31.目的地
「あ、あのね、アリス……」
「なに」
レイモンドの方を見もしないでズンズンと歩く。
どこに行くつもりなのとか聞かないでー、私も分かんないしー……。
「リボンの位置とかは、仕立て屋さんから提案としてのデザインはあるんだけど――」
「聞いてなーい!」
あ、思わず振り向いちゃった。
「ええー……気になっていたんじゃないのー」
「ソ、ソフィと服のデザインについて話していただけなの! 女の子特有の話題選びなの!」
「そうなんだ。それにしては自宅ではジャージやTシャツばっかりだった気もするけど」
「自由になるお金もそんなになかったし。自分で稼げるようになっていたら、もっと気にしたし。私のお古のTシャツを大樹が着れたら着る感じだったから仕方ないの。家の中の私にまでケチつけないで。覗く方が悪いんでしょ」
「ケチなんてつけていないよー。そっか……それなら今度一緒にデザインも考えようよ。今から好みのやつ買いに行く?」
「い……いいよ。なんかこの家、いっぱい服があるし。水色ロリ服ばっかりだけど。もったいないから買わなくていい」
「俺が考えたの、気に入ってくれた?」
「……もうそれでいいや。これ以上はいらない。まぁ……もう少し汚してもいいと思えるようなのがいいけど……」
「え……最初のワンピースで腹筋までしていたのに……」
「夢だと思ってたの!」
そういえば、あのワンピースはどこにいっちゃったんだろう。
……さすがに夢じゃないよね、もう……。昨日も夢を見ちゃったし。海の上に立ってタコの足を引っ掴んでダンスをするという全くもって意味が分からない夢だったけど。
ちなみに観客はイルカだった。
「でも、確かに動きやすい服もあった方がいいかな……」
レイモンドが思案し始めた。
辺境伯息子の嫁候補(?)に相応しく見える動きやすい服ってあるのかな……あ!
「ミニスカはやめてよ、ミニスカは」
「ううん……それなら、ドロワーズを組み合わせれば……?」
結局そっち系か!!!
「そういえば、私のネグリジェもドロワーズ付きでロリロリだよね……あんたが考えたわけ?」
「そうだよ! 俺が考えたのに着ている姿をまだ見ていないよ。寝る前に俺、部屋に行くから!」
「来るな。変態。ウザい」
「さっき約束したじゃん、寝る前にお願いを叶えてもらいに行くって」
「私、了解していないけど」
「えー、俺にタダ働きをさせたのー? 酷いよ、アリスちゃん」
たまに、ちゃん付けするよね……なんでだろ。
ううん……確かに可哀想かな……でもお願いって……たぶん、たぶんだけど……キ、キスとかだよね……ま、まずい、ドキドキしてきた。
「分かった、ネグリジェを寝る前に見せるので手を打つ。それでお願いはおしまい」
「えーっ、それ? じゃ、たまに見せて」
「……寝る前のレディの部屋にたまにでも来るのはダメだと思う」
「でもさ、他の人がいると聞けないこととかあるでしょ? 一日の終わりに何かなかったか聞くくらいはさせてよ。本当はそれをお願いしようと思ったんだ。使用人がいる場だと、やっぱり無理をしている。気にしないでいつも通り話をしてほしいけど、君はそうしないよね。言えずにいたこととかないかなって、これでも気にしているんだよ」
なんだ……キスじゃなかったんだ……いや、ガッカリなんかしてないけどね!? でも、そんな真面目なお願いだったなんて、色々想像した私が馬鹿みたいじゃん。
「……分かった。変なことはしないでよ。聞きたいことがなかったら、すぐ部屋に戻って」
「ああ、そうするよ」
……あれ?
おかしいな……おかしいよね? 一度見せるって話だったのに、毎晩来ることになってない?
え? なんでそうなった?
「それじゃ、せっかくだし、この世界の保育園に行ってみる?」
「あ、うん。それは行ってみたい」
「じゃ、行こっか」
彼がぷかりと浮かせてくれた杖に跨って、後ろから彼に支えられる。
高い場所は怖い。一人で乗れるようになっても……彼に後ろで支えてもらえないかなと思いながら、宙に浮かんだ。