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56.不安

「アリス!」


 扉を開けてソフィに何かを言われたレイモンドが、こちらに走ってくる。


 何を言ったのー!!!


「はい、私がアリスです……」

「知ってるよ! ソフィから不安があるみたいで泣いていたって聞いたけど……」


 せっかく涙をふいたのに……ギリギリ、あくびをしたからとでも言えば誤魔化せると思ったのに……。


「大丈夫、ついうっかり……」

「うっかりじゃないよ、もう。ここじゃ落ち着けない。ほら、移動するよ」


 まぁ、鏡台の前の椅子に座っている状態じゃね……って、え……。


「……レイモンド、手を離して」

「嫌だよ」

「待って、なんかベッドに向かっている気がするんだけど」

「大丈夫、変なことはしないよ」

「いや、駄目でしょ。ベッドは」

「えー、一緒にベッドで空まで飛んでおいて何言ってんの」

「何言ってんのはこっちの台詞だけど。いやいや待って、夜にそれは駄目だと思う」

「……それなら、素直に全部言う?」

「んーと……」


 もうベッドに着いちゃったし。


「言いたくないって顔をしている」

「まぁ……」


 だって、情けない。


「夜の全ての時間を使ってでも聞き出す」

「……その前に寝そう」

「いいよ。俺と朝まで過ごしたって皆に思われるけど。起こしに来たメイリアやソフィにあらまぁって顔をされるけど」

「絶対に嫌……」

「ほら。なんか不安があるんでしょ、言って。そうじゃないと毎晩一緒に寝るからね」


 強引すぎる……。

 ベッドに来たのはそのための脅しかな。一度ベッドで過ごしたから次も許されるって思ってるよね。絶対私が絆されるように計算している気がする。


 仕方なく一緒にベッドに座った。


 あー、最初だったら変態とか罵って枕とかぶつけてやるところなのに……!


「そもそもレイモンド、なんで大人しく呼び出されるまで部屋で待っていないの。ソフィと楽しくロレンツォさんが結婚している話とかで盛り上がったりしているんだから、遅くても部屋で待っていて」

「……次からはもう少し待っているよ。でも、今日は早く来てよかった。アリスの不安は全部消す。消せなかったら、次も待たない」

「頑固すぎる。私にも不安を持つ自由くらい、あってもいいと思う」

「そんな自由、俺は認めない」


 ごちゃごちゃ悩むタイプのはずなのに、頑固だなぁ、もう……。


「……学園に落ちたらどうしようって話を、ついしちゃったの」

「そんなの――」

「絶対に受かるって言われる方がプレッシャーだよ。落ちたら? その先は? レイモンドはそのまま学園に入るんだよね。私はどうしたらいいの? 浪人とかあるの? ラハニノスの学園に入るのは難しいんだよね。才能さえあればいいとか、そっちのがおかしいもんね。専門学校とかはあるの? レイモンドのご両親だってガッカリするよね。私、完全にお荷物になっちゃうよね。あんただって私と離れて色んな女の子と接していたら、そっちのがよく――」

「ならないよ」


 いつもより低い声が至近距離から聞こえた。


 お、怒らせた……?


「これだけ好きだって言っているのに、そんな発想ができてしまうなんて……もしかして、あの時にやっぱり魔女さんに何か言われた?」

「え……と」

「あの人……ま、人ではないけど、アレはね、目の前に思考の偏りがある人間を目の前にすると、ついバランスをとるような問いかけをしてしまうんだよ。心までは読まないけど、なんとなく掴むんだよ。それもあるから、きっとあんなふざけた話し方をしているんだけど、それでも説得力を持つ。惑わされなくていいんだ」

「…………」


 思考の偏り……。あの言葉を聞かなければ、ずっと私を好きだと信じられたのかな。

 ……そうは思えないけど。


「それから……ごめん。詳しく知らない君が不安になるのも当然だ。ごめんね、気付かなくて」


 こんなふうに甘やかされたら、どんどん自分が弱い子になっていく気分になる。だから、レイモンドに弱音は吐きたくないんだよね……。


「そうならないと確信はしているけど、落ちたらだよね。受験者は十七歳までだ。俺は一緒に合格辞退して翌年にまた受けてもいいんだけど……」

「それは絶対にやめて」

「って、君なら言うよね。確かに俺も、辞退するのは体裁が悪い」


 浪人もできるんだ。


「好きな選択をしていいよ。王都に仮の家を構えて、家庭教師もつけて翌年の受験に備えてもいい。ソフィたちも連れて行って俺が帰るまでの間は王都の町で遊んでもいいけど、君は嫌かな。貴族としての作法もまだ始めてはいないけど色々ある。学ぶことはあるよ。他にも……例えば領民の陳情に対してどんな対処をしたのかといった記録を持っていって、眺めるのも面白いと思うよ。予備を借りるのに問題はない」


 ……やっぱり私も王都へ行くのは既定路線なんだ。


「俺の希望だけならね、俺が十六歳になったら休みを利用して結婚したいかな。女性は十四歳から結婚できるからね。身元の保証はそれで十分だ。軽めの職業訓練所にも通えるから、通ってみたければ通ってもいいし。まぁ……しなくてもね。第一王子とは同学年で学園でも会う。魔法学園の方を受験すると聞いているし、あっちもSランクだから確実に入るよ。それなりに親しいから何をするにも簡単に口を利いてもらえるし、待遇もよくしてもらえる。ソフィたちも連れて行って、観光でもしながらゆっくり考えればいい。落ちたって、どうにでもなるんだ」


 お……王子まで出てくるのか……。そういえば年に数回雑談しているんだっけ。学園に入ったら会うのか。


「私だけここに残るという選択は……」

「存在しないね」

「やっぱり」


 レイモンドの側で好きな選択をってことね。

 でも、そっか……どうにかはなるんだ。学生結婚は遠慮したいけど。


「それで、安心はできた?」

「……うん。多少は」

「多少かぁ」


 ベッドに連れてくるくらいに距離を詰めるってことは、もうそれなりには好きだと伝わってしまっているよね……。


 それなら再確認しちゃおう。

 せっかくだし安心させてもらおう。


 レイモンドなら、きっと――。

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(2023.10.27より)

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