177.卒業パーティ3
周囲から盛大な拍手。
次の曲が始まると思ったら、なぜか始まらない。
シーン……。
なんで!?
「アリス、入学パーティには見られなかったあなたとレイモンド様のここでのダンスを最後に見られてよかったわ」
ダニエル様とジェニーだー!!!
「ま、まさかこっちに来るとは思わなかった……」
「オリヴィアさんとフルールさんもいるわよ」
「え!?」
そういえば、クラブで適当ダンスを一緒に踊ったもんね……。
「今から私たち、前で挨拶をしてくるわ。帰宅前にはアリス、よろしくね」
なんで!?
びびることを言いながらダニエル様とジェニーが壇上に立ち、分かっていますよという顔でバンドの人たちが横へとよけた。
まずはダニエル様がご挨拶をされる。
「堅苦しい挨拶はここではしない。昨日したからな。この学園で過ごして分かった。お前たちは、いずれ私が治めるこの国の誇りとなるだろう。民あっての国だ。同じ国に住まうことに感謝しよう。学園生活、楽しかった。この国の明るい未来を共に築こう。四年間、ありがとう」
……卒業式でのお言葉よりは簡単だけど、顔にも声にも体にも迫力があるから緊張感が漂うよね。拍手の音だけが響く。
続いて、ジェニーが一歩前に出た。
「私も一言述べさせていただくわ。実はこちらの音楽の練習に合わせて、アリスたちとクラブで踊っていたの。二年生の前期までだったけれど、とても楽しかったわ。最後ですし、私たちも参加させてちょうだい。皆様と学び合い、とても幸せでしたわ。ここにいる方たちとはもう会えないのかもしれないけれど……だからこそ、今日は共に踊り、未来について語りましょう」
盛大な拍手に優雅に礼をすると、バンドの人たちに音楽をと手で促した。そして――、私たちよりも息の合っためちゃくちゃダンスを……!
絶対隠れて練習していたでしょ! 足の動きが速すぎて目にも止まらない! 躍動感が半端ない! どうなってるの!? キレッキレだ! さっきの挨拶とのギャップが!
そういえばクラブで「ジャイブ」に似てるわねと言っていた。週末にどこかで練習していたに違いない。この二人が一番、入学時から変わったよね……。
レイモンドと肩をすくめて笑い合う。
さっきまでの緊張感もどこへやら。わーっと歓声があがり、ぴゅーっと口笛を鳴らす生徒までいる。全部持っていかれた気がするけど、この国の将来の国王様と王妃様だもんね。それくらいでないとね!
「アリスさん、さっきはありがとう。ここではダミアンさんに付き合っていただくわ」
フルールに話しかけられる。
この子、人見知り体質だよね。クラスメイトと話はしても、プライベートで会うほどになっているようには見えなかった。
「保育科の仲間じゃない。離れてしまうけれど、たまには手紙をくれたら嬉しいわ。一年生の時にクラブでいただいた絵は大事にするわね」
「そ、それは恐縮ですわ。気にせず捨ててしまってください」
「フルールさん、もう……大丈夫?」
踏み込まないようにしていたけれど、あれから前向きに取り組んでいるようにはみえた。
「ええ。子供たちの笑顔のために頑張ろうって初心を思い出して……。挫折したら、ダミアンさんの勤める園に働きに行くことにしますわ。相談にのってもらいます」
「……オランド領に?」
「ええ。私の父、有り難いことに私にあまり関心がないので、行ってしまいますわ」
「そ、そっか……」
控えるように立っているダミアンが照れ笑いをする。どんな関係なのかなぁ。
「ダミアンさんも、元気でね!」
「ありがとうございます。俺も、いただいた絵は大事にしますね」
「……それこそ捨てていいわ……」
普通すぎる絵が大事にされてしまう……。
「アリスさん! 先ほどのダンス、最高でしたわ!」
次はオリヴィアさんだ。こっちでも次から次へと話しかけられる。レイモンドも保育科の人たちと話したりダミアンと話したり……最後だしね。大事にしたい時間だ。
「クラブでも一緒に踊ったじゃない。ボドワン様とは――」
「さすがに、あのダンスは荷が重いです。ただ……感銘は受けました」
オリヴィアさんの婚約者、聖職者のボドワン様だ。さっきも挨拶はしたけれど、こちらのダンスを見たあとの彼はやや興奮している顔つきをしている。
「ルールに則ったダンスも、そうでないダンスも、どちらが優れているということもなく人々が輝ける表現だと思いますわ。大切なのは楽しめるかどうか……オリヴィアさんの笑顔をこれからも守ってほしいと、失礼ながらお願いしたく存じますわ」
堅苦しい言葉が多いという婚約者さん。私が言えるのはこれくらいかな。
「世界中へと広がる貴方様の光魔法の尊さは私自身が身に沁みて感じております。そのお言葉、しかと承りました」
……固いなぁ。私もだけど。
「アリスさん、もう一度あのダンスを見せていただけるかしら」
このままだと、あちこちからの挨拶が止まらなさそうだと思ってくれたのか、オリヴィアさんがそう言ってくれる。
疲れちゃうから連続はなかなか厳しいけど……今日はバテバテになるまで踊ろうかな!
「ええ! オリヴィアさんも――」
耳元で囁く。
「少しはボドワン様に、一緒にとねだってみたら?」
「あ、あら」
「ふふっ」
さぁ踊ろう。
学園での最後のダンスだ。
「――レイモンド!」
四年間の最後をくったくたになるまで踊って――、そうして私たちはこの居心地のいい場所から……永遠に立ち去る。
――二度と戻れない大切な思い出を胸に。