法は兎も角、税法は万民に平等である (但し徴収時に限る)
体育教師のゴリ先生にゴミ捨て場まで投げ飛ばされた僕は起き上がる事すら出来ずに痙攣していた。
ぜ、全身が痛い。
ただでさえ昔から貧弱な僕はHPが10しかないのだ。
(男子なら最低でも15は欲しい。)
そこに【5割引き】のデバフが掛かっているので、僕の最大HPは「5」である。
ゴミ捨て場まで転げ落ちた事により、4のダメージを受けたので、残りはHP1しかない。
し、死ぬかも知れない。
現に僕のステータス欄には『瀕死』という文字が大きくポップアップしている。
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【ステータス】
名前:「ザコプット・ザグトベルト・ザレガノアス」
レベル1 『瀕死』
HP 1 (10)
MP 3 (6)
腕力 3 (6)
魔力 2 (4)
器用 5 (10)
知性 5 (10)
速度 4 (8)
幸運 6 (12)
スキル:5割引き
効果:常時全ステータスが50%に半減するデバフが掛かる
このデバフは取得経験値や成長率、社会的評価にも適応される。
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HPは5分毎に1ずつ自然回復すると授業で習ったので、おとなしくゴミ山に埋もれて回復を待っているのだが…
明らかに5分経過したのに自然回復の兆しが無い。
もしや、と思って更に5分程度待つと、ようやくHPが1回復した。
…このスキル最低だな。
回復力まで半減するのか…
HPが4まで回復して、ようやく身体に力が沸いて来たので何とか立ち上がる。
『や、ヤバい。
道で転んで死んでもおかしくない位にステータスが下がっている。』
念の為、ゴミ捨て場のソファーに呆然と腰掛けて体力回復を待っていると、突然声を掛けられた。
「ザップ君、大丈夫ですか?
まあ、酷い怪我。」
僕が咄嗟に反応出来ずにアウアウ言っていると、声の主は包む様に優しく手をかざしてくれる。
神々しい光が僕を包み、即座に体力が回復していく。
これは上位の聖職者のみが使用できる神聖魔法の光だ。
と、いう事は声の主は…
『メアリー様!?
も、申し訳ありません!
僕なんかの為に!』
メアリー・フォン・エスターライヒ。
領主様の娘で僕のクラスメイト。
【スキル授与の儀式】では、何と【大聖女】を授かった。
この【大聖女】とは厳密にはスキルではなく、強力な固有スキル「エリアヒール」「エクストラヒール」、「鑑定」「祝福」を保有するクラスである。
皆を平等に扱ってくれる天使の様な子で、昔から僕みたいに目立たない劣等生にも優しく接してくれていた。
何より飛び抜けた美人で、おっぱいまで大きかった。
僕を含めた学園生全員の憧れのヒロインである。
「さあ、起き上がって下さって大丈夫ですよ。
これで回復が完了しました。」
メアリー様は僕を優しく抱き起こすと、その潤んだ瞳でこちらを優しく見つめながら手を握ってくれた。
僕は昔から気の利いた事が言えない人間なので、ずっとアワアワ言っていた。
「ワタクシは今から王都の大聖堂に出頭しなければなりません。」
『あ、はい!』
「教皇猊下への報告が完了次第、またこの街に戻って参ります。」
『あ、はい。』
「ザップ君への救済請願はその後になってしまう事だけ許して下さい。」
『あ、はい。
え?』
「当然です。
たまたま恵まれない境遇に陥ったと言う事を理由に
それが落ち度であるかのように糾弾する行為は間違っております。
貴方達は救済されなくてはなりません。
どうか、気を落とさない様に。
もしも生活に困窮して冒険者ギルドに登録しなければならない事態に陥ったら…
《ワタクシの紹介で来た》と申請して下さい。
ギルド長には諸事申し付けておきますので。」
メアリー様は柔らかく僕の手を包むと、真摯に激励して去っていた。
い、いい匂いがする。
まさに女神としか言いようがない。
改めて抑えきれない恋心が吹き上がる。
あんなに綺麗で優しい女の子が恋人だったら、どんなに毎日が幸福だろう。
いや、高嶺の花だってちゃんと理解しているけどね。
男と言うのは単純な生き物なのだろう。
メアリー様に気を掛けて貰えて、柔らかい手やおっぱいを押し当てて貰えて!
さっきまでの陰鬱な気分はどこかに消えたので、スキップしながら家路に着いた。
とてもウキウキした心境だったのだけど、家に戻るなり最悪の気分に逆戻りした。
何故なら、僕の家の前に徴税吏のジャクソン一家がたむろしていたからだ。
「おーう、ケイトさんの息子クン。
卒業おめでとう!」
馬車の座席から鋭い声が掛けられる。
ジャクソン…
この街を仕切っているヤクザの親玉にして、国王から正式に徴税代行権を与えられた徴税吏である。
周囲を取り巻いているのは、ジャクソン一家の子分達。
「おうおうおう!
兄貴が祝福してくれてるのに挨拶も出来ねえのか!」
「滞納者の癖に頭が高いんだよお!!」
『あ、はい。
す、すみません!』
怖かったので、身体をすくめる。
「えっと、息子クン。
名前は何と言ったかな?」
『ざ、ザップです。』
「ふむ。
先月も話したが、お亡くなりになったキミのお母様の人頭税。
20万ウェンだけ未納分が残っている。
キミ、今払えるかい?」
『あ、いえ。
全財産が4000ウェンしかないので。』
「ふーむ。
確かキミはイオルマートへの就職が決まっていたな。
では初任給からお母様の未納分20万ウェンと、キミの初年度分20万ウェン。
計40万支払って貰おうか?」
『あ、あの!
実は卒業出来なかったんです!
だから、就職の内定も多分取り消されるかと!』
「???
今日は卒業式だろう?
街中で学生達が打ち上げをしていたぞ?」
『そ、その!
今日、退学になってしまたんです!』
「?
外れスキルでも引いたのか?」
僕はジャクソンに事情を説明する。
話の真偽を確かめる為か、子分の一人が簡易鑑定スコープでこちらを覗き込んで来る。
「なるほど、な。
事情は理解した。
だが、税金は税金だ。
どんな手を使ってでも支払って貰う。
来月の月末。
今から丁度30日後だが…
それまでに40万ウェンを支払って貰おう。」
『そ、そんな!
40万ウェンなんて大金払える訳ないですよ!』
「国王陛下曰く。
税金を払わない者は反逆者、だそうだ。
我々も立場上、反逆者は罰さざるを得ない。
もしも翌月末までに払えなければ…」
『ゴクリ!』
そこまでジャクソンが言うと、子分達がニヤニヤしながら僕を取り囲む。
「イヒヒww
オマエ、鉱山奴隷落ちだな。」
「鉱山は地獄だぞおww
兵隊上がりの猛者でさえ、半年もたずに死んじまうからなw」
「オマエみたいな貧弱野郎は3日もしないうちにくたばるだろうよww」
こ、鉱山奴隷落ち…
あまりに劣悪な環境に、殆どの者が3か月以内に死んでしまうと言われている苛酷な刑罰。
実質的に死刑と言ってもいい。
「ザップ君。
キミのお母様はキミを養う為に必死に働いていた。
その事はよく知っているね?
今度はキミが文字通り《必死》で働く番だ。
不利な境遇にある事には同情するが…
法は税法に限って万人に平等である。
励めよ、少年。」
そう言ってジャクソン一家は去って行く。
去り際に子分の一人が
「じゃあな半額小僧www」
と僕を嘲り、他の子分達も全員が大声で笑った。
月末までに40万ウェン!?
そんなの払える訳ないじゃないか!
ただでさえゴミスキルを引いてしまって絶望していたのに…
ど、どうしよう。
【ステータス】
名前:「ザップ」(本名:ザコプット・ザグトベルト・ザレガノアス)
レベル1
HP 5 (10)
MP 3 (6)
腕力 3 (6)
魔力 2 (4)
器用 5 (10)
知性 5 (10)
速度 4 (8)
幸運 6 (12)
スキル:5割引き
効果:常時全ステータスが50%に半減するデバフが掛かる
このデバフは取得経験値や成長率、社会的評価にも適応される。
所持金:4000ウェン
債務 :40万円 (亡母と自身の人頭税として)
※月末までに未納の場合は鉱山奴隷落ち)