48.レイモンドの過去3/5
「……魔女さん……なんで俺に異世界を覗くかって聞いたの……」
「なぜでしょうねぇ?」
「どうして……女の子をって言ったの……」
「さぁ。どうしてかしらねぇ?」
「俺なら……寿命が削られるって知ったら……早めに寿命が来る子を探すって……言われなくても分かるよね……」
魔女さんが悪いわけじゃないって分かっている……全て、想像力が足りなかった俺が悪い……でも……。
「彼女……いつ死ぬの……」
黙った魔女さんに静かに尋ねる。
「それを聞いてどうするの?」
魔女さんは答えない。
「寿命と相殺……それができるってことは明確な寿命が見えているはずだ……それは、いつなの」
「それを聞いてどうするの?」
また同じ言葉で聞かれる。
「それまでに……召喚するかを決める。まさか絶対にできもしないことを、俺に言ったわけじゃないよね」
異世界からの召喚は禁忌。それは神の領分で、してはいけないという意味だ。
ただし……何か罰があるというわけではない。神の恩恵を利用して魔法を行使するこの世界では、「魔法の禁忌=しようとしてもできない」ということ。できない上に、しようとしたことは神にバレる。結果的に、神の加護を剥奪される危険性を孕んでいるということ。
言い換えれば……魔女からの直接の許可があれば……できる。
「彼女の死亡は、十四歳十ヶ月。ここはひと月が三十日、あちらはそうでない時もあって少しだけ時間の進みが違うけれど……あなたが十四歳になる月よ。それまでに悩んで決めなさい。召喚をすれば、彼女の存在はあちらの世界で最初からなかったことになるわ。……覗き見は、あなたの杖でもできるようにしておく。それではね」
魔女さんにもらった杖の宝珠が発光し……気付いたら部屋は消えて俺は森の中にいた。さっきまでいた魔女さんの部屋へと通じる扉も、今はもうどこにも見当たらない。
――答えが出るまで来るなってことか……。
異世界からの人間の召喚。それは大層なことで、単なる気まぐれだけで言い出したとも思えない。だからといって聖女召喚の時期でもないし、それなら王都で国王様も立ち会いのもと行うはず。
悩めと言ったのは……どちらでもいいからだ。悠久の時を生きる魔女にとっては、暇つぶしすら重要な意味を持つのかもしれない。
神は未来を見ない。
見れないわけではなく、見ない。
見てしまえばこの世界に飽き飽きして、全てを投げ出したくなってしまうかもしれないと、冗談混じりに魔女さんが言っていた。
それでも……見れないわけではない。
俺がアリスを見つけたのは偶然だったのか必然だったのかは分からないけれど――、
これからきっと、彼女から目を離せない。