139.水着選び
そして翌日……急きょ私たちは三人で水着を買いに来ている。昨日、魔女さんと話した直後にレイモンドの誕生日が二日後に迫っていることを思い出したからだ。
こんな婚約者で可哀想だよね……。
ソフィに同行を頼む時間もないし、レイモンドに隠れ家までついてきてもらってサヨナラも可哀想。ジェニーと行動すれば自動的に護衛もひっそりとついてくるからレイモンドも安心だ。
というわけで、水着選びも兼ねて雑貨屋さんにも付き合ってほしいと二人にこっそりと提案した次第だ。
「よくこんな店知っていたわね、アリス……」
「ソフィに聞いたの。露天風呂で失敗した話をした時に、私に似合う水着が置かれそうなお店がありますよって。もう少し経てばきっと並べられるって言ってたけど、よかったぁ〜」
「ふふ、あの時は心配したわ。ソフィさんのお陰で元気になったのね」
この世界の水着は、そんなに露出度は高くないようだ。ビキニにはスカート付きがメジャーっぽい。
「私には合わなさそうなのがいっぱいですね……」
「何言ってるの、ユリアちゃんに似合うやつだらけだよ。猫耳とかつけたら最強だと思う」
「猫耳……?」
この世界にそんなジャンルはないのか!
「こっちの話。ユリアちゃんは緑の髪だし真面目ちゃんな雰囲気だから、これなんかどうかなー」
セーラー服っぽいデザインで大きな緑のリボンが中央にある。上も下も裾がひらひらで、おへそがチラ見えするかどうかって感じ。ひらふわスカートビキニにも緑のリボンが両サイドについている。
「いいじゃない、ユリア。試着してみたらどうかしら」
「え……ええー……、似合いませんよ、きっと」
「ほらほら、早く行ってきて」
試着室へと彼女を押し込める。
私たちに強くは出れないようで、諦めて頷いた。……悪いことしてるかな。
「私はこれかしらね……」
Vネックの青一色のフリルビキニかぁ。
いつものジェニーのイメージすぎる。
「せめて水玉くらい入れとこうよ、ジェニー。私の色気のなさを誤魔化すためにも、可愛さも入れようよー」
あまりヘタなのを勧めると、この前みたいにすぐに着替えてしまうかもしれない。控え目にしよう。
「謙遜しないで。そうね、少しくらいは……。こっちを着てみようかしら」
「絶対似合う似合う」
大きなレース付きの青と白の水玉模様のワンピース水着。リボンは可愛いのに背中がぐいっと開いていてセクシーだ。
「あ、の……着替えました……」
「うわー! ユリアちゃん可愛いー!」
「すごく似合っているわよ、ユリア」
「私の趣味がおかしくなっていくような錯覚に陥りますね……」
この世界に来たばかりの私みたいなことを言ってる。
「それにしよう、それに」
「次は私が試着してくるわね」
こうして、キャーキャー言いながら私たちは水着を購入した。支払いはどこからともなく現れたジェニーの護衛さんがしてくれた。
私の水着に関しては、レイモンドの口出しがあるかもしれないからと、なぜか三着買ってもらった。私好みのとジェニー好みのとユリアちゃん好みのと……もしかして友達にすら甘やかされているのかな。
どれをレイモンドが希望したのか、あとで教えてと言われたあたり……面白がられている可能性もある。
人のを選ぶとなると、冒険し放題だよね……。
「それじゃ、次は雑貨屋さんね」
「誕生日プレゼント、何も思い浮かばない……というか昨日まで忘れてた」
「さすがにフォローできないわね」
「熟年夫婦だとそうなるって言いますもんね」
熟年!?
もう落ち着いちゃってる!?
「何もかも新鮮だったあの頃を思い出さないと……」
「アリスったらノリがいいわねー。両思い期間が長いものね」
「誕生日を忘れるのは駄目だよね……」
「レイモンド様なら許していただける気がしてしまいますが」
「うん。許してはくれるだろうけど、ショックは受けそうだしなぁ」
代わりに何をしてくれるのかなとか聞かれそう。それにしても、キャッキャワイワイしながら女の子同士でショッピングは楽しいよね。
この日は、ニコールさんにも断ったうえで昼食も一緒に外で食べて、思う存分三人の時間を楽しんだ。私が選んだ誕生日プレゼントは色違いでお揃いの日記帳だ。一冊で一生分は収まりきらない。二冊目はこれにして、いつか魔女さんの本棚に一緒に並ばせてもらえればいいなって。
二日後、これを受け取った彼が言う。私の一冊目も色違いのお揃いだって。召喚前に用意して私の部屋に置いたんだって。
お揃いだーって思いながらレイモンドも日記を書いていたんだなって思うと……やっぱり可愛い。ここに来たばかりの私なら、「変態、キモい、ウザい」って思っていたに決まっているけどね!