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ジークフリートとアライア②

 アルカディア歴1824年7月15日

 ウィンストン街ウィンデア公爵邸 



 アライアが庭の東屋でお茶を飲んでいると、ジークフリートが血相を変えて走ってくるのが見えた。

 例のパーティの2日後のことである。


 ジーク様ったらあんなに慌てて、どうかしたのかしら?


「アライア。君は……」

 息を切らせたジークフリートは言いかけて、アライアの侍女を見る。

「ふたりきりで話したい。下がれ」


 侍女が礼をして、その場から去った。

 それにアライアが不満だったらしく頬を膨らませる。

「私の侍女に命令しないでください」


「そんなことはいい」

 ジークフリートはテーブルにバンと手をついた。それに皿に乗った菓子が跳ねた。

「君はクローム伯爵家になにかしたのか?」


「あら」

 アライアが嬉しそうな顔になった。


 その反応でジークフリートの背中に冷たい汗が流れた。

 彼はつい先ほどクローム伯爵邸の惨劇を聞いたところである。

 皆殺し。兵士、騎士。侍女。もちろん、屋敷の主人のクローム伯爵とその夫人も。令嬢のシャリアも。

 しかも、令嬢と伯爵夫人は裸で凄惨な暴行を受けた後があったという。


「君が、やったのか……アライア、君が……」


「そんな。私のような小娘にいったいなにができましょう? きっとクローム伯爵令嬢の失礼な態度に腹を立てた方が、私に代わってこらしめてくれたに違いないわ。ただの親切ですよ」

 アライアはニコニコと上機嫌だ。


「こらしめた、だと。邸内の者は皆殺しにされていたんだぞ。もちろん、伯爵夫妻も、ご令嬢もだ」


「えっ、殺しちゃったの?」

 アライアが驚いた顔をする。口元に手を当て、失敗した、というような顔になる。


 さすがのジークフリートもこれでアライアがやらせたことを確信した。同時に、彼女が細かい指示を出さずに実行犯がやり過ぎたことも。


「君が何者かにやらせたんだな」


「あっ、ああ、ええと」

 アライアは言葉を濁しながら頭を高速で回転させる。ドジを踏んだ。ジークフリートに自分が暗躍したことを悟らせてしまった。


「そんな、違います。私、そんなことしていません。信じてください」

 両手を胸の前で結び、ウルウルした目でジークフリートに訴える。


 しかし、さすがにここまでくればジークフリートも騙されなかった。

「いいかい、アライア。とても重要なことなんだ。もし、君がこの件に絡んでいるならば……。分かっている。君がそこまでするつもりがなかったことくらい。ただ、少し脅してやろうと、そう考えていたことくらいは分かる。だから、正直に言ってくれ、アライア。伯爵家が無法者に襲撃され、惨殺されたんだぞ。それも陛下の足元のこの街でだ。王都守備隊と近衛騎士団は目の色を変えている。必ず、犯人どもを捕らえ、処刑すると息巻いているよ」


 アライアは顔を伏せた。どちらともとれるような仕草。頭の中は依然、高速回転中。

 このままシラを切るか。いや、シラを切ったところでジークフリートの疑念は消えないだろう。それならば、正直に白状して、ジークフリートを巻き込んだ方が良い。


 こんなつもりじゃなかったの。ちょっと脅すだけのつもりだったの。という感じに。

 そうよ、実際その通りだもの。あいつらがやり過ぎたのが悪いのよ。私は悪くない。


「わ、私が悪いんです。その、クローム伯爵令嬢があんまり私を無視するから。おかげで、パーティの最中にジーク様と口喧嘩しちゃうし。それで私、知り合いに相談したんです。その人、昔から、いろいろ相談に乗ってくれていて。そうしたら、その人、自分がこらしめてやろうって言ってくれて。止めるべきでした。私がしっかり止めるべきだったんです」

 最後は両手で顔をおおって、おいおいと泣いた。


「そうか」

 ジークフリートは、はあ、と安堵の息を吐いた。

 確かにアライアが短慮であったが、だからといって、それほどの罪があるわけではない。


 このあたりジークフリートは浅慮である。自分の都合の良いことばかり信じてしまう。


「だが、そうなるとその知り合いをそのままにはしておけないな。とにかく、分かった。このことは誰にも話さないようにな」


 アライアはいっそう声をあげて泣いた。

 それにジークフリートは憐れみを覚えて、その背中を撫でた。



 ジークフリートは事件の解決に乗り出した。とはいっても、行った先はハリス・ローゼンの執務室である。ジークフリートにとって、もはや困ったときのハリス・ローゼン。もちろん、当のハリスがそうなるようにしむけてきたためである。


 ジークフリートはハリスに事件の真相を説明した。アライアが知人に愚痴をこぼしたところ、その知人がクローム伯爵令嬢に腹を立て、今回の事件を起こしただろうこと。

 なんとしてもアライアに類が及ばないようにしたいこと。


「なるほど。よく分かりました。あとはお任せください。なに、悪いようにはいたしませんよ」

 ハリスが穏やかな笑みを浮かべて言った。


「そうですか。助かります」

 ジークフリートは胸を撫で下ろした。


 ジークフリートにしてみれば、これで全ての問題は解決というところである。なにしろ、エフィレイア王国にとってこの宰相は絶大な権力を有している。ハリスの手にかかれば王都守備隊も近衛騎士団も思いのままだろう。


「では、よろしくお願いします」

 言うと、ジークフリートは軽やかな足取りで退出していった。


 ハリスはついつい苦笑いしてしまう。

 あれくらいの頭の軽さが傀儡にしておくにはちょうどいい。


 だが、ハリスも老い先短い身である。自分亡きあと、国を背負っていくべき次期国王は英邁でなくてはならない。


 フランツ・レイアーは少し武に偏っているところはあるが素地は悪くない。

 なによりジークフリートのように場当たり的な行動をとらないところが良い。感情的なところはあるが、行動は慎重で思慮深いのだ。10年も経てば良い王になるだろう。


「さて、あとは仕上げか」

 ハリスはつぶやいた。



 クローム伯爵家を襲った惨劇の話は瞬く間に広まった。貴族たちは元より、庶民の間にまでも噂は広まり、しかも、ことの真相までもがひそやかに人から人へと伝えられていった。


「大きな声じゃ言えないが、どうも、あのアライア・フローリーが部下にやらせたんじゃないかって話だ。クローム伯爵令嬢はエレノア様と仲が良かったから。アライア・フローリーのお茶会やパーティの誘いを断ってたらしい。それに腹を立てたのさ。その証拠に、クローム伯爵家が襲われる前日アライア・フローリーは大きなパーティを開いたんだが、やっぱりそこにもクローム伯爵令嬢は出てなかった。そのことを怒って婚約者の王子と言い合ってたのを聞いた人もいるらしい。さらにだよ。パーティの途中でアライア・フローリーは退席したんだっていうんだよ。彼女の馬車が夜の街を走って行くのを見たってやつもいるらしい。それにしても、なんて女だろうな。エレノア様を追放にまでおいやって。今度はそのお友達まで一家皆殺しにして」


 このような噂が街のいたるところで囁かれた。もちろん、社交界でもヒソヒソと。

 もともとアライアの評判は極めて悪い。

 これはエレノア人気の裏返しでもあるのだが、とにかく無分別な行動が多いのだ。


 あんな女を王妃にしていいのか?

 などと、誰もが思い始めていた。


 そこにまた事件が起こった。

 アライア・フローリーが冒険者をスカウトして、勝手に自身の親衛隊を作ってしまったのだ。しかも、ジークフリートの名を借りて、である。



 ことの起こりは、クローム伯爵家襲撃事件から3日後。

 アルカディア歴1824年7月18日。


 ウィンデア公爵邸にいるアライアをゼットが訪ねてきた。それもならず者たちを引きつれて。


「ちょっと、なにを考えてるのよ。あんた、自分の立場、分かってるの? 大罪人よ」


 アライアはゼットを塀の影に引き込むと、声をひそめて言った。


「もちろん、分かっておりますとも。あなたが、我々を切り捨てようとしていることもね」

 ゼットがニヤリと笑う。


「そ、そんなことは考えてないわ。誤解よ」

 言いながらも、アライアには確信がない。


 なにしろ、ジークフリートの言うには、宰相ハリス・ローゼンが後始末をしてくれるとのことなのだ。

 ハリス・ローゼンがゼットとその一派を事件の犯人として叩き潰そうとしている可能性は高い。


「いいですか? 次期王妃様。私は全部、話してしまいますよ。あなたに相談されたことを全部。もちろん、エレノア・ウィンデアをはめたことも全部です。ジークフリート王子もさすが呆れるでしょうね」


「あんたの言うことなんて信じるものですか」

 言いながらも、アライアは危機感を感じた。例の事件のことが無ければどうということはないだろうが、今はまずい。

 ジークフリートのアライアに対する気持ちが冷めてしまうかもしれない。


「それにね、アライアお嬢様。重大なことを忘れていませんか?」


「重大なこと? なによ」


「報酬ですよ。報酬。まさかタダで危ない橋を渡らせたなんて言わないでしょうね」


「……いくらよ」


「そうですね。予定よりも多くなりそうですよ。なにしろ、切り捨てられそうなので、一家で王都を離れなくてはならない。引っ越し代がかかるのですよ」


「だから、いくらよ」


「1億ルーガ(1億円)ってところでいかがです? 未来の王妃様にしたら、はした金でしょう?」


「はあ? そんな大金払えるわけないじゃない。ふっかけるんじゃないわよ」


「こういうのがあるんですよね」

 言ってゼットは首から下げた黄色い半透明の三角錐のペンダントを指でつまんだ。


「今夜もクローム伯爵令嬢は来なかった。私を舐めているんだわ。あんた、どう思う?」

「放っておいていいのかって言ってんのよ。あんたならどうする? 自分のことを舐めてる相手がいたら?」


 あの夜のアライアの声がペンダントから聞こえてた。


「な、なによ、それ」

 言いながらゼットのペンダントに手を伸ばす。


 ゼットがひょいっと身をかわした。

「こいつをジークフリート王子の机にでも置いておきましょうかね。さて、あなたはすべてを正直に話しているのか……」


「わ、分かった。分かったわよ。なんとかするから、今日は帰りなさい。あんたみたいなのと会ってるのが知られたらまずいのよ」

 アライアは言うと、ゼットをなんとかかんとか追い返した。


 幸運にもゼットとのやりとりは門番以外には見られていない。門番には固く口止めしておいた。ことが片付いたら始末した方が良いかもしれない。


 だが、それよりも今はゼットだ。

 1億ルーガ。ウィンデア公爵邸にある調度品やらを売ればそれくらいは簡単に集まりそうだが、さすがにまずい。ジークフリートにねだるにしても、額が高すぎる。


 ううん、ううん、と悩んでいると、侍女のリアッテが見かねて聞いてきた。

「どうかされましたか? アライア様」

 

 男爵家にいた頃からの侍女で、元は町娘だったアライア(アライアは男爵が平民に産ませた子供、ということになっている)の教育係でもある。

 20台後半の長い黒髪の美女だ。

 ゼットを紹介したのも彼女である。


 アライアはリアッテにすべてを話した。

 もともと、彼女には全幅の信頼を寄せており、様々なことを話している。以前は、ゼットとのやりとりも彼女が間に入って行っていたのだ。

 ただ、ここのところ体調を崩しており、例のパーティ前後は不在だったのだ。そのため、今回の騒動を相談することができずにいた。


「でしたら、あの男を始末すれば良いのです」

 話を聞き終えたリアッテは穏やかに微笑んで言った。


「でも、あいつら盗賊団なんでしょう?」


 アライアには護衛の騎士たちがついているが、それほど腕が立つわけではない。なにしろ、ジークフリートの親衛隊の見習いたちなのである。身分は高いが本当の荒事には向かない。


「戦闘のプロを雇えば良いのですよ。クローム伯爵家の襲撃事件のせいで、皆さん、屋敷の警護を厚くしています。次期王妃たるお嬢様も警護を厚くしたところで誰も不審には思いませんよ。そして、倒すのは名もなき盗賊たち。クローム伯爵家を襲撃した犯人を討ったとなればお嬢様の誉れにもなります」


「なるほど。それはそうね。でも、そのお金はどうするの? お父様が出してくれるかしら?」


「お嬢様にはこれ以上ないほどの信用があるではありませんか。御婚約者様の名を聞けば、どのような者たちでも競って、お嬢様のために働きましょう。そう、成果を上げれば騎士に取り立てるというのはどうでしょう?」


「それでうまく働いてくれるかしら」


「では、ジークフリート様の印章をお借りすれば良いではありませんか。王太子の印章です。これならば契約としては間違いがありません。相手も納得するでしょう」


 アライアはリアッテの提案を検討した。

 ジークフリートに貸してと言ってもなにに使うのか、といぶかしがられるだろう。勝手に借りる方が良いだろう。隙を見て拝借するのは難しくはない。


「そうね。そうするわ。それで、誰を雇えばいいの? あなた、当てはある?」


「素性確かで戦闘にも慣れている。冒険者が良いのではないでしょうか? 冒険者ギルドに所属している者ならば、人柄も能力も最低限は保証されていますし。彼らは加護技スキルを持っている者も多いのです。頼りになりますわ」


「分かったわ。そうしましょう。ありがとうリオッテ。やっぱりあなたは頼りになるわ」

 アライアはすっかり侍女の提案に乗り気になった。

 これまでの彼女に対する積み重なった信頼がそうさせたのだ。


 だが、アライアは知らない。

 この侍女からして、ゼットの配下だということを。



 さっそくアライアはジークフリートの印章を手に入れた。これは難しくなかった。なにしろジークフリートもこのウィンデア公爵邸に住んでいるのだ。ジークフリートが屋敷で執務を行う一室に、彼の留守中に入って予備の印章を取ってくるだけで終わった。


 その後、冒険者ギルドへ行き、護衛を雇いたい旨、ゆくゆくは自分の騎士にしたい旨を告げる。

 対応したギルド長はアライアをあまり信用していない様子であったが、ジークフリートの名を出すと納得した。なにしろ、正式に王の後継者となっている王太子である。

 王家が保証するようなものなのだ。


「護衛とおっしゃるいますが、なにか直近での仕事はあるのですか?」


「そうね。せっかく雇うのですもの。腕が確かなことを見たいわ。ほら、クローム伯爵家を襲った連中がいるじゃない。あいつらを退治するなんてどう?」


「しかし、そちらは王都守備隊と近衛騎士団が犯人を探しているのでは?」


「だから、彼らを出し抜いて手柄をたてるのよ」


 なにしろアライアは王太子の印章を持っている。つまり、正式な代理人としての立場なのだ。ギルド長からすればそれは王太子の意向にしか思えない。まさか勝手に持ち出してきた、とはさすがに考えつかなかった。


「分かりました。腕が立ち冒険者を引退したがっている者に声をかけてみましょう。人数は10人で良いでしょうか?」


「それじゃあ、少ないわ。盗賊たちは人数が多いのよ」


 ギルド長が苦笑いした。

「大丈夫ですよ。冒険者は戦闘のプロですから」


 こうして、冒険者ギルドではアライアの護衛仕事を請け負うべき人材を探すことになった。

 ゆくゆくは正式な家臣として取り立てて貰えること。最初の仕事はクローム伯爵家を襲撃した犯人を討伐すること。


 話を聞いた冒険者たちもアライアの噂は聞いている。彼女がクローム伯爵家を襲わせた黒幕だろうに、なぜ、討伐なんかを?

 と、当然の疑問が浮かぶ。


「その噂を消すためじゃないか? なにしろ次期王妃だからな。となると、宰相様の差し金かもしれんな」


「じゃあ、アライア嬢は盗賊たちを切り捨てるわけか。つくづくひどい女だな」


「だが、そうなると盗賊退治は確定ってことになる。家臣になるうんぬんはともかく、悪くないかもな」


 なにしろクローム伯爵家襲撃事件は稀に見る凶悪事件。王都守備隊と近衛騎士団が血眼になって犯人を探している。それを討ったとなれば、その名誉はいかほどのものか。武名を上げるには実に良い依頼だ。


 それに次期王妃の家臣ともなれば、ゆくゆくは王家の碌を食むことになる。一介の冒険者が地方領主の騎士よりも上の身分となるのだ。これは痛快だ。


 そういったわけでアライアの護衛を引き受ける冒険者の選定はスムーズに進んだ。

 冒険者は不安定な仕事である。安定した収入があるわけではない。特に家庭を構える男性は安定収入が得られるなら一兵士になっても良いと考える者も多い。

 そういった者は、冒険者をやめてどこかの金持ちの護衛をやったりする。転職を考えていた冒険者にとって今回の依頼はこれ以上ないほど魅力的だった。


 翌日にはアライアの元へ冒険者ギルドから使いの者やってきた。護衛仕事を受ける冒険者の選定が終わったので確認して欲しいというもの。

 アライアはすぐに冒険者ギルドへ行った。


 通されたのはギルド長の執務室。待つこと数分。一度、退出したギルド長が冒険者たちを伴って入ってきた。

 主に30台の男性。中には40以上に見える者もいる。女性も3人交じっていた。こちらは1人が20前後。あとの2人は20台後半から30前半。


「女もいるの?」

 アライアは彼女たちを見て不満を覚えた。


「アライア様の護衛ですからね。男性ばかりでは不便であろうと思いまして」

 ギルド長が言った。


 言われてみれば確かにその通りである。

 男性だと外してもらいたい場面も、同性ならば気兼ねすることはない。


「それもそうね。みんな、腕は確かなんでしょうね?」


「主にBランク、Cランクの者たちです。盗賊の集団など彼らにかかればなにほどもありませんよ」


 これはギルド長の誇張ではない。

 なにしろ冒険者が主に相手をするのは魔物である。そして、魔物は一切容赦することなく人間を殺しにくる。毎日命がけの戦いをしている者たちと、人間相手に喧嘩をして、ときどき殺し合いをする程度の者たちでは、くぐり抜けた修羅場が違う。

 ましてや街中で強盗や盗みをしている程度の盗賊団では相手にならないだろう。


「でも、相手の盗賊たちは騎士も倒してるのよ」


「同じことですよ。冒険者は戦闘のプロですから」


 実際、ギルド長が選んだ者たちは全員、優秀だった。B、Cとはいっても、冒険者のランクはFから始まるのだ。だいたいの冒険者はC止まり。優秀な冒険者がBランクに上り。その中でも一握りの冒険者がようやくAランクに到達する。


「我らの実力をお疑いとあれば、模擬戦でも披露しましょうか?」

 冒険者のひとりが言った。


「いいわ。ギルド長を信頼します」


 アライアにしてみれば模擬戦など見せられても判断のしようがない。ギルド長が大丈夫だというのならば大丈夫なのだろう。

 もし、失敗したら、改めて、別の人間を雇えばよい。


 こうして、アライアは自身の親衛隊予備軍を雇った。さっそく彼らを伴ってウィンデア公爵邸に戻る。

 途中、冒険者のひとりで、一番若い20前後の女性と仲良くなった。フェリルという探査師スカウトで、『障害物通過』という珍しい加護技スキルを持っている。


 実際に馬車をすり抜けた様を見てアライアは大興奮。馬車に同乗してもらい、あれやこれや質問した。


 ちなみに彼らを連れ帰る際に冒険者ギルドとは正式に契約をしている。その契約書には、ゆくゆくはアライアの親衛隊に取り立てるという文面もあり、そこにはジークフリートの印が押されていた。




「それじゃあ、さっそく今夜、盗賊団を倒してもらうわよ。いい、ひとり残らず殺しなさい。捕らえる必要はないわよ」

 屋敷について早々、アライアは彼らに言った。


「しかし、相手の居場所がわからないことには」

 冒険者の中で一番年かさの男が言った。ガイエスという40男で、暫定的にリーダーを務めることになった。元Bランク冒険者である。


「アジトなら分かるわ。ボスはゼットって男よ」

 などとさらっと口にしてしまう。

 なぜ、そんなことを知っているのか? と疑われることを考えていない。


 冒険者たちにしてみれば、これはやはり事件の黒幕はアライアだったのか、と確信する発言であった。何人かの目がすっと細まった。


「では、下調べをしておきましょう。リック。フェリル。頼めるか?」

 ガイエスは同僚の冒険者2人に言った。


 フェリルは前述の若い女性の探査師スカウト。リックは汎用魔術師メイジである。ふたりとも元は同じパーティで恋人同士である。調査や護衛の依頼が得意なふたりであった。


 そうして3時間ほど経った頃、偵察に行ったふたりが戻ってきた。


「確かにならず者たちがたむろってたぜ。どうやら黒だ。連中、クローム伯爵家の襲撃のことを楽しそうに話してたぜ」

 リックはまず、ガイエスに報告した。


「人数は?」

 ガイエスが問う。


「30人だな。まあ、外に出てるやつもいるだろうが。極端に多いってことはねえよ」


「我々で行けそうかね?」


「十分すぎるな。なんつうか、素人に毛が生えたような連中だよ。ただのチンピラの集まりだな」


「だが、そんな連中が騎士を倒せるのか?」

 ガイエスは首をひねった。伯爵家の騎士ならば、それなりの者がいたはずだ。不意を突かれたとはいえチンピラたちに遅れをとるとは思えない。


「それはやっぱり、宰相様絡みじゃねえのか?」


 チンピラはただのカモフラージュで、実際に騎士や兵士を倒した者は別にいる。確かにそれ一番可能性が高そうだ。

 となると、ここでアライアの手で盗賊を倒すまでがセットだということか。


「それなら遠慮なしにやらせてもらおうぜ。クローム伯爵家には世間も注目してるからな。その賊を討ったとなったら拍もつくってもんよ」

 別の男が言った。


 その後、ガイエスからアライアに報告。

「予定通り、今晩、賊を討伐してまいります」


「ええ、任せたわよ。いい? 黄色いペンダントをしてるやつがゼットって男よ。そのペンダントは取り返して私のところにもってきなさい」


「分かりました」

 ガイエスは深々と頭を下げた。

 それにしても、と思う。このアライア嬢のうかつさ。見え透いているとはいえ、もう少し取り繕った方が良いのではないだろうか。

 自身がこれから仕える主人が心配になるガイエスであった。

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