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65.雨デート2

 最終的に、あの店では小物入れを買ってもらった。キノコの形をしていて、水玉模様の一つの白い丸に「開いて」と祈りながら指を当てると蓋であるキノコのカサがパカッと取れて、中に物を入れられる。

 鍵が入るくらいの大きさだから、キーボックスとしての使い方を想定しているのかもしれない。


 キノコのカサの上には、ピンクの魔女帽子をかぶった女の子が体操座りをしていて可愛い。レイモンドは黒い魔女帽子をかぶった男の子が座る、おそろいの小物入れを買っていた。


 おそろい……部屋に飾るのも恥ずかしい。


 魔女さんの存在は浸透していて、魔女のモチーフをあしらった物も多いらしい。


 はぁ……我ながら思考がおかしい。

 さっきキノコを昼食で分けてもらった記念になるな、とか。二回目のキスの思い出に、とか。そんな乙女チックなフレーズが頭をよぎった。

 

 キャラ違うでしょ、私……。


 そのあとは図書館に寄っていたら、夕方になってしまった。好みの詩集があったので、その人の作品を全て購入して近いうちに私の部屋の本棚に入れてくれるらしい。

 有名だったり好みだったりする詩のフレーズを覚えるのも教養だとか。ドイツのゲーテ、イギリスのシェイクスピアにあたるのが、この国ではヘルメンラトスという人らしく……私の本棚に既に入っているから覚えておいた方がいいとのことだ。


 私の世界での「あきらめたらそこで試合終了だよ」と同じように、その人のフレーズがよく使われるからって言っていた。

 ほんっとにもう……、突っ込むのはやめよ。


「ねぇ、アリス。雨もかなり小雨になったし、公園に寄っていこっか」

「公園……?」


 雨でビチャビチャじゃない?

 なんで公園?


「今なら人もいないだろうし」


 そりゃそうでしょ。


「少しだけ、魔法の特訓をしていかない?」


 特訓!?

 ……レイモンドなりの理由があるのかな。小雨だと都合がいい理由が。


「いいよ、行く」


 肝心なところで説明が足りていないのは慣れてきた。


 私はレイモンドに……人々が神に抱く信頼と似たような感情を持っているのかもしれない。

 魔法の力の行使。それは、自分の力で何かをしてやろうといった強い気持ちを持ってしまっては上手くいかない。神ならばよりよい方向へ導いてくださる、全てを神に任せます……そんな意識を持つほど、期待通りの作用が生じやすい。


 説明がなくたって、レイモンドなら私をいい方向にしか導かない。そんな信頼を……持ってしまっているのかもしれない。


 傘を持つレイモンドの腕に当たり前のように自分の手を絡ませつつ、公園に着いた。既に慣れてしまっている。


 もうこれ……雨が降るたびに、私……こうしてしまう自信があるんだけど。


 しとしとと、雨が遊具を濡らす。

 この世界でも木製のアスレチックは一般的らしい。保育園にもあったけど……。

 

「見覚えがある」

「だろうね」


 木製の、ゆらゆら揺れる吊り橋の遊具がある……前の世界の緑地公園にもあったけど、もしかして……。


「レイモンドが犯人?」

「楽しそうだなって」


 やっぱり……。

 幼児だと危ないだろうし、大きい子しかそこまで辿り着けないようになっている。だから保育園には、なかったんだろう。

 鉄棒もある。この世界にもあったらしい。


「他の公園にも?」

「うん、順次追加してもらったよ。あ、でも他は違うよ。空高く飛ぶのは危なすぎて前も言った通り制限しているけどね。遊具は魔法の練習にもなるし以前からある。吊り橋は魔法の練習にはならなさそうだよね。そーゆーのはあまり見かけないかな」


 そっか……前の世界でも網ネットや木のハシゴで上る家のようなアスレチックはあったけど、ここでは魔法の練習にもなるのか……。ふわーって降りたりするのかな。


 魔法を封じているのは幼児期だけだもんね。


「でも、いきなり魔法を使えるようになっての練習って、少し大きくなっていても危なくない?」


 小学生くらいの年齢の子も、ヤンチャするよね。


「そうなんだよね。見守ってくれる地域のお爺さんお婆さんがいるから成り立ってはいるけど、難しいよね。街の警備担当の騎士さんも巡回はする」


 基本はボランティアの人頼みか……。


「俺の祖父母も暇つぶしに護衛と一緒に見守ることもあるみたいだよ、近郊都市で。もう仕事はしたくないって、ラハニノスからは出ている。当然屋敷に住んでいるし、多少の視察なんかは今もしているけど」

「――え」


 豪華な見守りだなぁ。


「この世界では、爵位を生前に譲れるんだ。長男限定だけどね」


 ……あっちの世界では譲れなかったのかな。


 そういえばレイモンドに兄弟はいないけど、いたら何をするんだろう。辺境伯を複数人では継げないよね。


「ここでは貴族の兄弟ってどうなるの?」

「市庁舎の偉い人になったり騎士の偉い人になったり色々だね。ゆとりある財産は渡すよ。娘さんしかいない貴族と結婚して家督を継いだりもするけどね」


 まだ遠い世界って感じだなぁ……。


「あ、聖職者になる人もいるね。前にも言った通り義務なんかはないけど、教会は多く点在していて祈りを捧げてから仕事に行く人も多い。仕事帰りに懺悔室でその日のミスを懺悔してから帰る人もいる」


 お悩み相談的な……?

 地域に密着しているんだ。


「もう雨……やみそうだね」


 話しているうちに、ほとんど傘に水が当たらなくなっている。西陽も眩しい。西の方角では、もう完全に雨はやんでいるに違いない。


 灰色の雲と白い雲が交錯するその下で、まだ濡れているベンチの前に並び、彼の言葉を待った。

 


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X(旧Twitter)∶ @harukaze_yuri
(2023.10.27より)

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