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ドラゴン退治へ

 今回のレッドドラゴン討伐隊はシルヴィオ伯爵自らが指揮を取る。

 何としても今回で勝負をつけるつもりで、騎士団全員を引きつれ、さらには冒険者ギルドから2組のAランクパーティと5組のBランクパーティが参加。従卒等も含め、総員200人規模である。


 もともと、エレノアがアロアーに到着する前から、大規模な討伐隊を組織していたため、出陣はエレノアがシルヴィオ伯爵と会見した1週間後、アルカディア歴5月15日のことであった。


 隊列は、最前にAランク冒険者パーティ『ウォー・フレイム』。次にシルヴィオ伯爵率いる騎士団。その後、Bランクパーティが続き、最後にもう一つのAランク冒険者パーティ『マルス・マリス』となる。


 エレノアはシルヴィオ伯爵カイルのそばで、彼の息子と馬を並べて進軍。もちろん、ロディも一緒である。

 当初、エレノアはロディを連れてくる気はなかった。

 腕に自身のない彼では、足手まといになるだけだと思ったのだ。


「それは楽でいいですがね。公爵令嬢が供も付けずに単身でってのもかっこうがつかないんじゃないですか? それにお嬢はひとりじゃなにもできない人だし」


 ロディに容赦なく言われ、エレノアは彼をキッと睨みつけた。

「わたくしはエレノア・ウィンデアですわよ。大抵のことはできましてよ」


「じゃあ、食事はどうするんです」


「……あちらでご用意してくれたりはなさらないのかしら」

 いきなり不安になった。


「まあ、用意はしてくれるでしょうが。それを前提にするのもどうかと思いますよ。干し肉や硬パン、粉スープくらいは持っていった方がよいんじゃないですか? 粉スープの作り方わかります?」


 粉スープとは豆や木の実などを魔法で乾燥して粉末状にし調味料と混ぜ込んだものを、水に解いて作る即席スープである。栄養価が高く、冒険者は重宝している。


「そうですわ。指輪にあらかじめ調理した物を入れておけば良いのです。それならば問題ないでしょう?」


「寝床はどうするんです? 馬車の中というわけにはいきませんよ」


「……あちらで、テントなど、ご設営されるのではなくて?」


「普通の行軍ならそうかもしれませんが、ドラゴン相手ですからね。開けたところで陣を張るのは危険でしょう。ある程度分散して、寝袋で眠ることになるでしょうね。寝袋の使い方はわかりますか?」


 寝袋?

 エレノアの頭に疑問符が浮かぶ。袋状になったベッドを思い浮かべる。


「寝袋というのは、名前の通り袋状になった寝具ですね。ギガフロッグの皮などにクッションを詰め込んだりしたもので、その中に入って眠ります」


「……」

 エレノアには、まだイメージがわかない。


「あとは、例えば、トイレに行くときとか、お嬢ひとりだと言い出しづらくないですか? シルヴィオ伯爵に、お手洗いに参りますわ、と毎回言うのも嫌でしょう?」


 確かに、とエレノアは思った。

 ロディと馬車で旅をしているときは、彼が小まめに休憩を入れてくれるので、その折に、少し外しますわ、と言って木陰で用を足したりする。

 だが、行軍中に、少し外しますわ、と言って察してもらえなかったら非常に困る。

 考えてみれば、ロディはなにかと気が付いてくれて、不便があったときはすぐにさりげなく手助けしてくれていた。


「ロディさん、あなた、実はご有能でしたのね」


「なにを今更。俺は、とっても役に立つ御者なんですよ。まあ、そいうわけだから、一応、ついてくことにしますよ。その分、特別に給金を弾んでくださいね」


 こうして、ロディも同行することになったのである。


 ロディは徒歩。エレノアのまたがる馬の真横を歩いている。

 同じような徒歩でも、騎士たちの従卒が革鎧などで武装しているのに比べ、いつも通りのシャツにベストにズボンというかっこう。ひとりだけ非武装である。


 レッドドラゴンの住むという山に向かい、街道を進む討伐軍。

 通りかかった旅人は、物々しい一団に慌てて道を開ける。


 中には祈るような顔で見送る者や、膝をついて頭を垂れる者もいる。ドラゴンに故郷を焼かれた者たちだろう。


 アロアー街からレッドドラゴンの巣くう山までは、徒歩で丸一日というところ。途中まで街道沿いに進めば良い。


 行軍中、エレノアは並んで馬を進めるシルヴィオ伯爵カイルの長男アレックスとよく話した。

 年齢はエレノアよりもふたつ年下。

 あまり口数の多い方ではないカイルとは正反対に、よく話す。エレノアに興味津々の様子であった。 

 ジークフリートになぜフラれたのか、追放されて悔しくはなかったのか、など無遠慮に突っ込んだ質問を次々としてくる。


 それを無下にもできず、時には言葉を濁して応対した。


「それじゃあ、ジークフリート王子は昔からエレノア様のことを嫌っていたってことなんですね」

 大声でアレックス。彼はとにかく声の音量を調節しない。常に大ボリュームだ。

「恋焦がれて会いにきたエレノア様に、お会いしたかったですわ、とか潤んだ瞳を向けられても、こいつ早く帰らないだろうか、とか思っていたんですね」


「……そうかもしれませんわね」


「ひどいじゃないですか」

 アレックスが言った。手綱を離して、パンと、拳を手の平に打ち付ける。

「なんという人でなしですか」


「アレックス様。他国の王族をそのようにおっしゃってはなりませんわ。そういうことは、こう胸のうちに秘めておくものですのよ」

 たまらずにエレノアは言った。


「すいません。俺、どうも考えていることを口に出しちゃうんですよ」

 ははは、と大笑いする。

「さっきも、エレノア様に目つきが鋭すぎて、睨まれているみたいですよ、って言ったのも、別に悪気はなかったんですからね」


「……ええ、存じておりますわよ」

 悪気が無ければなにを言っても良いわけではありませんけど、とエレノアは内心毒づく。


 悪気はないのはわかる。性格もさっぱりしていて、正直なのもわかる。

 だが、要するに、致命的なまでにデリカシーがないのだ。


「それにしても、ジークフリート王子も、なんだって婚約破棄なんかしたんですかね。ほかに好きな女性がいたって、愛妾にでもすればいいじゃないですか。ねえ」


「……さあ、どうなのでしょうか。わたくしにはわかりかねますわ」


「そこは聞いてみなかったんですか。ほら、『真実の問い』でしたっけ? すごい加護技スキルですよね。でも。ちょっと地味かな。戦いには役にたちませんもんね」


「そうですわね。カイル様の『凍結攻撃』はとても強力な加護技スキルですもの」

 話題をそらそうとエレノア。


「役に立ちますとも。見ていてください。『竜殺ドラゴンスレイヤーし』の名は俺がもらいますよ」


「矢にも属性をお乗せできますのよね」


「ええ、もちろん。ですが、弓矢なんて使いやしませんよ。やっぱり、男なら、剣ですよ。剣」

 言って腰に刺した剣の柄を叩く。

「まあ、それはいいとして。ジークフリート王子とは、実際、どの程度の関係だったんですか? つまり、男女の仲としてですよ。ほら、エレノア様も、ええと18でしたっけ。それくらいの年なら子供がいる女性も多いですし」


「……はい?」

 エレノアはわざと質問がわからない振りをした。かなり不機嫌そうに。

 実際、不機嫌でもあるのだが。 


「ですから、男と女がね、するじゃないですか。ほら、ね。婚約者なんだから、遠慮することはないわけですし。エレノア様、美人だし、いくら嫌っていても男なら、一回くらいは……」


 ああっ、とロディが大きな声をあげた。


「大変ですよ、エレノア様。重要なことを忘れていましたよ」

 慌てた声で下から言う。


「どうかなさいまして、ロディさん」

 今にも爆発しかけていたエレノアは、ロディに問いかけた。声に怒りがこもっている。


「俺、エレノア様に許しをこわなくてはならなかったんですよ。エンペラーフロッグの寝袋が手に入らなくてですね。ギガフロッグの寝袋になってしまいました。お許しを」


「あら、そのような些事さじ、別に……」


「ああ、公爵令嬢のエレノア様には極上の寝袋を使っていただくべきなのに。俺はなんて駄目なやつなんだ。俺のような庶民は、公爵がどれほど偉いかつい失念してしまいますけど、確か、伯爵様よりもかなり偉いんでしょう? 伯爵、侯爵ときて、公爵でしたっけ? エフィレイアでは公爵家は二つしかなくて、ウィンデア家はその一つ。クレイモス王家とも親戚でしたよね」


「ええ、わたくしの父は現クレイモス王のいとこですわね」


「そんな方にただのギガフロッグの寝袋を使っていただくなんて。なんてことだ」

 大げさに嘆く。


 もちろん、ただのパフォーマンスである。

 アレックスにエレノアの身分を思い出させ、無礼な言動を慎ませようとしたのである。

 ロディの見るところ、アレックスはエレノアに好意をもっており、あわよくばと考えているようだ。


「ははは、気にすることはないよ、君。エレノア様には個別にテントをご用意するからね」

 アレックスが言って、エレノアの馬に馬を寄せた。

 近い。馬同士がぶつかりそうだ。


「よければ、俺のテントに来たらいい。甲斐性なしの王子よりは満足させますよ」


 次の瞬間、アレックスが馬から落ちた。

 エレノアが『衝撃』の魔術で吹っ飛ばしたのだ。あまりの速さに誰も気づかなかったことだろう。


「アレックス様、ご無事ですか? いきなり落馬されるなんて、どうなされましたの?」

 エレノアが棒読みで言った。


「馬を寄せすぎたために、馬が嫌がって跳ねたんでしょうね。まあ、よくあることですよね」

 ロディもそれに追従。


 すぐに従卒に助け起こされたアレックスは、首をひねった。

「一体なにが起こったんだ。いきなり、なにかがぶつかってきたような感じだったが」


「馬が体を揺らしたんですよ。あまりにも急な動きのために、なにかにぶつかられたような気がしたんじゃないでしょうかね」


「そうなの? なるほど、そうかもしれないな」

 そうして、また馬上に戻った。


「また馬が暴れてもいけませんし、わたくしは少し離れますわね」


「それがいいですね。馬もしばらくは気が立っていることでしょうし。総大将のご子息が2度も落馬されては縁起も悪い」


 エレノアとロディが間髪置かずに言って、そのままアレックスの側を離れた。


「エレノア様にはああいう表裏のない男性が良いかもしれませんね」

 十分離れたところで、ロディ。


「もう一度、同じことをおっしゃい。そのお口、引き裂きますわよ」

 本気で睨む、エレノアであった。

 


 行軍は日暮れとともに終わった。

 ちょうど、小さな街に付いたところである。

 シドレルというその街は、粗末な家屋が雑多に寄せ集まってできていた。それらの間に焼け、崩れた廃屋がいくつも見えた。

 エレノアは、夕焼けに赤く照らされたこの街が、ドラゴンによって一度、焼かれた街だと理解した。


「周辺の村も、いくつか焼かれました。その避難民たちがこちらに集まっているのです」

 シルヴィオ伯爵カイルが言った。

「もちろん、ここも安全ではない。いつ、ドラゴンが飛来するか分かったものではありません。だが、誰もが遠方へ逃げられるわけでもない」


 ドラゴンに怯えていても、故郷を遠く離れることに抵抗のある者も多い。そうそう

知り合いもいない見知らぬ場所に、移り住むことができるものでもない。


「なんとしてもドラゴンを倒し、領民を安心させてやりたいのです」

 シルヴィオ伯爵カイルは決意を込めていった。


 シルヴィオ伯爵はこんなにも立派ですのに、とエレノアはついつい息子アレックスと比べてしまった。

 もう少ししっかりと息子を教育した方がよいのではないだろうか、などと余計なことを思ってしまう。


 街とはいえ、避難民たちのための急造のものである。宿泊施設などない。それでも、エレノアには、いくつかあった空き家のひとつがあてがわれた。

 エレノアは、恐縮しつつも素直にシルヴィオ伯爵の心遣いを受けた。断れば断ったで気を遣わせてしまうことになるので、受け入れた方が良いと思ったのだ。


 夕食はシルヴィオ伯爵とその息子アレックス、さらには騎士団の幹部と一緒にたき火を囲んで食べた。

 粉っぽいスープ(これが粉スープですのね)、焼いた肉の塊(これは、かぶりつかなくてはならないのかしら?)、かゆのようなもの(???)。


 夕食の席ではアレックスが、ドラゴンを倒すのは自分だと豪語して、騎士団の面々からはやしたてられていた。

 シルヴィオ伯爵はそんな息子を、苦笑いを浮かべて黙って見ていた。


 その後、騎士団幹部からエレノアのセクプトでの活躍について話が広がり、エレノアは一からあの街での出来事を話すことになった。


「『紅騎士くれないきし』と一騎打ちして倒すなんて。エレノア様は見かけによらず強いんですね。俺とどっちが強いかな?」

 などとアレックスが調子に乗ったが、シルヴィオ伯爵に注意され、それ以上食ついてはこなかった。


 食後、ドラゴンとの戦いについての作戦会議が開かれる。これには、冒険者の代表者たちも出席。それぞれの役割を決めていく。


 なにしろ相手は空が飛べる。戦うなら巣穴にいる時を狙うしかない。

 精鋭部隊で巣穴の洞窟に突入し、残りの者は洞窟入り口で待機。ドラゴンが外へ逃げ出そうとしたところを内と外から叩く。


 重要なのはもっとも危険な役割である巣穴への突入部隊の選抜である。


「それは我々、冒険者がやるべきだろうな」とAランク冒険者パーティ『ウォーフレイム』のリーダー、ガウゼス。

 発光する白色金属ミスリルの鎧に籠手、両腰に剣というスタイルの戦士である。年齢は30半ば。


「まっ、そのために呼ばれたわけだし」ともうひとつのAランクパーティ『マルス・マリス』のリーダー、エリカ。20台後半の女射手である。


 Bランク冒険者のリーダーたちも次々に声をあげる。あわよくば、突入部隊で倒し、『竜殺ドラゴンスレイヤーし』の称号を得たいとの考えだろう。


 もともとシルヴィオ伯爵も騎士団幹部もそのつもりだったのだろう。これはすぐに了承され、冒険者パーティたちで突入部隊を編成することが決まった。


 と、そこで、アレックスが大きな声で言った。

「俺も、一緒に巣穴に入らせてもらうよ。なんとしても、この手でドラゴンを倒したいからな」


 領内を荒らす凶暴なドラゴンを倒したとなれば、次期領主として箔もつくというものである。


「父上、構いませんよね」


 シルヴィオ伯爵カイルが難しそうな顔をする。彼としては、息子に一歩引いた視点でこの戦いを見て欲しいと考えていたのだ。

 それには突入部隊ではなく、自身とともに出口で騎士団の指揮をとってもらいたい。

 だが、同時に、戦功にはやる息子の気持ちも理解できた。それが後々、息子にとっての大きな支えになることも。


 シルヴィオ伯爵は出陣前にすでにその話を騎士団幹部にしている。果たしてどちらが良いか、という相談も。

 騎士団の団長と副団長はそれぞれ意見が割れている。団長はカイルと同じように、後方から大局を見て欲しいという意見。

 副団長は危険だが突入部隊に入り、戦功を立てるべきだと主張。


「エレノア殿はどう思われますか?」とシルヴィオ伯爵カイル。

 外部からの客観的な意見を聞いてみたかったのだ。

「息子には私とともに後方にいて欲しいという想いもあるのです。ただ、ドラゴンに止めをさす役目が果たせれば、それは大きなほまれとなる」


「後方にてお待ちになるべきですわ。思うに、冒険者の方々には冒険者の方々のやりようがあるのではないでしょうか。アレックス様がお交ざりなさったら、不測の事体が起こるかもしれませんし」

 要するに、部外者が入れば邪魔になるのでは、ということである。


「俺とて、わきまえていますよ。エレノア様」

 心外だ、と言わんばかりの顔でエレノアを見る。


 わきまえていれば最初から、突入部隊に入れて欲しいなどと言いませんわ、とエレノアは思った。

 どうして冒険者の足を引っ張るわけがないと思えるのだろうか。その自信がどこから来るのか、エレノアは心底不思議であった。


 ふむ、とシルヴィオ伯爵カイルが顎に手を当てる。

「やはり、アレックスは騎士団とともに戦うように。万一にでも、冒険者方の足を引っ張り、作戦の成功率を下げては目も当てられん。同様にエレノア殿も外での待機をお願いしたい」


「父上」

 アレックスが不満を口に仕様とするが、シルヴィオ伯爵カイルのひと睨みで口を閉ざした。


うけたまりましたわ」

 エレノアが言った。

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