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21.昼食召喚

 レイモンドに連れて来られたのは、最初に私が召喚された建物だった。カーテンは前と違って開かれていて、窓から陽光が降り注いでいる。別荘のコテージのような趣だ。家具の配置も変わっている。


「くつろぎ空間になってる……」

「ああ、すっかり戻ってるね。少し待っててよ」


 杖を振ると、彼自身が浮き上がった。

 そのまま机の上に杖で何かを描くような動作をする。その動きに合わせて光が線を描いていく。


 彼の体をぽわぽわと光が取り囲んだ。まるで彼自身が発光しているようだ。


 すごく……神々しい。

 

 でもこれ、ちょいちょいと食べ物を出す作業なんだよね? どうなのかな、これは。


「この地に在りし神の御使いに乞う。与えられし戒めを解き放ち定められし鎖を砕き閉ざされし扉を……」


 待って、呪文の詠唱を始めちゃったよ?

 ご飯のためだよね!?

 違った?

 そう言ってたよね?

 おかしくない?

 結構長いことしゃべってるよ?


「かの地より、ここに!」


 あー……ご飯が現れちゃいましたー!


「よし、食べよっか!」


 ポムッと魔法陣をレイモンドが消した。

 

「待って……なんかものすごく仰々しくなかった?」

「さすがに一瞬では無理でね。特定の部屋に用意しておいた魔法陣の上に昼食を置いておいてもらえるようにお願いしておいたんだよ。入口と出口、両方用意しないと無理なんだよねー。理を無視した魔法だから精霊の力では無理だし、神の力を借りている上に簡単な魔法でもないから物々しくなるよね。色々と手順も詠唱も省略しているけど、理解していればこの程度でいける」

「……昼食のために神の力なんて借りていいの……」

「大丈夫大丈夫、罪悪感さえ持たなければ余裕余裕!」


 私には一生無理そう……。

 

「それに、実際には力を貸すか決めているのは使い魔さんだし」

「それって……魔女さんのことだよね……」

「んー、魔女さんは二人いるからね。片方は遠くにいて会ったこともないけど、正式に頼んでいるからどっちを通して力を借りたのかは分かんないかなー。もう片方は人の形をしているのかも知らないよ。二人以上に分裂もできるし」

「そうなんだ……」


 キシャーッって感じの謎生物を思い浮かべてしまった。魔女さんについて考えるのはやめよう。

 

 机の上を見ると、銀の蓋がされた料理が中央に集められている。

 中身が気になるな……。


「もう食べていいの?」

「いいよー、食べよ食べよ。その少し形が違うのは最後ね。そのまま置いといて。デザートだから見ると食べたくなっちゃうよ」

「分かった」


 蓋を開けると、美味しそうな料理に頬が緩む。たくさんあるけど、全部食べられそうな気がしてきた……!


 オニオンスープやマセドアンサラダ、シーフードソテーに、チーズも添えられている。他にもいっぱい!


「いただきま〜す!」

「うん、どうぞ。いただきます」


 まだ料理は温かい。料理人さんたちもレイモンドの我儘に付き合って大変だなぁと思いながら食べていると、レイモンドがすまなそうに謝った。


「実はさ……少しの間、俺と夕食だけは一緒に食べられないんだよね……ごめんね」

「ん? すごくどっちでもいいけど、なんで?」

「もう少し配慮をお願いしたいなー。いや、貴族ってさ、若いうちは両親とは一緒にご飯を食べないんだよ」


 ……そういえば朝食もレイモンドと二人だった。気を遣わなくていいなとほっとしたけど。


「そうなの?」

「マナーが完璧になるまで一緒に食べないのが普通なんだ。俺はもう一緒に食べてはいたけど」


 マナーか……私もフィンガーボールとかカトラリーの置き方や、使う順くらいしか知らない。修学旅行なんかで恥をかかないために知ってはいるくらいだ。


「そうなんだね」

「ああ……それでね、君はかなり綺麗に食べていると思うし個人的には十分なんだけど……貴族並の美しさで食べられるように、使用人からの口出しが今日の夜からある……と言っても食べること自体を嫌にならないよう、一回に一つの指摘くらいで長い目で見て上達をってことになるけど……」

「分かった」


 学園に入ってからも必要だろうし、ビシバシ鍛えてもらおう。私からおかしいところがないかも聞くようにしよう。

 でも……綺麗に食べられるようになったらご両親とも一緒に食事をするのかな……それも緊張するなぁ。


「俺もその場にいていいなら、一緒に食べるけど……」

「絶対嫌」


 同い年くらいの男の子に、そーゆーのは見られたくないよね。

 

「だよね……まぁ、よろしく頼むよ。朝と昼は一緒に食べよ。両親も、マナーがどうこうよりも自分たちと一緒だと気を遣うだろうからそうしろって言ってくれている。それから……これも悪いんだけど……ここの生活に慣れたらこの世界での常識やマナーの教育とかダンスの練習もあって……」

「ダ、ダンス!? なんで!」

「んーと、俺は年に数回、王都で王子と交流しているんだ。君もほとんど俺の婚約者みたいなものだから……一度は呼ばれると思うんだよね、そのうち……。もう少し年齢が上がると出なければならないダンスパーティーもある。召喚に応じて行くはめになる。そっちはまだ先だけど、学園に入学すると練習する時間もとれなくなるしさ。今のうちに……」

「ま、待って。なんで王子と交流?」


 王子様か……そんな偉い人に会ってヘマしたら嫌だな。行きたくないなぁ。


「俺んとこは王族の傍系なんだ。それに、辺境伯領って一つの国みたいなものなんだよ。いちいち王都に判断を仰いでいたら時間がかかりすぎる。召喚も入口と出口が必要だし、そこまでの大がかりな魔法を毎日バンバンともできない。神の力の乱用はいかがなものかってね。召喚魔法が使える者も多くない。だからこそ政治も何もかも一つの国みたいなものなんだ。森にも面しているけど他国との国境もある。強い軍事力を持っている」


 ああ……仲よくしておかないと反乱や独立運動でもされたら困るってことか。というか、毎日バンバンともできないのに昼食を召喚してよかったの……。

 それに、召喚魔法を使える人も少ないんだ。


「ちゃんと王家に忠誠を誓っていますよアピールをしなきゃいけないってこと?」

「まぁね。両親はそんな感じなのかな。俺は若いからもう少し砕けていて、いつも王子と雑談しているだけだけど」


 そっかぁ……学園入学まで約二年だっけ。魔法やらマナーやら……面倒だなぁ。でも、前の世界で死ぬよりかはその方がよかった……そう思って頑張るか。


「それじゃ、デザートを食べよっか」


 食べ終わったのを見計らって、レイモンドが最後の蓋を開けた。

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(2023.10.27より)

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