18.魔石
「石を探すの?」
聞きながら、池の手前に落ちている無数の石ころを眺める。
「あれ……たまに綺麗なのがある?」
草や土と混じる石の中に、青や橙などそこにはないはずの色が見え隠れしている。
「うん、魔石だね。原石だからカットも研磨もされていないし輝きは鈍いけど。この世界に満ちている力が、たまたま固まって落ちている。……俺が昔ここで色んな魔法をぶつけたのと、魔女さんの領域だから数多くあるのかもしれない」
「……高く売れるの?」
「え、感想がそれ!?」
「あんたが早々に死んだら、これを売っていれば細々と生きていけるかな」
「ええ……」
そんな顔をされても……切実な問題でしょ。
「ここに来れるかは魔女さんの気分次第だけどね……まぁ、研磨工房とかで高値で買い取ってはくれるかな。俺に何かあれば、君は両親の養子となって才能と身分のある男を婿としていずれ受け入れることになる。学園にいる間に条件を満たすそれ相応の男を自力で見つけられなければ、両親の希望する男と一緒になる。きっとね。生きてはいけるよ、心配しなくても」
「……そういえば、あんたのお父さんが身の振り方は学園卒業後までに考えればいいって言ってたよね。あんたと結婚しない未来もありだって考えているの?」
「ないない、そんなのないよ」
「聞いているのは、あんたじゃなくてお父さんの意向!」
レイモンドがぶーっと頬を膨らませている。
「あのね、よく考えて。私からすれば、あんたは人攫いなの。突然攫った女に結婚しようぜっとか言い出す男は、頭おかしいの。むしろそれで相手が喜ぶと思っていたら上から目線で感じ悪いし。身分があって顔がよかったとしても、実際は変態なの」
「……そうかもしれないけど、傷つくなー……」
やっぱり怒らないんだ。
これが小学生の大樹だったら、そんなことを言うなら魔法なんて教えない、とか言い出して拗ねていたと思う。どこまで言うと怒るのか試したくなってしまうけど……こいつに頼らないといけない立場だし、ここらへんで自重しよう。
でも……そっかぁ、傷つくのか。飄々としているから分かりにくいけど傷ついているのかな。キツイ言葉、言いすぎているかな……。
「あ、あんたのことは……嫌いじゃないけど」
「えっ……な、何!? なんでいきなりデレたの!? どうしたの、まさか俺に惚れた!?」
「惚れてない!」
そんな要素なかったでしょと、昨日と同じように言おうとして……口にはできなかった。本当にそんな要素はなかったかなと、一瞬疑問に思ってしまった。
「もー、いいからお父さんの意向を教えて」
「やだなぁ」
「早く」
「むー……、まぁ俺が勝手に連れてきたわけだからね。学園卒業までにいたる衣食住を含んだ全ての両親の好意を無下にしてまで一緒になりたい男ができたら諦めるよ。俺も両親もそのつもりでいる」
……そうなんだ。ううん、無下にしにくいな……。
それに、月に一度キスをするって話はどうなったんだろう。レイモンドとそんなことをしながら、他の男性と恋人になるのは無理があるし。そのことをご両親は知らないのか……もしくは、やっぱりこの世界の他の相手でもいいってことなのかな。
「君にそれまでにかかった費用を請求したりもしない。でもね、アリス。そんな選択、俺は認めない。他の男と話す隙もないくらいに側にいるからね!」
だから同じ学科を選ぼうとしているのか……。
魔女さんの言葉をふと思い出す。
『レイモンドちゃんがあなたを好きではなくなったら……他の男を探しなさい』
学園で他の女の子を好きになったら、どうするのかな。私を好きだと演じるにも、きっと限界はある。
いきなり私の側からいなくなって好意も口にしなくなって……分かりやすく離れてしまうのかな。ただ事務的に義務感だけで結婚して……。
「ア、アリス……?」
あ……不安な顔をしていたかもしれない。誤魔化さないと。
「……他の友達をつくる機会くらいはちょうだいよ。あんたしか知り合いがいない学生生活なんて嫌だから」
「あ、うん。そうだね。そこは分かったよ。ほどほどにする。気を付けるよ」
「……うん」
友達ができないかもしれない不安をもったと思ってくれたよね。
っていうか、なんでレイモンドが離れてしまう不安なんか持っているの、私……。やっぱり自力で生きていく力がないからだ。そこをなんとかしないと。
「それじゃ、大地の精霊にお願いしてみようかな。土魔法とは呼ばずに、大地の魔法って言い方を皆しているよ」
レイモンドが愛おしむような顔をして地面を見た。
違う世界から召喚されたわけじゃないのに彼に才能があるのは……この世界への愛情の大きさもあるのかもしれない。