第6話 公爵家 ジルフォード目線
きちんと先触れを出して家に戻った。服装を整えた母と姉が待っていた。
「ただいま、戻りました」
「おかえりなさい、ジル」
「おかえり、ジル」
「姉上、母上わたくしも家督をついで公爵です。愛称で呼ぶのはおやめください」
「・・・・なに堅苦しい事を言ってるの?家族でしょ」と姉が笑うのを無視して
「そうですね・・・・・ではわたくしの方からの呼び名を変えます。よろしいですね。前公爵夫人。フォグ侯爵夫人」
「久しぶりでございます。居間に」と言う執事の言葉に
「そうだな」と言うとエスコートを待つそぶりの二人を置いて俺は居間に向かった。
先にソファに座り遅れて入って来る二人を見た。
二人共少し戸惑っていて何故だろうと言った顔をしている。
「この家は王命に背いた咎で潰れます」
ガチャ。ポットにお湯を入れていたメイドが立てた物音だ。
母も姉もびっくりして俺を見ている。
「ジル・・・ジルフォード。何を言っているの?潰すって王命ってあの馬鹿げた王命?」
「王命の内容に意見を言いますか?前公爵夫人」
「待って、そんなつもりは・・・・・だって・・・平民の田舎娘・・・・」
「そうよ、ジルフォード。あんなのがどうしたの?おかしいわよ。ちゃんとしてレッド公爵」
「わたしの態度はどうでもいいのです。王命に背いたことを責めているのです」
「王命って?」と母が言うのに
「一応、公爵夫人であった人、公爵令嬢であった人ですね・・・・・王命ですよ」と答えた。
「あっ忘れるところだったセバスチャン。これは妻へのお土産だ。妻の部屋に置いておいてくれ」と執事のセバスチャンに綺麗に包まれた箱を渡した。
セバスチャンは箱を受け取るとギクシャクと出て行った。
「明日、マレナ伯爵夫人が来る。詳しいことは明日言い渡す」と言うと
「ジルファード、お願い」「ジルフォード、弟のくせに」
これ以上二人と一緒にいるのも腹が立つので、部屋を出た。
「セバスチャン、妻の部屋はどこだ?」と言いながら廊下を歩いていたら、侍女長と執事がひざまづいていた。
「旦那様、お許し下さい」「旦那様逆らえなかったのです」と二人は半分泣きながら言った。
「どうしたんだ?妻の部屋の掃除がおろそかとか?」とわざと言うと
「・・・・・・お許し下さい」「旦那様」二人の声より泣き声の方が大きい。
「どうした、立て。妻の部屋はどこだ?」と答えがないのを承知で言った。
しばらく二人を見下ろしてから
「たった今から、この家では誰も食事をしてはならない。俺はお前らのように鬼ではない。水を飲むことは許そう」
そう言って自分の部屋に入った。
翌日、妹のスーザン・マレナが夫君のマレナ伯爵と一緒にやって来た。
「お兄様、おかえりなさい。お疲れ様でした」
「公爵閣下、長き任務お疲れ様でございました」
二人が挨拶をして来た。この二人は学生時代からの付き合いで結婚してからも、仲睦まじいのがよくわかる。
一晩でやつれたセバスチャンが二人を客間に案内する。
「どうしたの?セバスチャン。なんだか疲れてる?お兄様当ての釣書が多くて大変だったりして」と
マレナ伯爵夫人がはしゃぐ声が聞こえる。いつまでそうしていられるか?
それからフォグ侯爵がやって来た。
「公爵。急な呼び出しに驚いた。なにかあったのか?」と言う彼と並んで客間に入った。