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85.捻挫

「今日はありがとう、アリスちゃん」

「本当によくやってくれた。ノヴァトニー侯爵夫妻とのやり取りも完璧だったよ。感謝している。君を迎えてよかった」


 レイモンドのご両親にたくさん褒められて、胸がいっぱいだ。オーバーに褒めてくれているのだろうけど嬉しい。


「僕が調子にのって引き延ばしたお陰ですね。いいことをしたよ」


 レイモンドもご機嫌だ。前半はご両親に向けての言葉で後半は私に向けてだ。

 ……よく俺だの僕だの使い分けられるなぁ。


「ああ、結果的にはよかったな、結果的にはな」

「どう記録されるのかしらね。楽しみだわぁ」

「あれだけの人数の度肝を抜いてやれることなんて、そうそうないからな!」


 ああ、記録されてしまうのか……。そこまで考えずに、その場の気分で動いちゃうからなぁ、私。


 それにしても、ご両親とも……楽しそうだな。人をびっくりさせることが大好きな、そっくり家族だったのかな。

 

「聖女様を彷彿とさせる、とか表現されるかもしれませんね」


 話しながら神風車へと向かう。

 早く着きたい……もうすぐなのに遠い……足が痛い……。


 それなりに歩いたので、ヒールに足が限界だ。あのあとにも隣の施設に移っての夕食会があった。

 お母様はいつも通り颯爽とお美しく歩いているけれど、私はもう無理……。


 ――グキッ。


「痛ァ!」


 ……転んだ。

 思いっ切り転んだ。


「アリス!」


 レイモンドがすぐに私の横に跪き、ご両親や護衛、送ってくれる一部の騎士の人たちも驚いてピタッと止まった。


 めっちゃ目立ってる……。


「ご、ごめんなさい。足が……」

「ごめん、ちゃんと見ていなかった。足、動かせる?」


 せっかく楽しそうにご両親と会話していたのに邪魔しちゃった……。皆に心配そうな顔をさせてしまっている。

 涙が滲んでしまう。


「う……ん、大丈夫……っく」


 無理矢理立とうとするも、ズキッと痛む。

 

「動かすのはよくないな。幸い、ここはうちの領土だ。すまないが、すぐに市庁舎に連絡を。要人用の部屋に泊めてもらおう。お前も付き合え」

「もちろんです」


 会場は、隣国の領土と交互に開催されているらしい。


 私の答えも聞かないまま騎士の一人がすぐに宙を飛んで、おそらく市庁舎へと向かった。レイモンドが向こうに見えている神風車を風魔法でこちらへと移動させる。来た時と同じ、ご両親とは別の神風車だ。


 おおごとだ……。


「あ、の……そこまで気を遣ってもらわなくても……」

「今からでは帰宅が夜遅くになってしまうわ。早めに休んだ方がいいわよ、アリスちゃん。応急処置は今してもらいましょう」

「アリス様、痛むところ申し訳ありませんが、こちらへお座りください」


 ハンスに促され、レイモンドの腕に支えられながら神風車の剥き出しの前方の椅子に座った。いつの間にやら騎士さんの一人に手渡されていたらしい治癒の実の成分を含む軟膏を塗り込まれ、ハンスには包帯で足を巻き巻きされる。

 

 あ……少し楽になった。

 

 同時に治癒魔法もかけてくれているから、そのお陰もあるかもしれない。

 ……劇的にはどっちも効かないけど。前の世界の痛み止めくらいかな。


「悪いが、私たちは明日も仕事がある。先に帰ってしまうが……大丈夫か」

「はい、お引き止めしてすみません。今日はとても楽しかったです。連れてきていただいてありがとうございました」

「それはこちらの台詞よ、アリスちゃん。ごめんなさいね、足も辛かったわよね。付き合ってくれてありがとう。本当にあなたはいい子ね、無理してくれていたのね」


 頭をなでられて、我慢できずに泣いてしまう。


「ご、ごめんなさい……本当のお母さんに褒められたような気になって……」

「いいの、いいのよ、アリスちゃん」

「最後に変な空気にしてしまってすみません……」

「今日は頑張ったもの。せっかくだし、レイモンドに思い切り甘えてあげてちょうだい」

「う……」


 王都に行った時のあの出来事を思い出されている……。


「あとは僕にお任せください。今日は少し羽目を外してしまい、すみませんでした」

「いや。力は示せたし、互いの友好も確認し合えた。何も問題はない。今日はご苦労だった。早めにゆっくり休め」

「ありがとうございます」


 やっぱり……少し寂しいな。貴族の親子って感じの独特のこの距離は。


「行こう、アリス」


 足がぶらぶら動かないようにそこだけレイモンドに支えられながら、空気椅子のような状態で魔法を使ってふわふわーっと神風車の中に入れられる。


 間抜けな絵面な気がするけど、魔法世界……便利すぎるな。


 やっと人の視線が遮断されて、ほっとした。

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(2023.10.27より)

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