57.安心
「レイモンドは私が学園に落ちても、私のこと、えっと……好きなの?」
「当然じゃん。え、なんで違うと思うの」
「だってお嫁さんも強い方がいいから召喚したって最初に言ってた」
「あー……、ごめん。いや、召喚する気もなしに軽い気持ちで探しただけなんだよ。魔女さんに唆されて。それを言っちゃうと格好悪いかなーと思って言わなかったけど」
……魔女さんのせいだったのか。
「で、すぐに君のことが好きになってさ。本当にそれだけが理由だよ。強くなくたっていいんだ」
「……そっか」
「重いと引くよね。押しすぎても引くだろうし、どう説明しようか考えてああなったっていうかさ……」
「十分今も押しすぎていて重いと思うけど」
「隠しきれないよねー、仕方ない仕方ない」
相変わらず言い方は軽いなぁ。
うーん、私が受け入れられそうなのを見計らって小出しにしている気もするし、分からないなぁ。
レイモンドのことをどれくらい好きなのかって伝わっているのかな……聞いてみよっかな。
「……ね、レイモンド」
「ん?」
「私がレイモンドのこと……どう思ってると思ってる?」
「どう思ってると思ってるか!? む、難しいことを聞くな……。え、ええー……言いたくないな……」
あ、また悩んでいる顔になった。
この顔好きだな……私のために困っている顔。
「でも聞きたい」
「そう言われると弱いけど……」
整っているレイモンドの眉がひそめられて、どこかに視線をやったかと思えば私を見て……ため息を吐いて口を開いたかと思えば、つぐんで……。
可愛い!
やっぱり胸がときめく!
「嬉しそうだね、アリス……。苦悶系男子が好きなのにも程があるよ……」
レイモンドが私のために悩んでいるのが好きなだけなんだけどな。
「ほっといて。早く言ってよ」
「仕方ないな……いや、光樹くんくらいには好きになってもらえたのかなーって……」
光樹!?
え、あれ?
四歳児と同列だと思ってたの!?
「な、なんで光樹……」
「だってさ、泣いている俺が好きなんだよね? よく泣いている光樹くんを抱きしめてたじゃん……」
いや、私のために泣くレイモンドとは別物でしょう。
「悩んでいるのが好きなのも、なんとかしてあげたいって弟に対する気持ちと似ているんだよね、たぶん」
いや、私のために悩んでいるのが好きなだけだけど。そんなに弟に尽くしたい気持ちなんて持っていなかったけど。
「ちょうどホームシックにもなる頃でしょ? だから不安定になっているんだよね。ほら、よく光樹くんを抱きしめていたから、人肌も恋しくなって俺にもしてくれたのかなーとか……」
ホームシック……レイモンドがべったりしすぎて、そんなには感じていなかったかも……。そっか、最近私が泣きぎみなのもそう解釈したのか。
「飛んでいるベッドの上でもあんなにスヤスヤ寝ていたし……俺、あれでも結構ドキドキしていたんだけど、全然そーゆーのないよね」
うん……寝てしまったのは私もびっくりだったけど。レイモンドが私を好きすぎて安心しちゃうだけだと思う。ドキドキしているんだけどなぁ。
「光樹くんにもよく好きって言ってたし、同じノリかなって……。だって、こんなに早くその……そーゆー好きにはなってくれないよね。冷静に考えてさ」
……そう言われると私が軽い女みたいじゃん。
「で、でも今の時点で家族と似たような好きならさ、他の男はよっぽどじゃないと選ばないよね。悲しませたくないよね。君、優しいし。いいんだよ、まずはそうならないとって思っていたから。俺がまず家族にならないとって……あ」
そこまでは言うつもりはなかったって顔……。分かりやすいのか分かりにくいのか、サッパリだなぁ。
「……安心した」
「よく分かんないけど、不安は消えた?」
「うん。学園に落ちても強くなれなくても、私のこと好きなんだよね」
「もちろんだよ」
「それなら、安心して頑張るよ」
何があっても見捨てないでくれる相手。思考に偏りはあるのかもしれないけど、やっぱりそう信じられる人は欲しい。
依存しよう、しばらくは。
前にもそう思った気がするけど、改めてそう決めた。
「ねぇ、レイモンド。私があんたのことをどう思っているのかは、自分ではよく分かんないけど……」
「え。よく分からないなら、俺に惚れていると思うって言っておけばよかったかな。それもさっき悩んだんだよなー」
……言われたら否定できなかった気はする。
「でも……あんたの言う通り、確かに人肌は恋しくなるかな。光樹をよく抱いていたし。たまにくっついてもいい?」
「いいよ、もちろん。大歓迎」
「悩んでいるのを見るのも、やっぱり好きだし。たまに見つめてもいい?」
「……勘違いはしそうだけど。いいよ、たくさん見つめて」
赤い瞳が私を見つめ返す。
金髪碧眼だったのなら爽やかな王子様にでも見えたのかもしれないけど……私は奥に炎がちらついているような、この瞳が好きだ。狂ったように熱い何かがくすぶっているような、この瞳が――。
今はここまでにしておこう。
一緒にベッドに座るのも、本音を言えばもう抵抗感すらない。まだ……好きだと思われたくはない。
「レイモンドは、朝までここにいる気なの?」
「いいや、君は俺を意識していないからそんな簡単に言えるんだろうけど……俺はこれでも結構耐えているんだよ」
さっきは、私が不安に思っていることを吐くまで毎晩一緒に寝るとか言ってたくせに。
「……そうなの?」
「そうだよ、アリスがいけないんだよ。貧乳貧乳って言うから気になって、触っちゃ駄目かなーってさっきからずっと――」
「今は言ってない!」
……わざとかな。
男として見てほしい気持ちもあるから、わざわざこんなことを言ってくるのかな。
好きになると、いい捉え方しかできなくなっちゃうなー。
「そうだけどね。インパクト強かったし」
「レイモンドの変態エロ乙女!」
「え……変態乙女からまた増えてない? なんでそうなってるの……」
「もう出てって。安心したからもういい」
「ああ、分かったよ。一晩かけたかったけどね。また、不安があったらいつでも言って。おやすみ」
微笑んで立ち去る彼に名残惜しさを感じてしまう。手を振って扉を閉める彼と、朝がくればまた会えることにほっとしてしまう。
よぉし。
明日からまた頑張ろう!
絶対強くなるとか絶対受かるって言われるより、そうじゃなくてもいいよって言われた方がやる気が出るよね。