64.雨デート1
ポツポツと降る雨の中、また二人で歩く。
疲れているなら帰るけどと言われたものの、もう少し街の中を歩きたいと私が言ったからだ。
街並みはイタリアに似ている気がする。行ったことはないけれど、お母さんたちの新婚旅行がそこで、アルバムに貼ってあった写真によく似ている。
でも、道は写真よりもこっちの方が広いかな。
傘からポタポタと水滴が落ちて、世界から私たちだけ抜き取られているような感覚になる。まだしっくりとは来ない街並みを、身近な人と違う世界から眺めているような……。
「綺麗な街だね」
「そうだね。でも、王都の方がもっと綺麗だよ。こっちは合理的な土地利用を目的とした街づくりがされている。家を建てる時なんかも、場所を含めて条件を設けている」
……そうなのか。よく分かんないけど。
「この国は芸術の国とも評されていてね。王都の方が少しごちゃごちゃしている感じがするかな。変なオブジェとか街中にいっぱいあるし」
ごちゃごちゃ……それ、芸術なの?
「凝った看板も多いし、緩くカーブした階段も多くてオシャレ感を重視しているし。あー……傘の道もあったなぁ。カラフルな傘が数多く浮いている道とか。二階建ての家の天井くらいの高さにね」
それは見てみたいかも!
楽しみになってきた!
「そういえば、傘って布っぽいよね」
「ああ、よくは知らないけど……布に光魔法を使ったコーティングをしているんだと思うよ」
撥水コートか……。どこにでも魔法が入り込んでいるなぁ。
もちろん私たちの傘の色は、水色だ。私の服に合わせて用意したんだと思う。
「入りたいお店はある?」
「うーん……」
街並みが綺麗だから、ずっと歩いていたい気もしちゃうけど……。
「雑貨店とか入ってみたいなぁ」
「それなら入ろっか」
外からガラス越しに見るだけで、ごちゃっとした感じの店へ引っ張られる。アンティーク感があって、ついその店に視線をやっていたからだと思う。
「ふわぁ〜! すごいすごい!」
中に入ると、店員さんの「いらっしゃいませ」という声が耳に入らないくらいに感動した。
めちゃくちゃ雑貨が積み上がってる!
所狭しとぎゅうぎゅうに置いてある!
正体不明なのばっかり!
テンション上がる!
色とりどりの鉱物もお皿にザクザク入って、小枠に分けられた棚にたくさん入っている。ドライフラワーも吊り下がっていて、ごちゃごちゃ感がすごい。
うん……!
ごちゃごちゃって、芸術だよね!
「ねぇねぇ、レイモンド! 世界で一番美しい人を教えてくれる鏡はどこ?」
「な……ないよ……すごいテンションだね……。いや、アリスって答えてくれるやつ、特注しようか?」
「全力でいらない!」
「だよね……」
高テンションにレイモンドを巻き込んでいる気はするけど、どうでもいいや!
「ね、この置物、すごく埴輪っぽいよ! 埴輪なの?」
「いやー、埴輪じゃないだろうけど……埴輪っぽいね」
やっぱり心を落ち着かせてくれる魔石なんかもあるんだなぁ。カンテラみたいな入れ物に入っていて、すごく綺麗。
ん?
あの辺だけイヤにピンクな……。
うわ、避妊ジェルとか媚薬ジェルとか書いてある! エロティシズムが漂ってる! ヤバイヤバイ。見なかったことにしよ。
そうか……そんなものが……。
ダメダメ! 変な想像から頭を切り替えないと!
避妊……光魔法とかで受精を阻害するとか……? いや、授業ではどう見てもおたまじゃくしって感じに黒板に書かれていたアレの泳ぎを光の癒し効果で阻害……?
「アリス? その埴輪みたいなの、気に入ったの? 買おうか?」
「え」
あ、目線を逸らして考え続けていた先には、さっきの埴輪が!
「ものすごくいらない」
「アリス……分っかんないなぁー……」
もー!
私の目線を確認するの、やめてくれないかな。