32.空の上で雑談
「そういえば、保育園ってことは働いている女性も多いの?」
びゅーんと飛びながらレイモンドに聞く。
「そうだね。貴族だと乳母もいるけど、平民はそういうわけにもいかないから。女性の場合は、君の世界でいうパートのような働き方になるけどね。子供が小さいうちは仕方がない。短時間労働勤務だよ。ただ、幼稚園というものはない。働いていなかったとしても、保育園には四歳から預けられるよ」
「そ……うなんだ。農業とかお店とか自営業の人ばっかりのイメージだったけど」
そもそも、前の世界でもどんな職業があるのか、よく分かってはいなかった。小学校で働く人に話を聞きに行く授業もあったものの、お米屋さんとかだったし。
「魔道具の製造勤務者も多いかな。それなしでは生活が成り立たない」
「魔道具……生活用品的な?」
「そうそう。灯りも意識なんてしなくてもずっと点けっぱなしにしたい時だって多いしね。水は簡単に生み出せるけどお湯は加減が難しい。大量の水を一気に生成するのも普通は難しいから、お風呂には大体水を生み出してお湯にするのがセットの魔道具が使われる。冷蔵庫だって欲しいし。あまり頼りすぎもよくないってことで、基本的に料理なんかは薪を使ったかまどだったりキッチンストーブでつくるね」
異世界に冷蔵庫……あるんだ……。
「……思ったより文明が進んでる? 冷蔵庫まであるとは思わなかった」
「召喚まではしなくても、俺みたいに異世界を覗き見していた奴がいたのかもね。似たようなのを見つけて、頑張って魔法の力でつくり出そうとしたんじゃない? 五十年以上前からあったんだったかな。外からの見た目はチェストみたいだけどね」
「魔法でよくつくれるね……」
「こっちのが簡単につくれるものも多いね。起動や終了は魔石に意志の力をのせるだけ。浴室にも埋め込まれているから注意して見てみなよ」
……気にもしていなかったな。
「水を生成したあとに魔石の表面が完全に水で覆われたら止めて、今度は一定の振動を周囲の水に加えて湯にしている。工房では、そういったものを作る訓練なんかも経て、正式雇用される。中に込められた力を使い切ったら込め直しをしてもらうか、劣化していたら買い替えだ。だから職もなくならない」
「魔法……すごいね……」
究極のクリーンエネルギーだよね。
「ただし、大規模な工房も増えてきたからね。安価な値段にして他の工房を潰したあとに、すぐに買い替えが必要な劣悪品を売りつけて儲けようとする経営者がいないか監視もしなきゃいけない。値段や、抜き打ちでの商品確認とかね。そういった機関のトップが俺んちってこと」
ああ……現実っぽい話だ……。
「そんなに魔石って存在するの?」
「いいや、鉱石に力を込めて魔石にするような作業所もある」
魔法に関連する色んな仕事があるんだなぁ……。魔法が多少でも扱えるなら、何かあっても無職にはならずに済むかな。
「じゃ、そろそろ降りるねー」
「うん」
なんか……たくさん難しい話も聞いたし炎も怖かったし、行く前から疲れちゃったな……。
それに、レイモンドの説明は分かりやすいし親切だし何を聞いても嫌な顔はしない。ものすごく強かったし、お願いはきいてくれるし……疲れているとよけいに頼りたくなる。
あーあ、どうしようかなぁ……好きになっちゃったら。変態ストーカー男のはずだったのに。罠にでも嵌められたようで……癪に障るなぁー。