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89.滝行?

 扉を開けると、真横にレイモンドが座っていた。


 召喚された時を思い出すなぁ。貧乳にしたでしょって怒ったっけ。


「アリス! 足は大丈夫?」

「……濡れちゃった……」

「だよね。包帯は?」

「とりあえず、お風呂場に置いちゃった」


 乾かすだけ乾かした方がよかったかな。


「包帯はそのままでいいよ。ベッドに連れていくね。ハンスに部屋に来てもらって、また薬を塗って包帯で固定してもらいたいけどいい? 本当は俺が巻きたいけど、緩すぎたらいけないしね」

「うん、ありがとう」


 また足をそっと支えられながら、宙を浮くお姫様抱っこもどきで移動する。


 ……レイモンドの顔が……赤い……。私を支える手にも心なしか力が入っているような。じっと見つめていると、どんどんと赤くなっていく……。


 わ……私まで赤くなるじゃん!

 絶対に思い出されてる!!!


「アリス……怒ってる?」


 シンプルなネグリジェ姿の私をベッドに座らせて、弱々しくレイモンドが聞いた。


「んーん。あれだけ叫んだら来るよね。全部忘れることにする」

「そ、そっか。ごめん……」


 胸を触ったことを特に謝っているよね。

 さすがに気にしていないよとは言えない。言ったらこのまま、アダルティな世界に突入してしまいそうだ。もうドキドキしっぱなしだし……。

 スルーしておこう!


 最初の頃だったら叫ぶように罵ってグーパンくらいしたかもしれないけど……好きな男の子にこんな目で見られると、思い出されてもいいかなんて考えちゃうな。


 いや、最初のシーンはダメだ。よく考えたら私、寝そべって全裸でシャワーを浴びながら叫んでたよね。……記憶を抹消したすぎる。


「じゃ、ハンスを呼ぶね。来るまで足を冷やしていて。俺は……風呂に入ってくる……」


 私を男性と二人にするなんて今までなかったなぁと思いながら、ハンスを呼びに出るレイモンドを見送った。


  ◆◇◆◇◆


「ごめんね、ハンス」

「いえ、転ばれたそうですね。ご無理はなさらないでください」


 軟膏を塗り込んで、丁寧に包帯をしっかりと巻いてくれる。治癒魔法も、もう一度静かにかけてくれる。何度かけても一定以上は効かないらしいけれど、気休めにはなる。


「ねぇ……ハンス」

「はい、なんでしょう」


 濃い緑の長い髪を後ろで結ぶハンスの声は、周囲に溶け込むような落ち着きがある。瞳の色は青い。静かな湖面でも眺めているような気になってくる。

 ソフィと一緒の時は、どんな感じなんだろう。


「私……その……髪もしっかりとは洗っていなくて」

「ええ、今日はその方がいいでしょう」

「でも、汗をかいて……ほ、本当のことを教えてほしいんだけど、私、に……臭ったりしていない? 髪から変な臭いとか……」

「ああ、それを気にされて入浴されたんですか。大丈夫です、全くしませんよ」

「本当に?」

「ええ、本当です」


 穏やかな表情で微笑まれる。

 なんか、安心するな……。


「もっと近く……でも?」


 さっきみたいなお姫様抱っこもどきくらい近くでも大丈夫かな……。


「いけませんよ、アリス様。レイモンド様以外の男性にそんなことをおっしゃっては」

「……ハンスにはソフィがいるし、いいかなって」

「それでも、よくはないですね。アリス様は可愛らしい。恋人がいても変な気を起こす男性はいるかもしれない」


 ソフィのことを恋人と表現してくれたことに嬉しくなる。恋人同士にホントになったんだなぁ。

 

 ハンスが立ち上がった。

 少し含みのある男性的な瞳を向けられて、ドキリとする。


 髪のすぐ側に顔が近づいて……。


「大丈夫、臭いません。もう少し警戒心を持たれた方がいいですね。それでは失礼します」


 ちょうどお風呂から出てきたレイモンドと何やら言葉を交わすと立ち去っていった。


 入れ替わりに、レイモンドがズカズカと……。


「アリス、今ものすごくハンスと近かったよね。お願いされたのでって言ってたけど、なんなの、何をお願いしたの」

「……う」


 タイミングが悪すぎだ……。


「しかもあの表情、どーゆーこと」


 そんな顔にまで文句を言われても。

 うん……実に粘着系だ。


 怒りながらも私の足元に跪いて、足を冷やし始めた。


 まぁ、臭わないなら言ってもいっか?


「えっとね、髪を洗っていないから……」

「うん、体は温めない方がいい。できるだけ浴室にはいない方がいい。当然だよね。それで?」

「ほら、一応私も女の子だしね。エチケット的に気になるってゆーか……。近くでも臭わないか聞いただけ……」

「俺に聞いてよ!」


 無理だし。

 あんたに臭うとか思われたら嫌だからハンスに聞いたんじゃん。


「大丈夫だよ、いい匂いしかしないよ!」


 魔法で足を冷やした状態に固定したまま、ベッドに上って私を抱きしめて匂いをかぎ始めた。


「ちょ、変態! 来ないで! マジ変態だし!」

「だったら他の男に聞かないでよ」

「分かったってば。さっきハンスにも注意されたから大丈夫!」

「もー」


 もーはこっちの台詞だし。


 しばらく、そのままぎゅーっとされ続ける。

 今日はここで泊まるのに、これはマズイんじゃと思いながら少し体を押してレイモンドを見ると……彼もじっと私を見る。


 キスされる……?


 いや、視線がさまよっている。胸にも……絶対さっきのを思い出しているよね。


 おもむろに、身体を離された。


「自分で冷やしていて。もういいかなと思ったら先に寝ていて」


 え……?

 どっかに行っちゃうのかな。

 いなくなるのは……寂しいな。


「どこかに行くの?」

「……もう一度、風呂に入ってくる……」

「もう一度!?」


 なんで!


「……水かぶってくる……」


 滝行!?


「な、なんのために……」


 お湯しか出ないよね、お風呂。

 自分で水を生み出してかぶるの!?


「反省してくる……。先に寝ていて」

「そ、そっか」


 どうか先輩方……大人の女性の方、こんな時になんて声をかけるのが正解なのか教えてください。


「風邪引かないようにね……」


 それしか思い浮かばなかった。

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