




END




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