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36.アンドリューとリコルル

 彼の手から氷の道がバリバリと空中を這うようにこちらに走り、すぐに霧散した。


 レイモンドの杖を持つ手が少し上に上がり、シルビア先生の手の位置も変わったから、二人が消したのだろう。


 と、思ったのも束の間――、


 バシャァァァァァァァ!!!


 空から水が降ってきた。……私にだけ。

 レイモンドとシルビア先生は普通に平面の傘みたいな光の壁を生み出して、被害にはあっていない。


 上を見るとタライが浮いている。


 本当にタライから水が落ちてきたし……。そんな攻撃あり得ないと思っていたのに、まさかタライから水で攻撃される日が、昨日の今日で訪れるとは……。


 というか、レイモンド!

 私のことが好きなら守りなさいよ!


 ――と思った瞬間に、風で乾かされる。

 ボワッと一瞬で乾かされて、この前みたいに変な気分にはならなかった。


 え……待って、こんな乾かした方できるの……それならこの前のって変態的な乾かした方だったんじゃ……。


「本当に、全く反応できないんだね……」

「だからそう言ったでしょ、アンディ。もうやめなよ」

「うん……分かった……」


 ああ、全く反応できないことを教えるために、あえて水から守らなかったのか……なんかムカつくな。

 これから特訓……頑張ろ。


「この子はアンドリューくん。皆、アンディって呼んでいるよ。四歳だ。ただ……幼児にしては扱える魔力は大きいかな」

「弱い大人より強いし!」

「ああ、そうだね」

「アンディよりも、私のが強いもん!」


 あれ……もう一人、女の子が優しそうなショートボブの先生と一緒に部屋の中から出てきた……。赤い髪をツインテールにしていて可愛い。けど、気が強そう。

 背が高いから五歳かな。


「俺のが強い!」


 二人とも、自分のことをもう名前で呼ばないんだ。


「それで……この子はリコちゃんよ。リコルル・ベネット。アンディくんとは兄弟なの。こちらはマイカ先生。ごめんなさい……アンディが。私はアリス様の分まで防ごうとはしたのですが……」


 シルビア先生が教えてくれる。

 そっか……防ごうとしてくれたのか。ということはレイモンドが知らないうちに阻止したってことだよね……。今後も来るかもしれないことを考えて、いかに弱いか教えたかったのかな……ほんっとムカつくな。

 

 あーあ、もう名字までは覚えるの、無理そう……。夜に私の部屋に来るとか言っていたし、レイモンドに聞きまくろう。そしてメモしておこう。毎晩来てもらう方がいいように思えてきた。


「それで誰? その弱い人。アンディの水をかぶったところしか見てないけど」

「僕の将来のお嫁さん。今日は水遊びはしなかったの? リコちゃん」

「昨日まで風邪を引いていたから、今日も念の為やめましょうってママが……私はもう元気なのに!」

「あの……プールの外で水遊びならいいよって言ったのですが、すねてしまって部屋遊びをしていたのです……」


 そっか、そういうこともあるし子供八人に対して三人の先生なのか……。魔法があると安全性の確保も大変そう。魔導保育士が足りない理由もよく分かった。子供に対しての必要人数が多すぎる。


「だってリコ、元気だもん! あ、違った。私! 元気だもん!」


 最近私って言い始めたのかな、可愛い。


「それより、レイ先生のお嫁さんになるの? 絶対似合わないよ! そんなに弱いのに!」

「こぉら、そんなこと言わないの! それに魔法は強い弱いじゃないって言ったでしょう?」

「弱かったら国を守れないじゃん! パパは強いもん!」


 騎士団の人の子供なのかな。


「リコちゃんって……呼んでもいいかな」


 リコルルちゃんの前にしゃがむ。


「ごめんね、アリスお姉さん弱くて。頼りないって思っちゃったね。お姉さん、記憶をなくしちゃったんだ。何も覚えていないの。魔法の使い方も全部忘れちゃって、昨日から教えてもらっているの」

「わ……忘れちゃったの?」

「うん、名前しか覚えていないの。だから、今度遊びに来たらリコ先生とアンディ先生に魔法を教えてもらおうかな」

「リコ……先生になるの?」

「うん、お姉さん、魔法は赤ちゃんみたいなものだから。アンディくんも、お姉さんの先生になってくれるかな?」

「お、俺……水、かけたのに……」


 びっくりしたように目を丸くして、こちらを見る。さっきから何かを我慢するような顔をしていた。

 

「防げるって思ったんだよね? こんなに弱いと思わないもんね。ごめんね?」

「う、うん……かかると思わなくて……ごめんなさい……っ、水かけて……ごめんなさい……っ、ひっく……ごめんなさぃぃ」


 な、泣いちゃった……。

 そっか、罪悪感を持っていたら魔法は使えない……防がれると思っての悪戯だったのに水が私にぶっかかって、びっくりしていたんだ。


「いいよ、分かってるよ」


 アンディくんを抱きしめて、よしよしする。


 うん……弟と違ってよそ行きの顔のおちびちゃんも可愛いな……これが兄弟となると「弱いのが悪いし!」と、反省したとしても、それを見せようとは絶対しないはず。頑として非を認め合わないのが兄弟というもの。


 しかし、どうしようかな……これ……。


 アンディくんがめちゃくちゃ泣いているから、チラッチラ子供たちが気にしながら遊んでいる。なんか……気まずいなぁ……。

 

 

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