92.王立魔法学園
誕生日の翌月には、十五歳検査があった。
月に一度行われているらしいけれど、私の場合は一日ずらして特別に行われた。レイモンドが付き添ってくれて、一応魔道士ランクはSとなった。
扱える魔力を計る魔道具の他に、火や水それぞれの力で頑丈な箱を満たしたり簡単な問いに答えたり。風魔法を使っての移動速度の計測や各魔法で的当てをするダーツのようなのもあって面白かった。
クリスマスは大通りでパレードを見たり、誰もいない静かな公園で多少は上達したダンスを一緒に踊ったり……レイモンドにお願いされて、また聖アリスちゃんもやらされた。
もう、サンタさんの起源になるために毎年恒例でもいいかなって思ってる。
今年はレイモンドまで赤い服を着ていて、祈る時は私一人だったけれど逃げる時は去年と一緒。赤い服の二人で、その場から笑いながら立ち去った。クリスマスモチーフの一つとして赤いサンタ服の女の子が増えていたのは、例の絵本のせいだと思う。
去年と同じように白薔薇邸の庭園に戻って。用意してあったシートに寝転んで花火を見て。
でも……今年は私を体の上には乗っけてくれなかった。優しく抱きしめてもらってキスを交わしても、どこか寂しい。
だからといって、ガツガツ私を求めてほしいなんて言えないし……レイモンドと一緒にいればいるほど、愛に飢えていく。
そして、なんと今日は!
学園の受験日だ!
新年明けて早々なのは、あまりにも早すぎだよね……。冬だから寒いし。しかも、あっけなさすぎる。
「一瞬で着いちゃった……」
呆然としてしまう。
「じゃ、俺たちは行くよ。ありがとね、魔女さん」
「行ってらっしゃぁ〜い。終わったらまた来るわぁ」
「あ……魔女さん、ありがとう!」
「いいのよぉ、アリスちゃん。気楽にねぇ」
魔法陣もなしに、バーンと来てしまった。
準備を整えて、「魔女さん、来て」とレイモンドが言った瞬間に現れてすぐだった。
「ここが王都の王立魔法学園……」
既に門の前だ。
イミフだ、イミフ。
さすが魔法世界。
門の向こう側には薔薇のアーチが続いていて、その向こうには光り輝く噴水が見える。遠くに見える学園も、まるで宮殿だ。
「荘厳だ……学園なのに荘厳……」
「アリス? もう少し見ていたかったら隅に寄る?」
「い……いい……歩く……」
私だけ、いかにも辺境から来ましたって感じで恥ずかしいじゃん……。
多くの受験生が私たちと同様に受験会場へと向かっていく。「はぐれないようにしようね」とレイモンドに手を繋がれるけど……何かがおかしい。
「ね、ねぇ……異常に見られてない? あんた、ここでも有名なの?」
手を繋いでいるから距離も近い。こそっと耳元で聞いてみる。
……耳までの距離が遠くなったけど。まさかこんなに身長差ができてしまうとは。頭一つ分はさすがにないかな。すぐにデコチューされるくらい。二十センチ差くらいなのかなぁ。
「さっき魔法陣もなしに魔女さんと来ているのを見られているんだから、当然じゃん」
「げ!」
「あれが、一時期魔女さんとスイーツを食べに王都に現れていたという噂の辺境伯息子かーとか思われてんじゃない?」
「やっぱりあんたが犯人だったんだ……」
「俺がいなくても魔女さんと来ていたら大注目だよ」
どうして門の目の前に現れたんだ……もっと考えようよ。
「そっか……既に身元が割れている状態に……」
「さっきのを見ていた人にだけだよ」
「今から少しだけ口調に気を付けるね」
「俺と話しているんだから、別にいいよー」
いやいや、口が悪いのと一緒にいると思われてはいけない。レイモンドのことも、あんたとは言わないようにしよ。あなた……とか?
結婚しているみたいで、照れそう。
「アリス!」
学園の建物の前に、ダニエル様とジェニファー様が立っていた。
あれ? 微妙な関係だったはずなのに仲よしに?
「お久しぶりです。またお目にかかれて光栄ですわ」
「もー、アリスったらいいのよ。ここは学園。楽に話して」
「わ、分かりました。ジェニファー様……」
「分かっていないじゃない。ジェニーでしょう?」
やりにくい……。
「分かったわ、ジェニー。待っていてくれたの? 嬉しいわ」
「んふふ、それでいいのよ。ええ、そうよ。待っていたの」
「ダニエル様と?」
横目で見ると、ダニエル様とレイモンドも話をしている。
「魔女と来たのか」
「まぁね。アレの準備もついでにしてもらっているよ。ほとんどは手配してくれたんだよね、ありがとう」
「いや、問題ない。私も楽しみにしている」
「へぇ、楽しみなんだ。それはよかったよ」
……意味が分からない。なんの会話だ。
ジェニファー様が耳打ちをするように囁いた。
「そうよ。二人を待っていましょうと言えば、ダニエル様も付き合ってくれるでしょう?」
やっぱり関係はまだ微妙なのか。
こんなに色っぽいのに……前よりも艶っぽくなっている。私が男なら、きっとイチコロだ。しかしダニエル様も、前以上にガタイがよくなっている。体育会系の部活の部長どころか名監督とかやってそう。威圧感もすごい。
……ま、とりあえずなんか言わないと。
私もこそっと囁くように返す。
「不安だらけの私をダシに使ってくれたのね、最高よ。ジェニーが側にいてくれて二人の仲も深まるなんて、嬉しいわ。これからもそうしてちょうだい」
令嬢らしい言葉遣いでニヤリと笑ってみせる。これ以上、人格者だと思われたくないしね。
「あなたって……イイわね。やっぱり好きよ、アリス。さぁ、行きましょう」
「ええ」
豪華な建物に慣れていてよかった……。これ、平民だったらなおさら緊張するよね。
息を呑み込んで、宮殿のような趣の建物へと足を踏み入れた。