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クローディウム帝国の勃興

 アルカディア歴1834年11月28日

 ラバスト砦周辺フレア教王国軍陣内



 ラバスト砦を遠くに見据える位置。渓谷を背後に背負う形で陣取っているのフレア教王国軍。その中央では軍議が行われていた。

 昨夜、またしても勝手に出陣した聖騎士団と義勇兵たち。どうやら砦は無視して近隣の村々を襲撃しようという様子だ。

 フレア教王国軍としては悪くない状況である。これで、砦内のクレイモス王国軍が打って出てくれれば野戦に持ち込める。


「しかし、彼らが無茶をしなければ良いのだがな」

 カイル・シルヴィオとしては、それが心配だった。なにしろ、聖騎士や義勇兵ら熱心なフレア教徒にしてみればクレイモスの民は、邪教を祭る許しがたい存在。正義の名のもとに虐殺を行いかねない。

 そうなると、例えこの戦争を終わらせたとしても、大きな禍根を残すことになる。


 だが、午後になって、状況がまた変わった。なんと聖騎士団と義勇兵が戻ってきて、ラバスト砦の前に並んだのだ。

 しかも、すぐに彼らは砦の中に入ってしまった。望遠鏡で様子をうかがっていた者たちの話では、砦の方で城門を開き、導き入れたという。


 聖騎士団と義勇兵が寝返った?

 いや、そんな馬鹿なことがあるわけがない。他の者たちならばいざしらず、彼らに限っては天地がひっくり返ってもありえない。

 そういったわけで、軍議に居並ぶ諸将はそれぞれ推論を述べる。


「アルベルト殿下とレミー・ベラルルが説得したという可能性はないだろうか?」

 ドーマン将軍が言った。


「説得? 聖騎士や義勇兵たちが? さすがに彼らにも無理でしょう」

 ルーン将軍が首をひねる。

「取り引きをするにしても、彼らが応じるとは思えませんね」


「クレイモス軍が降伏したという線はどうでしょう?」

 別の者が発言する。


「あるいは、フレベル王が国民の改宗を宣言したとか? フレベル王はすでにフレア教徒だしな」


 色々と推測をするのだが、どうもどれも無理がある。そんなところへ、報告が来た。


「ドラゴンが。黒いドラゴンが砦から向かってきます」

 報告者はひどく狼狽していた。 


 なんだと、と遠征軍幹部たちが問い返す。

 だが、その時には、周囲が騒然となっていた。誰もかれも東側の空を見て、声だかに叫んでいる。


 その場の諸将は、その直後、自らの目で自陣へと近付いてくる空をおおわんばかりのドラゴンを目にした。


 カイル・シルヴィオは10年前に戦ったレッドドラゴンを思いだした。だが、あの時のドラゴンよりも遥かに巨大で、大きな力を秘めているのがわかる。迫力が段違いだ。体が震える。


 ドラゴンと戦ったことがあるカイルですらそうなのだ。他の者たちは悲鳴すらあげられず、顔面蒼白になり恐怖に身をすくませる。


 ドラゴンは地に降り立った。

 凶悪なこうげを垂れる。すると、ドラゴンの足から人が数人降りてきて、フレア教王国軍の陣へと近付いてくる。


 カイルおよび、ドーマン、ルーンの両将軍が、立ち尽くす兵士たちをかきわけるように陣の外へと出る。


「アルベルト殿下。それにレミー・ベラルル。ダルシアンも。それに、あれは義勇兵のリーダーか。もうひとりの老人は……まさか」

 ルーンがそこで声を途切れさせる。


「フレベル王のように見えるな」

 ドーマンも信じられないという様子だ。


「ドラゴンの頭の上に誰か乗っていますよ」

 言って、カイルが携帯用の望遠鏡を伸ばす。

「女性だ。どこかで見た覚えが……」


 そうこうするうちにアルベルトたちが数メートル先まで近付いてきた。

 同時に、フレア教王国軍の他の諸将もカイル、ドーマン、ルーンの横に並んだ。


「これは一体どういうことですかね? アルベルト殿下」

 ルーンが言った。


「私はすでにフレア教王国に属する者ではない。よって、殿下という呼称は不要。私はクローディウム王国が騎士アルベルトです」


「クローディウム帝国? なんだそれは?」

 ドーマン。当然だがわけが分からないという様子。


「エレノア皇帝陛下がお造りになった国の名前だ。クレイモス、フレア教王国、エフィレイア、すべてを呑み込み、それを統一するための帝国である。すでに私はクレイモス王として、陛下に臣従を誓っている」

 フレベルが言った。さすがは国王。その威厳は犯しがたいものがあり、話の内容の突飛さを感じさせず説得力に満ちている。

「この場に並ぶ者たちは元より、砦にいる者も全てが、クローディウム帝国の者だ。もちろん、そこのダルシアン殿とガイラ殿もな」


「フレベル殿の仰る通り。私はフレア教からアルカディア聖教へと改宗いたしました。ほかの聖騎士の者も、そして義勇兵の者たちもです」

 ダルシアンが言った。


「ま、待ってくれ。よく分からないのだが。か、改宗? 聖騎士や義勇兵が? 帝国?」

 ドーマンはますます混乱している。


 もちろん、彼だけではない。フレア教王国側の者たちは誰も彼も狐につままれたようだ。理解が追いつかない。


「我らの言葉では理解できぬやもしれぬ。よって、これより皇帝陛下のお言葉をたまわろう」

 そしてフレベルは声高らかに言った。

「初代クローディウム帝国皇帝エレノア陛下である」


 漆黒のドラゴンが首を伸ばした。ドラゴンの上顎の上にはエレノアが立っている。

 真っ赤なマントと、金糸のような黄金の髪を風になびかせ、沈み始めた太陽の赤い逆光を受けて。


「わたくしが帝国皇帝エレノアですわ。かつては、エレノア・ウィンデアを名乗っておりましたが、ウィンデア家の名は捨てましたの」


 大きな声ではない。

 だが、なぜかその声は諸将に、いやその場にいる全兵士の耳に届いた。


 カイルは呆然とエレノアを見る。

 ようやく、あのエレノア・ウィンデアだと気づいたのだ。それにしても夕日を身に浴び、赤く染まったエレノアのなんと美しいことか。


 もちろん、エレノア・ウィンデアの名を知らぬ者は誰もいなかった。なにしろ、10年の時を経て、エレノア・ウィンデアは伝説の英雄としてフレア教王国の人々に親しまれているのだから。


「わたくしは愛しい人の命を救うため、神々にお会いするため、大陸の東のハルベルガ山へ赴きました」


 エレノアは話した。かつてアルカディアの初代王と王妃が光と闇の双神と契約を結んだこと。そのおかげで、大陸は人の住むことができるようになったこと。

 だがフレア教の台頭により、神々の力のバランスが崩れ、このままでは大陸全土が人の住めぬ場所戻ること。

 それだけではなく自分がクローディアスを救うために、神々と約束したことも話す。あの時の体験も。


「ゆえに、わたくしはフレア教を駆逐し、アルカディア聖教を大陸中に広めます。そのために、わたくしは三つの国をひとつにまとめてみせます。クローディウム帝国の下に、この大陸をひとつにいたします」


 エレノアが話す間に彼女の体から白い光が彼女の体をおおう。それは炎のように揺蕩たゆたって夕日の赤さをかき消した。


 誰もがエレノアから目を放せなかった。

 漆黒のドラゴンの上に立つ美女は、あまりにも神々しく。犯しがたい威厳があった。


「わたくしに従いなさい。わたくしとともに次の時代を築きましょう」

 エレノアが腰の剣を抜き、天に向かって剣先を伸ばす。


 剣先から強烈な光が起こった。まるで二つ目の太陽が現れたかのようだった。その場にいる全員の視界が白色に溶ける。

 世界が白く溶ける。


 それは聖騎士や義勇兵たちを改宗させたあの世界。神々の御許みもと。それがまた起こった。


 自身の意識が、魂が、溶けるような感覚。

 あらゆる真理が押し寄せてきて、その一部となるような。世界と同一化し、消えていく。消えていく。


 だが、完全に消えてしまいそうなときに、エレノアの影が現れた。高所に立ち、剣を掲げている。彼女がさっと剣を振り下ろすと、消えかけていた意識がはっきりと覚醒た。自分の体が黒いシルエットと現れる。


 影となった者たちが集まる中で、エレノアの影ひとつが高い位置から見下ろしている。


 やがて世界は戻る。 

 いつの間にか日は沈み夜のとばりが降りていた。

 誰もがひざまづいていた。フレベル王も、アルベルトも。ドーマン将軍も、騎士も兵士たちも。


「ドーマン・ガース。これより、エレノア皇帝陛下の臣下となりましょう」

 ドーマン・ガース将軍が大声で言って、額が地につくほどに頭を下げる。それほど信仰心に厚かったわけではない。王への忠誠心も同様。だが、職務に対する責任感は強い男だった。


 それが、今、エレノアに心服し、絶対の忠誠を捧げた。それほどに衝撃的な体験だったのだ。

 

「ルーン・ルドマン。エレノア陛下の臣下にお加え下さいますよう。願います」

 ルーン・ルドマン将軍も同様だった。

 根っから武人気質のドーマンに比べれば智将という色合いが強い。その分、穿ち、ひねくれたものの見方をする男。


 だが、神々の御許みもとへ誘われるという体験は、ただかだか数十年の知など消し飛ばした。


 あとに残ったのは、ただただ、絶対的な者に対する忠誠心だけだった。 


 ふたり同様、各諸将が次々と臣従を誓う。それは波のように騎士や兵士たちの間にまで伝わり、ついにはすべての者たちが、頭を深く垂れた。


 神々の御許みもとへ誘われた体験はそれほどまでに強烈だったのだ。肉体ではなく、魂に直接響く、真の体験。まさに奇跡。


 だが、この日の奇跡はまだ終わりではなかった。

 さっそく旧フレア教王国軍はラバスト砦の周辺に陣を移した。

 今度は、フレア教王国軍の幹部たちも交えての軍議が始まる。

 軍の幹部たち以外は自分たちの新たな境遇に興奮し、また体験した奇跡の話に夢中になった。

 兵士たちには祝いと称して、酒が振る舞われた。なにしろ、今日が、クローディウム帝国の建国日なのだから。


「クローディウム帝国万歳」


「エレノア皇帝陛下万歳」


 そんな声が砦の中でも、外でも叫ばれた。


 軍議は日付が変わっても続いた。誰もかれも新たな時代の幕開けに興奮していた。老齢のフレベルですら、その例に漏れず、声をからして議論に加わった。


 これからの戦略、政略。帝国のシステム。理念。そういったものを詰めていく。


 熱気のこもった会議室にその報告がもたらされたのは、午前1時。


「魔物の群れ?」

 ドーマンが眉をひそめる。報告に来たのは旧フレア教王国軍の索敵部隊である。数百というゴブリンの群れが砦に向かっているという。


「ちょうど良い。クローディウム軍の初陣と行こうではないか」

 旧フレア教王国の指揮官のひとりが言った。


 エレノアが立ち上がった。諸将がどうしてもと乞うので彼女だけは高い位置に、仮設の玉座のような椅子を設けられ、座っていたのだ。

「おやめなさい。ゴブリンは敵ではありませんわ」


 その言葉に諸将が驚いてエレノアを見上げる。


「そうでしたわね。このお話しはしておりませんでしたもの」

 言って、エレノアは初代クレイモス王ガリウスが大きく崩れた神々のバランスを支えるために、ヒューマン以外の四種族に闇の神の力を降ろしたことを説明した。

「ゆえに、彼らもわたくしの、クローディウム帝国の民に迎えます」


「しかし、陛下。ゴブリンに話は通じませんぞ」

 これはフレベルである。クレイモスでは他国のようにゴブリン、オーク、オーガー、コボルトの四種族を魔物とは見なしていない。ただ、その脅威は知っており、見かければ退治もする。


「わたくしは思うのです。ゴブリンやオークらも、『聖女』によって魂を歪められた聖騎士方のように治すことができるのではないかと」


「しかし、数が多すぎませんか?」

 ダルシアンが言った。


「なおさら結構。それだけ、クローディウム帝国の民が増えますもの。では、わたくしはしばらく席を外しますので」

 エレノアはさっさと部屋を出る。


「お、お待ちください」


「私もお供します」


 皇帝陛下ひとりで行かせるわけにはいかない。なによりも、皆が美しい皇帝がどのような奇跡を見せてくれるのか、興味があった。


 さすがに深夜。屋外は冷気がさすほどに冷たい。

 大地はガチガチに凍り付いている。

 だが、エレノアは相変わらずシャツにスカート。その上に銀の胸当てや脚絆や籠手、という涼し気なかっこうである。

 それでも全く寒いとは感じない。


 砦周辺には収容しきれない兵士たちがあふれれており、ところどころでかがり火がたかれている。


 淡く白い光を放つエレノアは闇の中でこそ目立つ。そんな彼女を先頭に、軍の幹部たち、さらには聖騎士を含む精鋭3百名あまりが続く。


 エレノアとしてはアークドラゴンに乗るか、風となって走った方が速そうに思えたが(さすがに自分の体の変化に気が付いている)、随員がいるので馬に乗っていくことにした。


 索敵部隊の者に案内され、南東の方角に向かっていくと森が見えてきた。闇の中なので常人には分からないが、確かに森からこちらに向かって、何百というゴブリンが近づいてくる。

 エレノアにははっきりとそれが見えた。


 ゴブリンたちが走り出した。彼らの視線はただエレノアひとりに注がれている。闇の中、白く輝くエレノアに。

 

 わたくしを探しにきたのですわね。

 エレノアはそう直感した。

 ひょっとしたら聖騎士の時とフレア教王国軍の時に起こした奇跡が、彼らを惹き付けたのかもしれない。


「ゴブリンが来ます。陛下、どうかお下がりください」

 聖騎士のひとりが言って、前に出ようとする。


 エレノアは手を横に伸ばして、それを制した。

「逆ですわ。皆様、ここから動きませんよう。彼らが怯えてしまいますわ」


「しかし……」

 別の騎士が言った。


「わたくしをお信じなさい」

 エレノアはひらりと馬を降りると、異様な声をあげて突進してくるゴブリンに向かって歩いた。


 子供程度の背丈。緑色の肌。細く短い手足。かつてクローディアスがローディと名乗っていた頃、ゴブリンの巣穴に単身入ったことがある。

 あの時は、ただただ、醜悪な魔物だと思った。囚われた女たちを見て、怒りが湧いた。


 今、エレノアの目には向かってくるゴブリンが救済を求めているように見えた。

 人間に憧れているように見えた。


 エレノアの10メートルほど手前でゴブリンがピタリと止まった。見事なほどに静止した。彼らは一様にエレノアを見ている。彼女の背後の集団などには目もくれない。


 エレノアにはゴブリンたちの魂が感じられた。彼らの魂はそう、おおわれている。闇の膜のようなものでしっかりとおおわれている。


 エレノアは、身動き一つせずに自分を見つめるゴブリンたちに近付いた。

「今まで、よくぞく闇の神を支えてくださいましたわね。おかげでわたくしが間に合いました。さあ、これより、人にお戻りなさい」


 エレノアは先頭のゴブリンの頭にそっと触れた。魂を包む闇を吸い取るように意識を向ける。

 グニャリとそのゴブリンの体が歪んだ。頭が小さくなり、手足が少し長くなる。色も緑から赤銅色に変わった。


 エレノアは次々とゴブリンたちに触れていった。緑のゴブリンが赤銅色の人の姿に変わる。


「あれは、ドワーフだ」

 ドーマンが言った。一度だけ、大陸から来た別種の人間を見たことがる。


 他の者は、ただただ、目の前の奇跡に瞠目していた。ときどき、うめくように感嘆の声をあげる。


 ゴブリンから変身したドワーフたちは、両手を見て、顔を押さえ、なにか混乱している様子だった。

 だが、はっきりとその瞳にはゴブリンにはなかった知性の色がある。

 

 エレノアはゴブリンの中を進んでいく。コツがわかり、もはや触れることなく、意識するだけで魂を解放することができるようになった。

 彼女が通過すると、その周囲のゴブリンたちが一斉に変身していく。


 やがて、その場にいる数百のゴブリンがすべてドワーフへと姿を変えた。


「五つの人族が再びこの大陸に住まう時代が始まりますわ」

 エレノアは微笑んで、ドワーフの中でもひと際小さい子供の頭を撫でた。



 ドワーフはヒューマンに比べて寿命が倍ほどもある。ただし、老化速度はあまりかわらないため、自然と老人が多くなる。

 また、鍛冶仕事が得意で力も強く肉体も強靭。魔法を道具に付与する技に長けている。魔法金属を生み出したのも彼らドワーフである。


 ゴブリンから戻ったドワーフたちは、皆、混乱していた。彼らは一様に、ゴブリンだった時の記憶を持っていなかった。代わりにドワーフだった時の記憶を持っていた。

 どうやら、アルカディア時代の終わりから、神聖フレア教国の時代の者たちのようだ。


「どうも、神の御許みもとへ戻ることなく、同じ魂が繰り返し、新たに生まれたゴブリンの中へと入っていたのではないかな」

 フレベルはそう見解を述べた。

「昔、『聖賢』フォトン・メアーから聞いたことがある。ゴブリンやオークなど亜人族は、数が減ることもなければ増えることもないと。どこかで減れば、どこかで一気に出生率が上がるらしいし。増えすぎると、互いに殺し合いをするらしい」


 ドワーフたちはフレア教徒だったらしく、皆、自身を恥じていた。ゴブリン時代の記憶はないが、エレノアに魂をおおっていた闇を払われた時の体験ははっきりと覚えているという。


「光と闇は二つで一つ。儂らはそんなことも忘れていたとは。なんと情けない」

 ドワーフのひとりが言った。


 彼らは互いに知り合いというわけではないらしかった。ゴブリンの同じ集団に属していても、その魂の由来のドワーフの住居はまったく別の場所だったらしい。


 混乱から覚めたドワーフはエレノアを熱狂的なほど支持した。


「エレノア様のためならば、儂らは肉片のひとつとなるまで働きますぞ」

 などと言って、すんなりとクローディウム帝国の一員となってしまった。

 物事を深く考えないのもドワーフの特徴である。


 エレノアたちがドワーフを連れて戻った時には、さすがに兵士たちも騒ぎになった。

なにしろ、ドワーフを見たことがある者などほとんどいないのだ(他大陸には、未だに五人族が住んでいる)。

 あれは、なんだ? 魔物か? と慌てるのは当然だった。


 エレノアは彼らがドワーフという人族であり、クローディウム帝国の一員であることを説明。

 ドワーフたちは勝手に、兵士たちの間に入り込み、酒を飲み始める。ドワーフは酒が大好物だのだ。


 エレノアはまるで疲れていなかった。眠くもない。このままひと晩じゅうでも起きていられそうだ。

 だが、彼女に従った軍幹部たちはさすがに疲れが見えた。


「ともかく、皆様、今夜はおやすみくださいな。わたくしも休みますわ」

 エレノアは言った。

 疲れてはいないが、サッパリはしたい。あと、いい加減に前髪も切りたかった。


 その言葉をきっかけに、諸将も解散した。


 エレノアは部屋でひとりになると銀の胸当や脚絆、籠手を外して軽装になった。

すると、エレノアの影から、すっと小さな球体で出来た小人が現れる。影人形クロだ。

 クロはエレノアとふたりきりの時にしか姿を現さない。他の誰かがいると影の中に隠れてしまうのだ。


 クロは椅子に腰かけるエレノアの体によじ登り、お気に入りの肩に上った。


「クロさん。なんだか様々なことがどんどんと起こってしまいましたわ。けれど、かなり前進したと思いますの」

 エレノアは言って、クロに頬を寄せた。クローディアスの匂いがする。

 エレノアは目を閉じた。

 すると、ふいに眠くなった。


「クロさん、わたくしと一緒に寝てくださいます?」


 クロが、ポンポンとエレノアの頬を叩いた。

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