表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/188

55.ソフィと恋バナ

「今日ね、使用人部屋も案内してもらったの」


 メイリアとソフィに、寝支度を整えてもらいながら言う。


「はい、お聞きしました。その時はその場にいなくて残念でした」

「お仕事もあるもんね。ずらっと並んでいるベルが圧巻だったなぁー」

「ええ。いつでも、そちらの紐を引っ張ってお呼びくださいね」

「……でも、忙しいよね。私、あそこにたまに遊びに行っちゃ駄目かな……」

「え〜、ぜひ来てくださいよ〜!」


 聞き役に徹していたソフィが、瞳を輝かせる。


「内輪話とか……は、さすがに聞けないかなぁー」

「例えばどんなです?」

「んー、誰と誰が結婚している……とか?」

「あはは、料理長のロレンツォは結婚していますよ〜。使用人専用の別棟がありまして、家族と共にそちらで寝起きしています。洗濯メイドとか、特定の誰かに付いていない者は基本的にそっちですね。ロレンツォの奥さんは、実はここのキッチンメイドだったんですよ。娘さんの希望で、街で飲食店を母と子で今は営んでいますよ。夜には裏門からここへ戻ってきます」


 ……もしかして、五平餅はそこの店から広がっていったんじゃ……。ヨーロピアンな雰囲気なのに五平餅が売られているのはなんとも。


「そうだったんだね。そっかぁ、職場恋愛かぁ〜、そんな話とかはするの?」

「あぁ、気になっちゃいますか! なっちゃいますよね〜!」


 ソフィのテンションが上がってきたところで、メイリアが「私はそろそろ失礼しますね。もう少しソフィに付き合ってあげてください」と微笑んで立ち去っていった。

 さすがメイドさん、空気を読んでくれるなぁ。


 にっこにこでメイリアを見送り、さっきのテンションのままソフィが話を続ける。


「しますよ〜! 若い子同士だけですけどね」

「ソフィは? 誰かいるの?」

「えーっ、もうアリス様ったら〜。実はレイモンド様付きの従者、ハンスが気になってます! 気になっているだけですけどね。恋人がいるのか聞こうかと悩んでいるところです」


 ああ……よくレイモンドの後ろについている彼は、ハンスって名前なのか。


「私の母もこちらで働いていまして……なかなか話が伝わりそうで誰かに相談もしにくいんですよね。主に部屋の整備を担当しています。チェンバーメイドですね」


 そうだったんだ。


「ハンスは、私にとってのメイリアやソフィみたいな感じ?」

「そうですね。十歳になってからはハンスが基本的についています。レイモンド様はお強いので、ほどほどにですけどね。べったりは嫌がられますし」


 そっか……内部からの暗殺も警戒しなきゃいけないんだっけ。本人が強ければそうなるのか。用事が発生しやすい時にだけ側にいるのかな。深い緑の髪をした、物静かで影が薄い印象だった。


「結構、ハンスと話はするの?」

「はい! アリス様のお陰です!」

「……私の?」

「はい。どこに今日は行く予定らしいとか、情報のすり合わせも行うので」


 私と一緒に行動する時が多いもんね。当然か。


「レ……レイモンドのえっと……様子とかも、聞いたり……?」

「気になりますか。そうですよね! レイモンド様と、すごく仲よくなっていますもんね。私もう、毎日ドキドキして……!」


 なんでソフィがドキドキするの……。


「だって……気になるっていうか……レイモンドってよく分かんないし」

「よく……分かりませんか?」

「純粋っぽく見えるのに、計算高い感じもするし。バカっぽく話している時もあるのに、それも作戦なのかなって思う時もあって。ただの親切なのか試されているのか分かんない時も……」


 は!

 ソフィがめちゃくちゃニヤニヤしてる!


「な、なんでもない!」

「アリス様のことがお好きだからですよ〜。好きな相手にはバカにもなります! 試しもします! 計算だってします! あ〜私、興奮してきました〜」


 だから、なんでソフィが興奮するの。


 ……分からないではないか。人の恋バナはやっぱりキャーキャーする。

 女子は恋バナが好きだから。でも、友達がしていた恋バナ……ずっと続いていたためしがないんだよね。あの男子が気になるとか修学旅行で言っていた何人かの子も、中学生になったらもう、そんな素振りも見せていなかったし。中学一年で別のクラスに彼氏がいるって言っていた子も、三年生になったら別れたらしいと風の噂で耳にした。


 お母さんだって、お父さんとは大学生の時に付き合い始めたって言ってたし。こんな年齢からずっと続くとは……。


「レイモンドって、いい言い方をすると一途な感じはするけど……悪い言い方をするなら盲目っていうか……他が目に入らなくなる印象があるんだよね」

「いいじゃないですかぁ。私はあのレイモンド様、好きですよ〜」


 ドキリとする。

 他の若い女性に、レイモンドを好きだと言ってほしくないって思っちゃってる。私のだよって言いたくなる……。


「学園に入るまでは、ずっとそうなのかなとは思う。でも……どうなのかな。同じ場所で暮らさなくなって、二人きりにもあんまりならなくなって……。他に学園で好きな子とかできたら、絶対またああなるよね。他が目に入らなくなくなるくらいに……」

「なりませんよ、絶対に! ずっと言い続けていましたから。魔女さんが可愛い子を拾ってくるって、記憶はなくしてしまうけれど素敵な女の子だって、結婚して幸せにするんだってずっと言っていました」


 ……子供っぽいな。

 三年以上前からなら……子供か。弟の大樹の成長を見て、いかに男子が子供っぽいのかは思い知った。自分がクラスで見ていた小四男子よりも、はるかにガキくさい小四男子に成長していた。


 素敵な女の子……弟の世話をしているところでも見てそう思ったのかな。結構イヤイヤ遊んであげていたんだけど。

 面倒だな、仕方ないな、そう思いながらだったけど……もう……私にそんな存在はいない。レイモンドがいなくなったらもう、私が私のままで話せる人もいなくなる。この家と私に血の繋がりはない。レイモンドが他の人を好きになって私が邪魔になったら、ソフィとも……。


「今はそうだけど……」

「アリス様〜、そんな顔をしないでください。ずっとそうですよ。大丈夫です」

「私が……もし学園に受からなかったら?」


 それが怖くて怖くて仕方がない。

 昨日、レイモンドとサイモンの魔法のぶつけ合いを見て、自分との歴然とした差を思い知った。特訓の中で、自分がいかに相手の魔法に反応できないかも自覚している。


 レイモンドのことを好きだと思うほど、不安になる。


「だ、大丈夫ですよ。才能だけで……」

「でも、最低限のことすらできないかもしれない。入学に間に合わないかもしれない。そうしたらレイモンドは……私のこと、どう思うんだろう……」


 じわぁと目に涙がたまるのが分かる。

 

「ア、アリス様、泣かないで。大丈夫です、分かんないですけど、その時はその時で――」


 あたふたとソフィが狼狽えて、つい抑えていたものが出ちゃったと後悔した時に……扉のノックの音が鳴り響いた。


「アリス〜? 誰も呼びに来ないから来ちゃったけど、まだ支度中?」


 そうだった!

 毎晩レイモンドが来るって話になったんだった!


「あ、遅いから呼び忘れかと思ってレイモンド様がみえたみたいですね! 今の質問はレイモンド様にされてください。必ずご安心できますよ。それでは!」


 ちょ!

 行かないで、ソフィー!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
別作品ですが、よろしければご覧ください。
↓人生賛歌!な最終回です。
婚約解消を提案したら王太子様に溺愛されました 〜お手をどうぞ、僕の君〜【書籍化・コミカライズ&完結】

↓月城聖歌が主人公の700年後の物語です。
聖女として召喚された私は無愛想な第二王子を今日も溺愛しています 〜星屑のロンド〜【完結】

X(旧Twitter)∶ @harukaze_yuri
(2023.10.27より)

小説家になろう 勝手にランキング
(↑ランキングに参加中)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ