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33.異世界の保育園

 頑丈そうな柵で囲われた保育園の前に、スタッと降り立つ。


 こ……これが異世界の保育園……。

 

 ものすごく元の世界を思い出す。一年に一度、光樹の通っていた保育園で行われる夏まつりに遊びに行っていた。部活がなんらかの理由で休みになった金曜日にも、お迎えに一緒に行ってお昼寝用のお布団の持ち帰りを手伝わされることもあったから、よく知っている。

 

 建物自体は煉瓦造りで少し違うけれど、遊具やお砂場で子供たちが楽しそうに遊んでいる。独特の小さい子たちの笑い声に懐かしさも感じる。


「園長先生とも知り合いだから、大丈夫だよ」

「そうなんだ」


 スタスタと歩くレイモンドに手を繋がれながら中へと入る。正面玄関ではなく、園庭へと通じる門からだ。慣れた様子でロックを外していた。


 いいの……それ……。


「あ! レイ先生だ!」


 光樹と同じような四歳くらいの男の子が大きな声をあげた。


 遊ぶ子供たちを見守って声をかけていた女の先生もこちらを見て、何かを子供たちに言うと数人が建物へと走って行った。先生はそれを見送ると、ポニーテールを揺らしながらこちらへ走ってきた。


「お久しぶりです、レイモンド様! 前回来ていただいた時はちょうど私は遅番で、お会いできなくて残念でした。えっと、そちらが……」

「ええ、私と婚約する予定の女性です。本日は一緒に見学をさせてもらいに来ました」

「あ、アリス・バーネットです。よろしくお願いします」


 婚約する予定の……ううん、なんとも……。

 レイモンドの一人称が「私」になった……やっぱり使い分けているんだ。


「ふふ、とても可愛らしいお嬢様ですね。レイモンド様には、よく子供たちと遊んでいただいているんです。ゆっくりと見学されていってくださいね」

「は、はい、ありがとうございます」


 子供たちと遊んでいるんだ……ああもう、レイモンドがイケてる男子に見えてきた……どうにかしないと……いや、そんなことを考えている場合じゃない。


「レイ先生、今日は何して遊ぶ? さっき、すっごい毛虫見つけた! 赤いやつ! あっちにいたから一緒に見ようよ!」


 何人かの子供が先生についてこっちに来ていて、そのうちの一人がレイモンドの腕をとってぶんぶんし始めた。

 

「ごめんごめん、今日は園長先生とお話をしたいんだ。赤いの見つけたの、すっごいね。今度一緒に探そうよ」

「えー、絶対また来てよー」

「来る来る」

「ミリアだって、レイ先生に絵本読んでほしい! この前また読んでくれるって言った!」

「はは、今度ね、今度。絵本、選んでおいて」

「ねー、この人誰? 先生なの?」


 やっぱり小さい子がいっぱいだと大変だなぁ……。保育園へのお迎えで布団を袋にしまっている時も話しかけられることがあったし、懐かしい。ちなみにその間、お母さんは手拭きタオルや連絡帳なんかをしまっていた。


 しゃがんで目線を合わせて、聞いてきたミリアという名前の女の子の頭をなでる。


「アリス先生だよー、仲よくしてね」

「アリシュ先生?」

「うん、そうそう」


 つい言っちゃったけど、先生呼びは駄目かな。でも、レイモンドがそうだったしなぁ。

 

 言いにくいよね……アリスは。光樹は「ねぇね」って呼んでいたし。


「レイ先生のお友達?」

「そ、そんなものかな……」

「そんなもの? 違うの?」


 誤魔化しって通じないからな……ううん、先生もいるし仕方がないか……。


「もしかしたら、レイ先生のお嫁さんになるかもねー?」

「それだと……ミリアがお嫁さんになれない……。ママにも甘えすぎちゃ駄目って言われたの……」


 ああ……顔がよくて優しいお兄さんがたまに来るとそうなるよね……。

 

「そっかぁ、それならミリアちゃんが大きくなるまで待ってるね。ミリアちゃんがずっとレイ先生のことを好きだったら、アリス先生と勝負しよっか」

「えー、ミリア負けちゃうよ」

「ミリアちゃんの得意なのでいいよ」

「ミリア、縄跳び得意になってきた! パズルもね、すごく早くできる!」

「すごいね。アリス先生、負けちゃうかなー」


 恥ずかしいからレイモンドの方は見ないようにしよ……。あっちもあっちで他の子供たちと絡んでいるし……どことなく視線は感じるけど、無視だ無視。


「あ、園長先生が来られましたよ」


 子供たちに連れられて、年配の女性が柔和な笑顔でこちらに来た。さっき建物へと走って行った子供たちが呼んできたのかもしれない。

 そっか、いやに子供たちとの会話に口も挟まずにこの場所に留まっているなと思っていたら、待っていたのか……。


「それでは、私は失礼します。ほら皆、園長先生とのお話を邪魔しちゃ駄目よ、戻るよ!」

「えー。また絶対来てよ、レイ先生」

「分かったよ、またね。お仕事中にお邪魔してすみませんでした」

「いえ、子供たちも喜びますから、いくらでも来てください! 今日はお会いできてよかったです。ほぉら、行くよー」


 保育園って感じ……。魔法を使っている様子はなかった。保育士が足りていないとも言っていたし、ごくごく限られた子たちだけが、そんな保育をされているのかもしれない。


「騒がしくてすみませんねぇ。お待ちしておりました、レイモンド様」

「いえ、会うたびに元気をもらえますから。本日はご厚意に感謝します」


 偶然来たんじゃないのか……。なんらかの許可はもらっていたような言い方だ。今日来るかもしれない、くらいは言っておいたのかもしれない。

 

「そちらが……」

「アリス・バーネットです。よろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ。園長のマーガレット・スノーヴィアと申します。当園は魔法教育施設併設型の保育園『サンクローバーの家』です。ようこそお越しくださいました。お話は聞き及んでいます。それでは、中へお入りください」


 園長先生に促され、三人で歩き出す。

 

 さっきまでの騒がしさがパッタリとなくなり、また緊張感が高まってきた。

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(2023.10.27より)

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