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愚民諸君、我々資本家は雇用を創出して「やって」いるのだ!  感謝するように。

イオルマート。


王国を牛耳る巨大商店チェーン。

個人商店しか存在しない町に出店し、安売り攻勢で地元の競合商店を次々と倒産、廃業に追い込んだ挙句、不採算を理由に撤退するという形(いわゆる焼畑商業)で暴利を貪る悪徳企業である。

筆頭御用商人である為、誰も文句が言えない。

税金は払っていないが、献金には熱心なのでその地位は盤石である。


賃金が安い事で有名であり、法定最低賃金の650ウェンしか支払わない事で有名。

創業者のダカオ社長が王都評議員に立候補する際、時給1000ウェンを公約に愚民票を集めたが、当選した瞬間に公約を撤回した。


僕の母さんは昔は街の商店で働いていたが、イオルマートに商店が潰されてからそこで働くことになった。

給料が下がるわ仕事量が激増するわで、かなり悲惨な職場環境だったらしい。

母さんは総菜コーナーに勤務しており、夕方から深夜までは割引シールを1人で延々と貼り続ける作業をさせられていた。

(親の職業は子供のスキルに強い影響を与えると授業で習った事があるので、僕のスキルが【5割引き】なのはきっと母さんの影響だろう。)

母さんは低賃金で朝から晩までコキ使われて、過労死した。



だから。

息子の僕がイオルマートに就職すると言った時は、周囲の友人達から大いに呆れられ軽蔑された。





「はあああ!?

卒業出来なかったあああ!?」



目の前で発狂しているのは、この街のイオルマートの人事担当さんだ。

彼は彼で厳しい求人ノルマを課せられているらしく、大変そうだ。



『やっぱり内定は無効ですかね?』



「当たり前だるぉおおおおお!?

天下のイオルマートが…


いや、待てよ。

人手不足だからな…

どうしよう?」



イオルマートは給料が安いので、いつも人手不足に悩まされている。

てっきり、即座に内定取消になると予想していたのだが、そうでもないようだ。




人事さんがブツブツ言っていると、手前の事務室の方から物凄いざわめきが聞こえてくる。



「総員、配置に戻れ!

用事があればこちらから声を掛ける!

1秒たりとも時給を盗む事は許さん!

さあ作業再開!」



そんな怒鳴り声がドアの向こうから聞こえたかと思うと、突然乱暴に扉が開いた。

目の前には立派な身なりの青年とその取り巻きらしき連中が立っていた。



「図が高い!

カッチャ専務閣下の抜き打ち視察である!」



取り巻きが怒鳴ると、人事さんは「ひええ!」と叫んで土下座した。

突然の事に僕は思わず反応が遅れて、土下座のタイミングを逃す。

(速度も【5割引き】されてるから仕方ないよね。)



「き、キサマー!

専務閣下の御前であるぞ!!」



取り巻きが顔を真っ赤にして叫ぶので、僕はノロノロと土下座した。



「ふむ、そこの。

キミは何の業務をしているんだい?」



カッチャと呼ばれた青年は鷹揚な雰囲気で人事さんに問いかけた。



「は!

現在、就活生と面談中であります!」



「ん?

就活?

今日の午前で一斉卒業だろ?

今更就活面接っておかしくないか?」



「は!

実はこの者!

卒業を条件に内定を出していたのですが!

何とゴミスキルを引いて卒業を取り消されたとのことです!

そこで善後策を話し合っておりました!」




カッチャが冷たい目でこちらを一瞥しながら、「鑑定しろ。」と取り巻きに命令した。

取り巻きの1人が僕に携帯式簡易鑑定装置を照射した後、カッチャにひそひそと耳打ちする。



「ゴミは要らん。」



僕の内定取り消しは取締役直々に決まる。

或る意味名誉かもね。

元々イオルマートが大嫌いだったし、内定取消はある意味スッキリしたのだけれど、一言だけ言いたいを言っておく。



『専務!

僕の母がイオルマートで勤務中に倒れて他界しました。

告訴しない代わりに就職させて頂けるとの事だったのですが。』



今、僕が言っている事は事実だ。

当時、公約破りでバッシングされていたイオルマート側から強引に持ちかけられた条件なのだが…



カッチャは取り巻きから帳簿を引っ手繰ると、無言でパラパラ捲り始めた。



「総菜部のケイト・ザレガノアス。

成程、勤務中に死亡… ね。」



『ええ、母は連日の勤務で体調を崩しておりました。』



「…そうか。」




カッチャは静かに目を閉じる。

冥福を祈ってくれるのか?

と思っていると。



「困るんだよねー。」



信じられない言葉が返って来た。



「体調管理なんて労働者の義務だよねぇ?

職場で倒れられたら、まるで弊社が過酷な労働を課しているように見えてしまうじゃない。

あーあ、本当に迷惑だよねぇ。」



嘘… だろ?

母さんはオマエの会社の為に身を粉にして働き続けてきたんだぞ!



『か、母さんはイオルマートの為に無茶なワンオペを務めておりました!!』



「ちょっとちょっとw

君ねえw  

あのさーw

こっちは給料払ってやってるんだよ?

産業の無いこの辺鄙な田舎町で雇用を創出してあげてるの?

それをまるで被害者みたいな言い方しないで欲しいねえww


ねえ、わかるw?

私の言ってる意味ww

わからないだろうねえw

ビジネスの本場、ブリカス帝国でMBAを取得した私の話は愚民層には難しすぎるよねえw」



信じられない。

それが職場で死んだ従業員への態度なのか?

一言の弔辞も無いのか?



「君、ウチで雇用して欲しいみたいだけどさw

何このスキルw

【5割引き】ってw

幾ら弊社が良心的価格を売り文句にしていると言え…

5割も引かれたら従業員に支払うキャッシュが無くなってしまうぞww


ああ、そうか!

君のお母様は割引シール係だからw

それで君は【5割引き】スキルを授かったのかwww

あははははww

親孝行だねええww


いいよ。

雇用してやるよwww

私の権限で特別に雇ってやろうw

総菜部のシール係としてねえww


勿論、給料は最低賃金の【5割引き】だあああwwww

ギャハハハハwww」




何が面白いのかカッチャは一人で盛り上がって爆笑している。

さっきまでの冷徹な雰囲気とは別人のようだ。

いや、これがコイツの本性なのだろう。

取り巻きや人事さんも追従して笑い出す。




あまりの屈辱に僕は逃げ出すようにイオルマートを飛び出した。

背後ではカッチャの心底相手を蔑む嘲笑が響いていた。





ひ弱な僕が冒険者ギルドの門を叩いたのは、以上の経緯で就職先の内定を取り消されたからだ。

今朝までは、まさか自分が冒険者になるなんて思いもしなかったのに…







【ステータス】


名前:「ザップ」(本名:ザコプット・ザグトベルト・ザレガノアス)

レベル1



HP  5 (10)

MP  3 (6)

腕力 3 (6)

魔力 2 (4) 

器用 5 (10)

知性 5 (10)

速度 4 (8)

幸運 6 (12)


スキル:5割引き


効果:常時全ステータスが50%に半減するデバフが掛かる

  このデバフは取得経験値や成長率、社会的評価にも適応される。



所持金:4000ウェン  

   亡母の人頭税+自身の初年度人頭税の40万ウェンを月末までに支払う義務あり。

   (未納時は鉱山奴隷落ち)


職業:無職

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