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174.思い出

 二月も後半となり、春休み初日。念願の皆でお忍び(?)が実現した。女子三人では護衛がついていることを察しつつたまにお出かけはしていたけれど、六人では初だ。


 寮でダニエル様と見つめ合う。


「やっとインテリ風ダニエルさんをちゃんと見られたー!」

「アリス……この姿のダニーを見たかったのなら、言ってくれれば外出前に部屋に寄ってあげたのに」

「その手が!? でも、ジェニーだって気を悪くするよね」

「しないわよ、それくらいで。レイモンドさんが今、気を悪くしていないかが心配だけれど」

「大丈夫。俺もそれくらいでは動じなくなったんだ」

「さすがね。そうでなくてはアリスの相手は務まらないということかしら」

「まぁね」


 どーゆー意味だ!


 一瞬、さん付けに違和感があったなぁ。そういえば、ダニエル様を私がダニエルさん呼びするんだからジェニーもレイモンドを様呼びしちゃ駄目って言ったんだっけ……。

 つまり、それほどまでにこの二人は会話していない……そもそも女子と私の前ではあまり話さないようにしてくれているんだよね。自分からはほとんど話しかけない。


 それなのに私は……いやでも、インテリ風のダニエル様、いいな! 前髪を上げて、むしろ見せるスタイル。度が入っていないだろうダテ眼鏡……!


「あ、でも眼鏡って気を付けていない人ってイメージなんだっけ。もしかしてインテリ風じゃなくてアバウト風だった?」

「……アリスさん、今少しグサッときました」

「あ。ごめん、ユリアちゃん」

「いえ、その通りなんですけど」

「アリス嬢、そのうち言おうと思っていたんだが……」

「え、うん」


 ずっと何も言わずに仏頂面で私を見ていたダニエル様が口を開いた。 

 何を言われるんだろう。


「気分を害したら悪いが、いずれお前が亡きあと――」

「亡きあと!?」


 どうなっちゃったの!

 ダニエル様まで私の思考パターンに毒されて!?


「私もこの世にはいないかもしれないが、クリスマスには寝ている間に聖アリスより贈り物と共に光魔法も届けられるという絵本が出回るように手配しておこうと思う。お前自身がいるうちは、寝るより前の時間の方がいいだろうからな」

「う、うん……」


 寝たあとだと光は見られないしね。

 

「残り二年、お前たちがここにいるうちに内容だけは決めておきたい」

「……亡きあとは先の話すぎて想像できないけど、分かった」

「先に具体的な話をこいつにすると、相談もなしに内容を決めてしまう可能性も高いからな。いつ言おうかと思っていたんだ。先にアリス嬢も考えておくといい」

「確かに。ありがとう」

「数冊見本をつくり、言い残してから世を去るつもりだ。安心するといい」

「う、うん。五十年以上先のような気もするけど、よろしく……」


 ダニエルさん、キャラ変わった?


 まぁ……毎年恒例の私の光魔法、なくなっちゃったら寂しいよね。知人や隣人にも祈りを捧げる日になるように考えようかな。

 

「さすがの俺も、その内容なら相談するのになー。全世界に光が届くことも分かったし」


 一冊目のラハニノスでの絵本は、話したら私に反対されると思ったんだろうな。二冊目は全世界向けの光魔法と絡んでいたから、失敗を恐れる私にプレッシャーをかけないようにと思ってダニエル様と話を進めたんだろうけど……私が全くかんでいないのは気に食わないよね。


 クリスマスの夜にソリに乗った聖アリスちゃんから光の魔法のプレゼント。『聖アリスちゃんの奇跡』絵本には、巻末に「寝ている間に、子供たちには枕元に特別な贈り物があるかもしれませんね」という言葉と共に、「お子様を愛する皆様、ご協力をお願いします」とも記載してある。


 私の亡きあとってことは、死の寸前まで私は聖アリスちゃんをやるの……? 想像つかないなぁ。そうしたいとはクリスマスの時に思ったけど。


「そうすると、俺はその絵本を生きている間に見られない確率も高いですね。残念です」

「ですね。どんな絵本になるか気になります」

「私、そんなメルヘンな存在じゃないのに……文章が決まったら教えるね」

「十分にメルヘンですよ、アリス様。ありがとうございます。クリスマスのあり方が変わる時代に立ち会えて光栄ですよ」

「私も、わくわくしますね」


 やだなぁ、目立ちたくない……。


 そっか。よく考えると私って、この世界にとってはメルヘンな存在かもしれない。まぁ……聖女よりはマシだ。頑張ろう。サンタさんをこの世界に確立するためだ。サンタじゃなくて、聖アリスちゃんだけど。


「さてと……アリス、ダニエルにはもう満足した?」


 意地悪そうにレイモンドが聞いてくる。

 だってね……せっかく身を犠牲(?)にしたんだから、目に焼き付けておきたいし。


「うん、満足した。ありがとう、ダニエルさん」

「ああ……構わない」

「じゃ、行こっか」


 そうして、私たちが向かった先は――。


  ◆◇◆◇◆


「可愛い! レイモンド!」

「だよねー」


 小さな博物館のような建物には、たくさんの焼き物の人形が売られている。ずらーっと並べられているその数は、数百どころではないはずだ。


「ようこそお越しいただきました」


 店員さんに案内された奥の部屋で、私たちは色のついていない素焼きのモチーフを選ぶ。

 洋風なのに博多人形を思い出すよね。


 選ぶのは自分らしいものだ。

 それを六人分絵付け体験して、皆で贈り合う。相手に合わせて配色を変える。既に体験料は支払われているらしい。


「たくさんあって悩む……」

「迷ったらまた皆で来ればいいよ。ね、ダニエル」

「そうだな。気になるものが複数あるなら、また来よう」


 可愛い人形が多い。ゆるキャラっぽいニワトリさんや小鳥さん……しかし、変なものも多い。チキンとかナマズとか……。そして何より……!


「なんでフルーツサンドがあるの……」

「いつかアリスと来たいなと思って、フルーツサンドを置いてもらえないか店員さんと交渉していたんだ。だんだん王都でも流行り始めているしね」

「え……学食に単品で現れただけじゃなかったの。レイモンドの差し金だろうと思って何も言わなかったけど」

「学食も俺じゃないよー。さすがに無理だよ」

「……私だ」


 ダニエル様が!?


「そ、そんなに気に入ってくれたんだ……」

「……ジェニファーが好んでいたようだったしな」

「愛ゆえに!?」

「…………」


 しまった、触れてはいけなかったか。

 

「あら、ダニー。自分の嗜好と私のため……後者を選ぶのね。実際はどうなのかしら」

「……どうでもいいだろう」


 切り返しがもう、二人の世界だよね。

 これ以上突っつくのはやめよう。


「フルーツサンドにしよう……それしか目に入らない」

「アリスさんが選ばれたってすぐ分かりますよね。それなら私は眼鏡をかけたコブタさんにします」

「私はこういうのが苦手だからな……卵にするか」

「え、そっち系を選ぶのね。私はスイカにしようかしら。スイカ割り、楽しかったもの」

「剣にしようかと思いましたけど……それなら俺は焼き鳥にしようかな。学園祭の屋台で串焼きを売っていましたし」

「えーっ、俺はどうしようかな。悩むな……」


 各自決まったらお店の人に言って、お皿や筆や水差しが置いてある机の前に座り持ってきてもらう。


 悩んでいたレイモンドが、やっと私の隣に来た。


「決まったの?」

「魔女さん人形があったからね。赤で塗って聖アリスちゃんにするよ」

「……それ、レイモンドじゃなくて私らしいんじゃ……」

「つまり、俺らしいってことだよね」


 こうして、自分が決めた人形を六個分絵付けして皆に配った。

 私に皆がくれたのは、水色に塗られた卵につぶらな瞳が描かれた不思議生命体、同じく瞳付きのスイカや串焼き、水色フリルの服を着てピンクの眼鏡をかけたコブタさんに、白い小花模様がワンポイントの赤い服を着た聖アリスちゃんだ。

 コブタさんは、私とユリアちゃんが合体したみたい。私のフルーツサンドの具は、フルーツですーと分かるように苺とキウイの断面が乗っかっているので(だから分厚い)、それっぽく塗っておいた。皆に合わせて側面にはキラキラおめめ付きだ。


 もらった人形と自分のを見て思う。

 学園を卒業したら、もうこの六人で集合することはないんだなって。


「また来たいな……」

「また来よっか」


 お店の中にいるお客さん……たぶん護衛なんだなって、なんとなく分かる。ジェニーと何度も外に出て感じとれるようになってきた。

 うーん、ラハニノスに戻る頃には、あっちでも分かるようになっているのかな。レイモンドといると頭がほわほわしちゃうから、どうかなー。


 最後にダニエル様がすごい計画を教えてくれた。

 

「皆で遊べるようにと運動施設を公園の一角に設けるつもりだ。設計がもうすぐ終わり、そのあとは竣工に入る。卒業までには完成するはずだ。出来上がったら最初に皆で遊ぶとしよう。そのあとは市民へと開放する予定だ」


 私の発言って……結構、重いのかもしれない。


  ◆◇◆◇◆


 ――この日から、私たちは定期的に六人で何度も遊んだ。


 もう一度ここに来る時もあったし、青春さながらに海で貝探しをする時もあった。


 学園内の図書館でこっそりと隠れんぼまでした。図書館は広いから隠れるというよりも「忍びなさいと言われたら、どのコーナーにこの人は行くのだろう」と察するゲームのようなもので、隠れる人は本を読んで待っていた。

 

 赤い魔女さんも連れて本屋にも皆で行った。寮はその間、ニコールさんにお任せだ。お勧めの本を探して魔女さんに渡し、会計を済ませて寮に戻ったあとに誰がどの本を選んだか当てるゲームなんかもした。皆で品評をしてから一階ラウンジの本棚にそれらは置いた。


 ダニエル様の弟のフランシス様は、魔法学園ではなく聖学園の方を選ばれたそうだ。この寮は私たちが卒業すれば誰も住むことはなくなり……しばらくはダニエル様たちのお忍びの時の立ち寄り場として利用するらしい。


 思い出が増えるのは嬉しいけれど、終わりが近づくのは寂しい。

 

 最後の年にも本を贈りあった。品物だと、どうしてもダニエル様たちは高価な物を選んでしまいそうな気がして、レイモンドと相談して本を提案した。

 支払いは結局、ダニエル様のポケットマネーになったけど。店員さんに話を通してもらったいて、「カナリア寮宛で」と言えば無料で包んでもらえた。ものすごく欲しいジャンルの本は自分で選びたいだろうし、「役に立ちそうだけど自分では買わなさそう」がコンセプトだ。


 私たちは卒業までの残り二年間、大いに楽しんだ。こんなに楽しいのなら一年生からもっと皆で遊べばよかったなんて思いながら――……、その日はきた。


 

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聖女として召喚された私は無愛想な第二王子を今日も溺愛しています 〜星屑のロンド〜【完結】

X(旧Twitter)∶ @harukaze_yuri
(2023.10.27より)

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