150.フェリフェリちゃんのお味は
八月の第一週は定期考査だった。
終わった翌日の土曜日、皆でフェリキタスビティスの実を洗ってからお皿に入れて一階ラウンジへと集合した。今回は私の希望で魔女さんもいる。
ニコールさんとソフィは控えて立っている。
「豊作豊作ー! 皆、腐らなかったよ私!」
夏に入ってからは毎日水をあげて、話しかけ続けたかいがあった。
小粒だけれど、それはもう美味しそうにプルンプルンとサクランボのように赤く色づいている。一つだけ食べたけれど甘い。ブルーベリーより少し大きいくらいだ。
「頑張ったわね、アリス」
「そう、頑張ったの! 毎日話しかけたし枯らすのが得意な私にしては最高の出来かな」
「俺は照れがあってなかなか話しかけられず……一応毎日触ったり見つめたりしたんですが」
恋人か!
「俺が好きな味にはなったものの、皆さんのお口に合うのかは自信がないですね」
そういえばカルロスは甘いのが好きじゃないんだっけ。甘いのを食べ続けて最後に苦いのは嫌だな。
「それならカルロスのからにする? 駄目?」
「いいんじゃないか。よし、カルロスの皿から一つずつ奪っていこう」
ダニエル様の言葉に「もらいますねー」と皆が一つずつ取っていく。
「それじゃ、いただきま〜す!」
口の中に放り込む。皮ごと食べられるフルーツだ。
うむ……うむ?
確かにそんなに甘くはないけど不味くもない。トマトをもう少しだけ気持ち甘くした感じ?
「トマトに似てますね」
「あ、ユリアちゃんもそう思ったんだ。私もトマトっぽいなーって」
「そうね。嫌いではない味よ」
ここまで味に違いがでるんだ……。
「次はよろしければ、私のをどうぞ」
ユリアちゃんの言葉に、皆が取ってもぐもぐと食べる。
「美味しい……なんか爽やか味だね。キウイみたい。ユリアちゃんって爽やかだもんね」
「え、いえいえ……」
「性格が出るとしたら俺ってトマトみたいな性格ってことですよね。どんなんですかね」
「うーん、トマトも爽やかなのかな……準爽やか?」
「準!?」
あ……その設定は問題があるな。私のは甘いし、私の性格が甘いってことになっちゃう。修整しておこう。
「その人の好みの味になるだけかもね」
「そうなのかは分からないけど、次は俺のをどうぞー」
レイモンドのは気になる。
ものすごく気になる。
もぐもぐ……え!?
「おかしいよ、レイモンド! 柑橘じゃないはずなのに柑橘系の味がする! 邪道でしょ!」
「そう言われたって、こうなっちゃったんだからさー」
「お前は柑橘系の味が好みなのか」
「いや、特には。食べられる味でよろしくとは願っていたけどさ」
確かにこれは市場にあんまり出回らないはずだ……。
「次は私のをどうぞー」
「アリスのは、なんとなく味が想像できるわね」
「期待に応えられると嬉しいけど」
私が育てたのを皆が食べてくれているとドキドキするなぁ。
「んふふ、やっぱり甘いわね」
「アリスさんらしいですね。美味しいです」
「チェリチェリベリーに似てるね。やっぱり好みが出るのかな。美味しいよ、アリス」
やっぱりかー。
私もそう思った。チェリチェリベリーちゃんに似ているなって。
「次は私のね。お口に合うと嬉しいわ」
ジェニーのも気になる!
うんうん……甘くて美味しい。前の世界の堤防に生えていた野苺の味に近いかも。甘酸っぱい。
「ジェニーらしい味だね。セクシーな甘さ。癖になりそう」
「どんな甘さよ……アリス」
「でも分かります。癖になりそうです」
「ありがと」
全国民の育てたこれを食べてみたくなってきた。びっくりするほどそれぞれで違う。
「それでは、最後は私のだな」
ダニエル様のフェリフェリちゃん……どんな味だろう。恐る恐る口に入れる。
…………!!!
…………!!!
「甘い! ダニエルさん甘い! 高級感のある甘さ! さすが王子様!」
「だからお前は茶化すなと……」
「本当に甘いわね」
「ダニエルなら柑橘系になってくれると思ったんだけどなー」
なんだろう……熟したメロンの甘さだ。
「甘いわねぇ……」
言葉を発さずニコニコしていた魔女さんも驚いている。
「エリリン、皆のフェリフェリちゃんはどうだった?」
魔女さんは私たちの空気を邪魔しないようにいつも控え目にしていて、姿もそんなに現さないし、あまり言葉も発しない。
でも今は、感想を聞いてみたいと思った。
「そうねぇ……それぞれの味があって、とっても素敵よぉ〜。長く生きていても、新鮮な驚きはあり続けるのねぇ。ここに呼んでくれてありがとう」
ユリアちゃんとカルロスが何歳なのだろうという顔をしている。
この果実の味に何が影響するのか……知っていても教えてはくれないだろうけど、魔女さんに驚きがあったのならすごく嬉しい。
「それでは、皆様の残りの実をフルーツサンドにしてきますね」
ニコールさんがにこやかに下げようとしてくれる。
「あ、そのついでにニコールさんとソフィにも食べてほしいな。せっかくだし」
「いえ、私たちは……」
「確かにそうよ。これを手配してくれたんだもの。食べる権利はあるはずだし、私も二人に食べてほしいわ」
「え、その……」
「ニコール、食べておけ」
「……分かりました。一つずついただいておきますね。それでは失礼します」
そうして私たちは、どれが誰のか分からないフルーツサンドに入った実を「これはジェニーの味だ!」なんて言いながら皆で頬張った。
定期考査の試験結果は来週だ。答案やコメント入りのレポートが返される。順位は休み明けだ。
全てを忘れて、夏季休暇初日の来週末は皆でプールを楽しもう!