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154.魔獣浄化

 そうして白薔薇邸に戻って何日か経った。

 

 恐れていた通り、爛れた生活を送ってしまっている。そのために早く夕食を食べて早く寝支度を整えて的な……レイモンドの顔を見るだけでそっちの妄想を始めそうな勢いだ。習慣とは恐ろしい。


 朝食はレイモンドにお願いして、早朝にご両親とも一緒に食べるようになった。前よりも緊張しないし和やかな雰囲気だ。学園での楽しかったことがたくさんあって、話題も多いからかもしれない。チョイチョイ聞けるご両親の当時の学園生活の話も面白い。


 今日は騎士さんと一緒に森のパトロール中だ。


 魔獣の身体の一部は魔道具にも使えることから捕獲部隊もあるらしい。そっちは男性の方が多いけれど……そちらではなく今回は普通に浄化だけさせてもらうからか女性の方が多い。

 今は魔獣もほとんど森から出ないし海に近い場所にしかいないらしく、空を飛んで森の奥にいきなり来させてもらった。


「今日は我儘を聞いてくださってありがとうございます……」

「いえいえ、直接お会いさせていただいて大変嬉しく思いますよ」


 ものの見事に騎士さんに囲まれている。

 面目ないよねー。


 あれ……なんか寒気がする。


「アリス、来るよ」


 レイモンドがそう言うか言わないかで、周囲の騎士さんが網を投げつつ大地の魔法で対象をぶっ叩いた。


 ――キィィィィィ!


 この世のものとは思えない咆哮をあげながら向かってくるそれを網で包むように風魔法を使い、網の端の上に岩で重しをした。


「浄化されますか?」

「はい」


 岩は時間が経つと消えてしまう。

 その前に次の岩を出してくれるんだろうけど、迷惑をかける前に浄化しないと……。


 目の前の魔獣さんは角を持つ兎さんのようだ。全身黒いのに目は白い。コミュニケーションがとれない相手だとすぐに分かる。

 網も魔道具の一種なのか丈夫そうだ。網の中から向かって来ようとしている。


「空にお還り」


 ベビーワームを浄化した時のように祈る。


 ――人の心から生まれる孤独な魔獣。誰と結ばれることもない彼らに安らぎを。


 キラリキラリ光と共に宙に消えていく。あれだけ黒い存在なのに最後には光を見せてくれることに、なぜか神の救いを感じる。


 あとに残るのは小さな魔石。


 次は可愛い兎ちゃんになれるといいね……。いや、人の心から生まれたのなら人間かな。つい、さっきの姿につられてしまう。


「今は兎形や猫型、鼠形くらいしか見つからないと思うけど……まだ探す?」

「……やめておくわ」


 これ以上付き合わせてはね……。

 怪我をさせてはいけない私が浄化に来るのは迷惑な道楽でしかないと、この状況になって思い知る。

 

「いいよ、終わりにしようか」

「ねぇ、レイモンド。この辺り一帯の魔物全部浄化とか、そんな方法は使わないのかしら」


 それなら、少しは私も役に立ちそうだけど。

 

「うーん、材料が取れなくなるからな。普通は対象の魔獣が見えないとできないけど、アリスならできちゃうかな」


 そう言って騎士さんに顔を向ける。


「浄化してもいい範囲を限定できそうなら頼むよ。無理ならいい。他への影響も考えて後日相談しよう」

「分かりました」


 あれ、具体的な話になってしまった?

 

「間に合いそうなら、クリスマスにでも記念に浄化しよっか。魔獣対応にあまり人手をとられたくない国境付近の西側一帯が現実的かもしれないけど、今後のことを踏まえると課題もあるな。う……ん、考えをまとめて父上とも相談するから、それまではここだけの話に留めておいてくれ」

「はい、確かに課題がありそうですね」


 私の軽い一言で余計な仕事を発生させてしまった!


「できるとは限らないと思うけれど……」

「それならそれでいいよ」


 こうして、過保護に守られつつの魔獣見学兼浄化は終わった。騎士さんにも私を守るという臨時の仕事を増やしてしまって申し訳なかった。


 最後に「危険な仕事を日々ありがとうございます。人々の安全は騎士様あってのことだとよく分かりましたわ。今後のご無事をお祈りしています」と光魔法で祈りを捧げた。

 騎士さんからは「そのお言葉を胸に今後も忠誠を誓い職務に励ませていただきます」と跪いてもらった。


 ――立場による自分の言葉の重みを感じた。

 

 私は、ただの学生じゃない。私の言葉で誰かを跪かせてしまう立場なんだって。


 学生の間だけは青春をエンジョイさせてもらおう。でも……こっちに戻ったら、できる限りのことをしてこの国のために尽くしたいと思った。

 

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(2023.10.27より)

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