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4.世界の話

 妖精でも出てきそうな青い森のベンチに、彼と並んで座る。


「それで……色々と違和感があるんだけど。まずはあなた、辺境伯の息子とか言ってなかった? 金持ちっぽい建物じゃないよね、ここ」

「ああ、ここは魔女さんに借りたんだよ。この辺りは魔女さんの領域だから魔獣も襲ってはこない。強い魔法を使ってもおかしいと思われないし、魔女さんの気が向いていたら存在すら隠してくれる。便利なんだよね」


 魔女……そういえば魔女から私を受け取ったことにするとか言ってたっけ?

 なんだかこの世界、把握するのも大変そうだな。早く目覚めたいんだけど……うーん……。

 

 夢じゃなかった場合に、一番切実な問題は自分の未来だよね。


「私を選んだのは、なんで? 何をもって嫁にしようと思ったの。なるつもりはないけど」

「んーと、宝珠を使って……んー、魔女さんの力を借りて、君の世界を覗き見していたんだよね」


 ああ……設定がファンタジーすぎる……。


「別世界から連れてくると魔法の適性はその過程でこの世界に望ましい形でつくから、俺の条件に合致する子を探したんだよ」

「……条件って?」

「そりゃやっぱり可愛くてー、」


 最初から酷い……それに私、そこまで可愛くはないと思うけど。むしろ幼馴染でめちゃくちゃ可愛い子がいるし。性格はやや電波だけど、せっかくなら彼女の夢の中に現れてあげればよかったのに。


「あ……いや、えっと、それから小さい子の世話もしたことがあってー、」


 一番下の弟は四歳だ。小学生の弟と卓球に出かけた時は保育園にいたけれど、よく世話を焼いていた。

 というか……なんで一瞬、あれって顔をしたんだろ。


「あとは異世界に来ることに抵抗がない方がいいと思ってさ。俺、気遣いができる男だからね。だから気付いたら異世界にいましたって本を何冊も読んでてー、」


 え……それ、対象がかなり絞られるんじゃ……。


「あまりにも元の世界に戻りたすぎても可哀想だし、そんなに人生を楽しんでいるわけでもなくてー、」


 ま、まぁ生きるのは面倒くさいとは思っていたけど。


「で、若くして死んでくれる子ね! 俺と似たような年齢くらいで」


 ああ……確かにこの男、私と似たような年齢に見えるかも。綺麗な顔だけど童顔だよね。


「そんな条件で念じていたら君が見つかってね。ずーっと観察し続けていたんだよ。暇な時にはずーっとね」


 それ……やっぱりストーカーでしょ。


「で、君が大好きになったから、然るべきタイミングで召喚したんだ。創造神の使い魔さんの力を借りて、死ぬ前にね。そうじゃないと可哀想だからね。元の世界には戻れないし。こっちの世界に呼ぶと、あっちでは最初からいなかったことに過去から全て書き換わるからさ」

「え……何それ……」

「俺の望む条件全てに合致していたのが、君ってことだよ」


 条件入れすぎて薄まってるよね、それ……。ほどほどの顔でほどほどに子供の世話を焼いたことがあってほどほどに異世界モノ読んでてって……。

 いや、それよりも……。


「待ってよ。私……いなかったことになるの?」

「うん、なるね。大騒ぎにはならないように修正される」

「……同じ時間に戻すとかできないの? 普通、召喚ってそんなものでしょ」

「いや、召喚は呼んでくるだけで戻せない。そうじゃないと、魔獣とかあっちに送りまくって君の世界を壊すこともできちゃうでしょ。ま、適した形に再構成されるから、もし君の世界で誰かが魔獣を召喚したら、ただの猫や兎になっちゃうかもしれないけどね」


 魔獣って……猫や兎に近いの……。


「それでも誰かが大量の魔獣を送り込んだら、君がいた世界の生態系すら変わるかもしれない。そういった干渉は別世界に対してできないように、神による制限を受けている」

「連れて来るのも十分な干渉でしょ」

「人間、いきなり死ぬことはあるからね。もうすぐ死ぬ相手を召喚するくらいなら、条件次第でできてしまう。君の周囲の過去は書き換わるからそれなりの干渉だけど、ギリギリでね。一定以上の……そのあとの歴史に関わる人物なんかは無理だ」


 なんかムカつくな。

 そんな偉業を残せるとは思っていなかったけど。

 

「……それなら、もうすぐ死ぬ相手しか選べなかったってこと?」

「いや……絶対選べないわけではない。死ぬまでの時間は術者の寿命と相殺される。残り二十年寿命がある子を召喚すれば、俺の寿命が二十年消える」

「……魔法も万能ではないんだね」

「別世界に対して大きな干渉はできない。迷惑はそこまでかけられないようになっているんだ。好き放題召喚できたら、君の世界から人間すら消えてしまうだろう? 神による制限をクリアできたとしても、他にも召喚する側には条件があって……俺はもう二度と誰も召喚はできないだろうな」


 うーん……辻褄が合っているような合っていないような……情報が多すぎて整理できない。


「過去が書き換わるなら……寿命二十年の子を召喚するのと、寿命を迎える二十年後に召喚して体を二十年分巻き戻すのと、あっちの世界での結果は変わらないよね。どちらも召喚者の寿命は犠牲になるってこと?」

「さすがに頭がいいね。そういえば頭のよさも条件に入れたんだよ。アホな子は嫁にしたくないしね」


 頭ねぇ……。

 それも条件の入れすぎで薄まったに違いない。せいぜい学校の成績も平均としてオール4程度だった。弟の世話もあったし部活もあるしでそこまで時間がとれず、勉強自体は楽しかったからほとんど授業中に覚えていた。もう部活は引退間近だったから、受験勉強に専念しようと思っていたのに。

 ……って、質問に答えてないよね、コイツ。


「話題、逸らさないでくれる?」

「あ、分かる? まぁ二十年後とかだと俺も歳をとっているしね。寿命の長い子は探していない。ただ……君が察している通り、巻き戻しも同じだ。俺の寿命は一年分削られた。うっかりね。一日分のつもりだったんだけど」

「私を貧乳にするために、自分の寿命を一年削ったんだ……」

「い、いやいや。君の体の寿命は一年延びていると思うよ。記憶は魂に刻まれているから消えていないし。俺の命を君に一年分授けたんだ。そういう言い方にしてほしいな」


 これだけ話していても目が覚めない。

 思考力も夢にしてはある気がする。


 これは……もう少し情報を得ておいた方がいいかもしれない。


 仕方がないので、今まで忘れようとしていた彼が最初に言った恐ろしいあの言葉について……質問することにした。

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(2023.10.27より)

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