35.魔法教育施設
幻想的で綺麗……えっと、保育施設……なんだよね……?
子供たちの笑い声よりも、目の前に広がる景色に気を取られる。
先程の事務室から裏側の扉を開けて渡り廊下からすぐにテラスを降りると、そのエリアは周囲を木々に覆われていた。木々を囲うように光の壁が薄っすらと見えている。
その光を目立たないようにするため、たくさんの木が植えられているのかもしれない。
盛り上がった土の上に石がのっかり階段がつくられているものの、距離を置いて点在している。ぐにゃりと座れるようにねじ曲がった木もある。地面のやや陥没している場所には、透き通るような水が入っている。
「園庭は、四歳と五歳児クラスの子供たちが悪戯をしてしまって……これはこれで楽しいかなと、そのままにしているんです」
「そうですね、遊具のようにも見えます」
うん……悪戯しましたーって感じ。でも、均一ではない配置のせいか変な芸術家がデザインしたふうにも見える。
アスレチックのようだと言おうとして……やめた。その言葉がこの世界にあるのかが分からない。
子供たちの歓声が聞こえる方へ目を向けると、さっきまで私たちがいた建物とは別の建物が斜め前方にあり、そのテラスの目の前には、低い石壁に囲われた大きなプールで児童が保育士二人と遊んでいた。
子供の人数は……六人、かな。多くはない。
「大きいお子さんたちですね」
「ええ、今は四歳と五歳クラスの子が遊んでいて……ニ歳と三歳クラスの子たちはもう水遊びは終わって部屋遊びをしています。それではもう少し近づきましょうか」
近づくにつれ……ここは異世界なのだと実感した。
「ねー! 先生、水が生温いー!」
「そうだな、少しだけ冷やそうか」
「セオが冷やす!」
「うわっ、駄目だ! 人に向けて魔法を使うなって言っただろう!」
「え、人じゃないよ」
「皆が入っているんだから、人だ! 皆仲よく氷漬けになるだろう! あとでセオだけ説教な」
「も、もうしない! 先生許して!」
今……一瞬……水の表面がパリっと氷になって戻されたよね……。
「セオ、駄目だよ。調整苦手でしょ。リナが教えてあげる。そこのバケツに水を入れて、一緒に練習してあげる」
「違う。今は急いでたから! もっとセオは上手い!」
「今、凍ったじゃん!」
「そうだよ、セオのへたっぴー!」
「うっさい、レジー! お前よりマシだ」
「こらぁ! 喧嘩するな! 誰だって最初は下手なんだ」
「セオは下手じゃない!」
背の高さ的に、男性の先生が見ている三人が四歳クラスかな……。
「ここはぁ、ラミィのお部屋ね。ミアはそこ?」
「うん、ミアの部屋はここ。一緒につくろ。ボビーも手伝って」
「やだ。ボビーは噴水ごっこする」
「こっちにかかる! ボビーやめて!」
「ボビーくん、嫌がっているからやめようね。それからラミィちゃんとミアちゃんも、高いのはつくっちゃ駄目よ。天井までつくって閉じこもると息ができないし、下の石が消えたら落ちてくるからね」
「はーい!」
こっちはプールの中に石で壁をつくって部屋みたいにしている……たくさんは生み出せないらしく、二人の女の子が協力しているからガタガタの壁だ。
「レイ先生……この人は誰?」
もう一人いたらしい。洗い場の陰にいたから分からなかった。のそのそと出てきた男の子は目つきが鋭くて赤い髪をしている。
「あ、ほんとだ! レイ先生だ!」
「レイ先生! リナね、魔法上手くなったー!」
「ずる! セオもだよ! セオが先に言いたかった!」
「先に言った方が勝ちなの!」
子供たちが一斉にこちらを向く。
やっぱり、こっちにも遊びに来ているんだ。
「そっか、今度見せてね。今日は彼女の見学なんだ。ゆっくりはしていられないかな」
「えー。それなら、いつゆっくりするのー」
「こぉら! レイ先生を困らせるな! す、すみません、騒がしくて。あ、そちらが……」
「アリス・バーネットです。よろしくお願いします」
今日、何回この言葉を言ったかな……だんだんバーネットって名字にも愛着すら湧いてきた。
「私はオリバーで、こちらがマデリン先生です」
「は、はい。今日は見学させてもらいに来ました。お忙しいのにすみません」
「いえいえ、子供たちにもいい刺激ですよ」
もう駄目だ……これ以上名前を覚えられない……。帰ったら頭を整理しよう。
「それで……この人、誰なの」
赤髪の男の子にもう一度聞かれた。なんか……威圧感があるな……少し怖い。
「名前はさっき彼女が言った通り、アリス・バーネット。僕の結婚する相手だよ」
なぜかレイモンドとシルビア先生が警戒しているような……。二人が私の真横に来た。
「強いの?」
「いいや、今は君たちよりも魔法は上手く使えない。だから使っちゃ駄目だよ」
「ふぅん……そうなんだ……」
先生相手に腕試しをしようとするタイプかな……なるほど。こっちでは安易に先生だよーというノリにはならない方がよさそうだ。安心して魔法を使われてしまいそう。
そう思ったのも束の間……突然、彼の手から……氷が走ってきた。