聖女召喚の儀
聖女召喚の儀——。
それは大陸随一の大国、エーデルシュタイン王国に古くから伝わる特別な儀式の名である。
しかしながら、聖女は遥か昔に一度だけ召喚されたのみで、その当時のことを記した詳しい文献はおろか儀式の手順すらも残っていないらしい。口伝のみで今日まで受け継がれて来た御伽話のような、誰も本気で信じることの無いような与太話に過ぎないということだ。
そんな迷信級の儀式で小夜が呼び出されてしまったのだからたまったものではない。
因みに聖女とは、奇跡の力で傷付いた人々を癒す慈愛に満ちた心優しき乙女のことである。
村に向かう道すがら話を聴いた村人Aによると、自称王国一の魔女である老婆が天に向かって杖を掲げ異国語の呪文を唱えた後、召喚陣から眩い光が放出しだしたらしい。
しかし、光が消えた後待てども待てども聖女が現れることは無かった。その代わりに、何処からか奇怪な衣服を纏った小夜が現れたとのことだ。
(奇怪って失礼ね! 私から見ればアナタたちの方が余程可笑しな格好なんだけど⋯⋯!?)
そう思いながら小夜は自身の服装を見やる。グレーのジップパーカーに白いTシャツ、ジーンズ、スニーカーという何処にでもいる若人の格好だ。
不慮の事故により小夜が召喚されたのは宝石の名を冠するエーデルシュタイン王国がデュースター村である。
この国は、建国時に神より自由と富を賜ったという。そのことから神の恩寵を受けた国とされ、王族は神の子孫と言われ強大な魔力を持ち、尊敬と畏怖の対象となっている。
国石はエーデルシュタインの名産品でもありこの国からのみ産出される希少なブルーダイヤモンド。ナショナルカラー(その国を体現する色)も青としており、それは国旗にも反映されているらしい。
青は尊き血の色、王族やそれに連なる高貴な者の色とされ、それ以外の人間が身に付けることは決して許されない。真偽のほどは定かでは無いが、禁忌を犯した者は世にも恐ろしい目に遭うのだという。
小夜はその事を聴いた時、直ぐさま自らの下半身を凝視した。
何故なら、小夜は身体にぴったりとフィットする細身のジーンズを身に付けていた為だ。
(こっ、これは⋯⋯セーフ? それともアウト!?)
暫しの間熟考し、厳密に言えばジーンズの色は青では無く水色であるからして問題ないのだと自己解決した小夜はホッと息を吐く。
不意に、気持ちを落ち着けた小夜の脳裏には新たな疑問が浮かんだ。
何故、成功するかも分からない儀式をデュースター村の人々は執り行なったのだろうかと——。
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