75.ソフィとショッピング1
誕生日の翌日はレイモンドとデートをした。「ソフィじゃなくて悪いけどね……」と言っていたのには、少し良心の呵責を感じた。
うん……アレはね、私もはしゃぎすぎたかもしれない。
朝からどこかに行くかと聞かれたものの午前中はせっかく裁縫を習う曜日だったので、そっちを優先した。絶対にレイモンドには内緒でとお願いして、一緒にプレゼントをする刺繍のデザインも考えてもらった。
私の希望を踏まえつつ、私の腕でなんとかなるような柄だ。
午後は「幻想魔術美術館」という美術館を貸し切りにしてもらって、絵の世界を堪能させてもらった。それなりに前から予約してあったようだ。午前にも何か予約していなかったのか恐る恐る聞いてみたけれど、前日の疲れが残っている可能性も考えて何も入れてなかったようで安心した。
美術館には特殊な眼鏡をかけると絵画の中に入っているような映像が見えるという小部屋もあり……ソファが中央にもあったので、レイモンドといくつもの部屋でのんびりとくつろいだ。森の中で動物たちが楽器を弾いてくれたり、海の上に座ってイルカが跳ねるのを見たり……レイモンドは私の好みを知りすぎだと思う。
そして今日は、念願のソフィと遊ぶ日だ!
「楽しみですね、アリス様!」
ソフィがウッキウキしてくれている。
「うん。楽しみだけど、外で様付けはやめてほしいかな」
「あ、そうですよね。でもアリス様、もう結構有名なんですよね〜、水色の服でレイモンド様とよく空を飛んでいるので。今日は比較的シンプルにはしていますけど、見る人が見れば分かるというか……」
げっ!
「気楽に呼んでいるのを見られても微妙なので、まずは大変身しちゃいましょうか!」
「だ……大変身……?」
「水色の服ではない平民服を着れば、アリス様だとは分かりませんよ! 今日のためにお渡しされたお金がたくさんあるので、パーッと使っちゃいましょう!」
確かに定番服にも飽きてきたところだった。
「それなら、ソフィのお勧めのお店に連れていって」
「はい、行きましょう! あ、せっかくだし偽名で呼びます?」
偽名……確かにアリスとは立場上、呼びにくいかもしれない。
「服を変えたら……ユメちゃんって呼んでほしいかな。理由は特にないんだけど」
元の世界での名字は夢咲だ。ユメちゃんって呼ぶ友達もいた。
「可愛くていいですね! それでいきましょう。この道は風魔法を使っちゃいましょっか」
「そうだね。時間がもったいないもんね」
門から出ても丘をくだらなくてはならない。レイモンドがいない以上、空高く飛ぶのはアウトだけれど、地面ギリギリならオッケーだ。人にぶつからないよう広い道のみ許されていて、許可を意味する板が木の幹にぶら下がっている。足が悪かったりなど理由がある場合は、許可がない場所でもいいらしい。衛兵さんに見つかったら理由を聞かれる覚悟はしないといけないけど。
……前の世界の職質みたいな感じかな。
トーントーンと、跳ねるように移動する。走っている時の速度は出ているかもしれない。
「これも楽しい!」
「はい、楽しいです!」
いつもよりはシンプルな水色のワンピースの裾から白いフリルがふわふわと揺れる。
ソフィは紺色のスカートを履いていて、裾からは濃い緑のフリルが覗いている。二人でスカートを揺らしながら、跳びはねる。
「妖精になった気分」
「今度、一緒に羽を背中につけて出かけちゃいますか? 羽つきのおそろいの服、レイモンド様なら調達してくれますよ」
「羽をつけちゃうの?」
「はい、きっとものすごく目立ちますよ~。妖精さんとして有名になれます!」
「すごい趣味だって思われそう」
「レイモンド様にもたまにつけちゃえばいいんです。それならレイモンド様の趣味だって思ってもらえますよ?」
「ソフィったら」
私が楽しく過ごせるように、同じようにはしゃいでくれているのかな。一度年齢を聞いたら「に……二十歳は普通に越えています……でも前半です」と表情を固くしたので、それ以上は聞かなかった。
風魔法が許される道を越え、街中に入った。
「はぐれないように手を繋ぎましょうか」
「うん、そうする」
桃色の髪、紫の瞳。どちらも前の世界では馴染みがない。さすがにレイモンドの色には慣れたけど……近くで見ると、可愛らしいソフィはまるで甘いお菓子のような存在に見える。
「このお店なら、似合うのがあると思いますよ」
ソフィに案内されて店に入る。
前の世界よりも温かみを感じる雰囲気だ。店員のお姉さんが「いらっしゃいませ」と朗らかに笑顔を向けてくれた。
中央には大きな木製の箱のような植木鉢があって、色彩豊かな花々が植えられている。その真ん中からは、凝った鏡がにょっきりと飛び出している。
棚にも、帽子や靴にヘアアクセと多く並べられていて目移りする。布だけでも売っているようで、カラフルな紐をねじねじしたようなハンガーに吊るされてオシャレだ。
しかし……全体としては……。
ロリですね。ロリです。どう見てもロリです。ハイ、ロリでしたー! って感じ。
でも、完全なロリータって感じではないかな。可愛い系。置いてあるほとんどのブラウスには編み込みやリボンが入っているように見えるけど。
あー……でも、チョコレート色でまとめたワンピも可愛いなぁ。
うーん……ロリ服を着すぎて私の好みまでおかしくなってしまった感が……。そもそも、好みとかなかったしなぁ。変じゃなければいっか、くらいで。
「どれがいいですか?」
「うーん……」
ソフィの桃色の髪を見ていると、ピンクも私に似合うかなぁなんて考えてしまう。
黒系はゴスロリ趣味だった幼馴染を思い出すし。弟にお古のTシャツを渡せるように地味な色を選ぶようにしていたから、ピンクの服なんて着たことがない。
「か……買わないけど、ピンクって私には似合わないかなぁ……」
「いいじゃないですか! 着てみましょう」
「でもなぁ。せっかくだから普段とは違って活動的な感じにもしたいしなぁ……」
「あ、それなら巻きスカート風のキュロットパンツはどうですか」
……見た目はミニスカだ……。
でもキュロットならアリかなぁ。
「これと合うかな。でも、腕の露出が……」
「それなら、ケープかボレロを合わせましょう!」
「足の露出も……」
「オーバーニーソックスで、まるっと解決です!」
オーバーニーソックス……長い靴下も白いレース仕様だ。ちらりと覗く太腿がややエロイ気も……でも印象は変わるし、いっか。
そうこうして、白とピンク基調の活動的なロリ系の服が一揃いした。
「では、試着室で着てください! 店員さん、試着室借りますね」
「はい、どうぞ〜」
ものすごくソフィが浮かれている。
結局ロリかと思わなくはないけど……可愛いから、いっか。