60.相合い傘
しとしと降る雨の中、相合い傘で歩く。予定通り昼食を食べに行くために街中を歩いている。
レイモンドの腕に手を絡ませて!
なんでこうなってしまったんだ……。
いや、理由は分かっている。さっきのあの会話のせいだ。
『アリス、すぐに俺から離れるよね。濡れるからもう、俺の腕を持ってて』
『絶対に嫌。それなら傘は私が持つ』
『それでも離れようとするでしょ。アリスが持つなら俺、アリスの腰に手ーまわすけどいい?』
『もっと駄目』
『早く腕持たないと、腰に手ーまわして反対側の手で傘持っちゃうよ?』
『も、もうやってるじゃん! 近すぎる! レイモンドの変態エロ乙女!』
『それなら腕持ってて。人肌が恋しいんでしょ?』
『――――ぐっ』
傘を持っているレイモンドの腕に、なんで自ら手を絡ませなければならないの……!
ものすごく惚れてる人みたいだし!!!
さすがにね……街の中で体を光らせて歩くのは駄目なんだろうけどね……そんなことに魔法の力を使うなって思われるのかもしれないし見た目も悪いだろうけど……。
すれ違った人がこっちを見て、にこにこしながら軽く頭を下げた……絶対正体バレてるでしょ。この都市ってレイモンドの庭みたいなものなのかもしれない。園の近くだし、この辺りをうろうろすることもあるのかな。偉い人がそれって、いいの?
恥ずかしすぎる……。
今は夏だから袖も肘までしかない。フレア袖っていうのかな。貴族のラフスタイルって感じだ。ずっと肌が直接触れ合ってるっていうのがもう……!
はぁ……ドキドキする……やっぱりまだ完全な両思いは厳しいな。好きならいいよねって何を要求されても押し切られそう。
これが、男子の腕か……。
これってデートなのかな。
それとも寄り道?
お互いがどう思っているかで変わるよね。レイモンドはどっちだと思って……。
「そういえば、アリスさ。土偶好きだったの?」
「ど、土偶!?」
「あれ、さっきのって土偶だよね」
なんだ。私がドキドキしているのに土偶について考えていたのか。納得いかないなー。
「えーっと……一応聞くけど、土偶ってここには……」
「ないよ」
だよね……。私が開いていた歴史の教科書や資料集でも一緒に見ていたのかな。
「えっとね、ただの人間を作ろうとしたら土偶になったの。それだけ」
「え、そうだったの!? なんだ、本格的な土偶を作ってプレゼントしようかと思っちゃったよ」
「いらなさすぎる……」
本当に尽くす男だなぁ、レイモンド。してもらうばっかり。私に返せるものなんて……何もないしなぁ。
「どうしたの、アリス。土偶は渡さないから安心してよ」
「……あっちほどの暑さじゃないけど、歩いていると汗ばむのが気持ち悪いなーって思っただけ」
「…………か、乾かそうか?」
うわ。すごくウキウキしてる……。
結局返せるものがあるとしたら、こーゆーことになっちゃうんだよなぁ。
「蒸発は……」
「さすがに身体の水分の蒸発はまずすぎるよ。蒸発に関しては強くはできないけどね。おそらくだけど、神からの制限がかかっている。それに頼って人体を対象にするのは危なすぎるし風だけだね」
だから、そんなにウキウキした顔をしないでってば。
「……背中だけなら」
「えー、背中だけかぁー」
なんだかんだで、じめじめは気持ち悪いしね。
レイモンドが腰につけた杖をチョイと動かして……。
「だ、駄目だった! もう二度と頼まない!」
「え……せ、背中だけなのになんで……」
くぅ!
背中に息を吹き込まれたら、あんな感じなのかな……。ゾクゾクして完全にアウトだった!
あ〜、身体が震えたのが腕を通して伝わったせいで、ちらっと見たらレイモンドの顔も赤くなっているし! それなのにずっとこっちをガン見しているし!
もうレイモンドの方、見れないし……。
完全に自爆した!