63.キスの理由
レイモンドが固まっている。
どうしよう。固まりすぎていて、もう一度キスしたくなってきた。
「え、あ、えっと……わ、忘れないように、だよね。そうだよね。忘れて一ヶ月以上過ぎたらいけないもんね。えっと……」
レイモンドの顔が赤い。
なんだろう、この可愛い生物は。やっぱり私は、可愛い系の男子が好きだったのか……。
「忘れちゃいけないし、し、週一にする……?」
「しない」
調子に乗りすぎだ。そんなの拒否しないとおかしいじゃん。二週に一回くらいだったら悩んでみたかもしれないのに!
「でも、なんでアリスから……あ! そっか、ツチノコが好きなんだよね!」
いや……ツチノコからはもう離れてよ……。
「実はさ、まだできていないんだけど、ツチノコの抱き枕も作ろうとしていてね」
なにー!?
「ほら、シマシマ模様の抱き枕を使ってたじゃん? アレがないのも寂しくなる理由の一つかなって思ってさ」
……気を回しすぎだよね。
というか、コイツ勝手に人の寝顔まで見ていたんだよね、きっと。
何にどこまで罪悪感を持つんだろう。トイレとお風呂を見ていないことは分かった。
スマホで数ページだけ無料で試読できる漫画を読んでいたのも見ていたのかな……。軽くエロいのもあったよね……あー、さすがに気になるのに聞けないな。
「せっかくなら、アリスの好きなあの正体不明の生物でと思ったんだけど。ねぇ、ツチノコ抱き枕を作ったら、またキスしてくれる? 俺いっぱい作るよ、ツチノコ! アリスの部屋をツチノコで埋め尽くすよ!」
「ツチノコ、どうでもいいー!!!」
「ええー!?」
駄目だ。ほっといたらツチノコを作るたびにキスをするという謎ルールが確定してしまう。止めないと。
「抱き枕はちょっと欲しい。そこでツチノコはおしまい。打ち止め。終了」
「えー……」
あーあ。
レイモンドは他の女の子から見ると、どうなんだろう。顔はいいし尽くす系だし、いい男なのかな……。それとも、ストーカー気質で粘着系だし、避けたくなるタイプなのかな。
「あんたがあっちにいたら、逮捕案件なんじゃないの。抱き枕の柄まで知ってるってどうなの。カメラや盗聴器まで仕掛けているタイプの気持ち悪いストーカーでしょ」
「えー、キスした相手に酷いなぁ。こっちに来た時のことを考えてだから、俺もあっちにいたらそんなことはしないよ」
「本当かなぁ」
「当然だよ。犯罪歴のある旦那なんて嫌でしょ? 君と結ばれるために、清廉潔白に生きるに決まっているよ」
「うーん……」
それなら、いい男に区分けされるのかな……。
「どうしたの、いきなり」
「レイモンドって、いい男なの、駄目な男なの、どっち」
「あはは。ツチノコを作って、少しはいい男かもって思ってくれた?」
「…………」
「そうじゃないと、自分からキスなんてしてくれないよね」
……しなきゃよかったかな。これはずっと言われてしまいそう。
私も、その場の感情で動いてしまう生き物だったということか……。お母さんの言っていたことは本当だったんだなぁ。
「俺が人から見てどうなのかなんて、どうでもいいじゃん。アリスに好きになってもらえるなら、世界中の女の子から気持ち悪いって思われてもいいよ、俺は」
うん……どっちでもいいか。
私はもう、ストーカー気質で粘着系のこの男の子を好きになってしまった。
でも、学園で逆にもてたら嫌だなぁ。ここにいる時みたいに、私のことは将来のお嫁さんだなんて言わないと誰にも思ってもらえないだろうし……。いっそ指輪をしたくなるなぁ。
「そうだね。頑張って、他の女の子には気持ち悪いって思われといて」
「なんで!? 頑張らないよ! 気持ち悪いと思われている恋人なんて嫌でしょ。アリスの相手に見合う男だって思われるようにはするよ」
私のが見合ってないでしょ。
「アリスは、よく分かんないことばっかり言うなー」
にっこにっこ嬉しそう。ぎゅぎゅっとされて、私がレイモンドの抱き枕になってしまったみたい。
こんなに幸せそうにされたら……押し戻せないよね。