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30.レイモンドの強さ

 彼が「護りの光を」と言った瞬間に体が発光を始めた。


 ……やっぱり外から見ると、もっとスーパーなんとか人に見える……しかも金髪だし。異世界人じゃないから、スーパー現地人レイモンド……? あんまり凄そうな名前じゃないな。

 そういえば、言語変換がされてしまっているんだっけ。全部こっちで通じるのかな。スーパー異世界人ゴッドとか……どうなんだろう。


 サイモンも何かを小さな声で呟いていたと思ったら発光を始めた。

 それを見て「いつでもいいよ」とレイモンドが言うと、「それでは」と戦闘が始まる。


 サイモンが杖を突き出すと無数の水の矢が飛び出し、後ろへと跳んでいたレイモンドが同時に手を払う動作をすると霧散した。


 二人とも余裕そうだし……軽いジャブって感じなのかな。

 

 レイモンドが地上よりも数メートルの高さにまで浮いたと思ったら、どこからか宙に現れた飛び石のようなものに凄まじい勢いで飛び移りながらサイモンの火の攻撃を避けつつ杖を振る。


 曲芸を見ている気分だけど、やっぱり火は怖い。当たっても光によって遮られると分かっていても……怖いものは怖い。

 戦闘はしたくないな……。

 

 サイモンの足元の土が突如としてズズンと盛り上がった。態勢を崩しながら宙へと浮いたサイモンへと、レイモンドの足を離した瞬間の飛び石が次から次へと襲いかかっていく。大きな石の弾丸だ。


 光の壁でそれを崩しながらサイモンが杖を振ると、水のフリスビーのようなものが現れてシュンシュンと飛んでいく。


 なんか……高速回転してない?

 水の……刃みたいなのがついてない?


 当たったら首がサックリ飛んでいきそう……こわ……。


「そろそろ終わっていーいー? アリス」


 その殺人フリスビーのようなものをはね返しながら、呑気な声でレイモンドに聞かれた。


「う、うん。ありがとう」

「じゃ、終わらせるね」


 味気ない台詞とは裏腹に、ピタッと宙に浮いた石の上で止まるとレイモンドの顔に穏やかな笑みが広がる。

 サイモンの繰り出す殺人フリスビーをまさに壁といった大きな光で溶かすように消滅させながら、杖を上に振り上げた。


 頭上に……とんでもない大きさの……岩が出現した……。


 これはヤバイ……岩っていうか……教室より面積大きいよね……今、レイモンドに何かあってこれが落ちてきたら、ここにいる全員が圧死するんじゃ……いや、ギリギリ私やメイリアたちの上にはないけど……。


「これは……私の光魔法でも消せそうにないですね。参りました」

「ああ、終わりだね」


 そう言って岩に向かって「戻っていいよ」と話しかけつつ杖を振ると、パンッとあれだけ大きかった岩が消滅した。


「満足してくれた? アリス」


 彼が少し心配そうな顔をして私の側に走り寄る。そういえば、引かないでとお願いされていたんだった。人を殺せる手段を持っているんだと認識はしてしまったけれど、怖がらないようにしないと。


「うん……ありがと。魔法って、あんな使い方ができるんだね」

「お互いに光魔法で防御していて、あの程度なら死なないって分かっているからね。生死を懸けた戦闘となると、大義名分がないと難しいかな」

「……そうなんだ」


 そっか、罪悪感の有無や力を使うことを望んでいるかどうかも関わってくるのかな。国同士の戦争なら……自国を拡大したいと望む側と必死で国を守る側なら、守る側の国が勝ちそうな気がする。

 ……だからこの世界は平和そうなのかな。

 

「ね、俺を潰す岩、想像できるようになった? 自分で生み出せそう? 昨日俺を殺すって言って君が生みだした程度の岩の大きさじゃ、潰せるほどではなかったからね」


 いきなりこんな場所で何を言うの!

 この家の跡取りになんてことをと思われちゃうじゃん!


 案の定、ギョッとした顔で他の三人が私を見ている。


「ち、違うから! ただの冗談、軽口だから! レイモンドがすっごく変態っぽいことを言うから、ついなの……!」


 慌てて言い訳をするも、三人の顔が変わらない。


「だ、だってほら、私、わ、若いし! そんな……えっと耐性ないし……! 私のか、体が、き、気になるとか、変なことばっかり言うし……! ちゃんと、レイモンドがいないと困るって分かってるし、ほ、本気じゃないの!」


 必死になって弁解していると、手を肩にポンと置かれた。

 

「ええっと、アリス。俺が悪かったよ。俺も居た堪れなくなってきたから、もう行こっか……」

「え、で、でも……」


 メイリアとソフィにも、跡取りを殺すなんて投獄ものだとか思われていたら……。


「大丈夫ですよ、アリス様。そんな顔をなさらなくても、理由もなくそのようなことを言う方ではないと分かっています」


 メイリアの隣で、ソフィもうんうんと頷いてくれた。


「そうですよ、アリス様! こんなに可愛いアリス様をからかうなんてレイモンド様は失礼ながら、ちょっとあり得ないです。乙女心を全然分かっていません!」


 ソフィのが可愛いと思うけど……。


「今朝だって、ワンピースのリボンの位置もレイモンド様が決めたのかなと気にされながら選ばれていて、私がレイモンド様のお立場だったら確かにからかいたくなるくらいに可愛いらしいとは思いますが――」


 ぎゃーーー!!!

 

「ま、待って。止めて。えっとえっと、分かってくれたのならいいから。も、もう行くね。サイモンさん、ありがとうございました。レイモンド、行くよ!」

「え、あ、そうだね。行こっか」


 つい、サイモンにさん付けをしてしまったけれど、今回は突っ込まれずに温かい眼差しで三人に見送られる。


 レイモンドの手をぐいぐいと引っ張って、そのまま目的もなく門へと向かう。速足で歩きながら、私は致命的なミスをしたことに気付いた。


 私から手を繋いでしまった……どうしよう、この手……離しにくいよ……。


 顔が赤くなっているだろうから振り返りもできない。レイモンドはどんな顔をしているんだろう。気になるのに見られない。


 私は一体どこに向かって歩いているの……誰かぁ〜、私に目的地をちょうだい〜!


 どうしたらいいのか分からないまま、涙目で門へと歩き続けた。

 

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(2023.10.27より)

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